第16話:決勝戦までの一週間、徹底的に【勇者候補】たちを訓練漬けにした話
アレクトロン王国チームとジプティア王国チームの準決勝第二試合はアレクトロン王国チームの勝利で幕を閉じた。
【天武会】、決勝戦の相手はアレクトロン王国チームに決定した。
――ダルバート王国、町外れの荒野――
「ルシア先生ー、こんななーんにもないところでどうするのさー」
ルーシーは辺りをキョロキョロ見渡して私に質問をした。
「朝早くからご苦労。これから、決勝戦までの一週間ここで合宿をする」
私は昨夜徹夜で作戦を練り、準備をした。
「えっ、ここでですか? 一週間ずっと?」
マリアが驚いた顔をした。
「もちろん、ずっとだ。生活の全てを鍛練の為に、朝から晩までずーっと訓練ができる。そして、これに耐え抜ければ、今までにないほどのパワーアップが出来るだろう」
私は全員の顔を確認しながらそう言った。
「ずっと訓練漬け……」
「……パワーアップか」
「ここで寝泊まりですか……」
【勇者候補】達は呆然としていた。
「で、ルシア。耐え抜いてパワーアップはいいけど、それで勝てるの?」
エリスは私の顔をまっすぐ見つめて尋ねた。
「そうですね。勝つための最低条件かと……」
私はエリスの質問に答えた。
「やるわ。せっかく【天武会】の優勝の為ならってお父様にも外泊の許可をもらえたし。堅っ苦しいお城から一週間も解放されるなんて、訓練漬けでも天国よ」
エリスはニコリと笑った。
「エリス様がやるなら、ボクも頑張るよ」
ルーシーは手を上げてそう言った。
「私もここまで来たからには優勝したいですし、やります!」
マリアは力強く返事をした。
「……睡眠時間だけは絶対にきっちりと取るからな」
ターニャは相変わらずの調子だった。
「あそこに昔使っていた、作業者用の小屋があった。とりあえず、徹夜で私がリフォームをしておいたから衣食住はあそこで済ませる。今、ラミアに朝食を作らせているから、それまでにこれからの訓練についての説明をしようか。まずは、昨日のアレクトロン王国についてだ――――」
エリス以外は昨日の試合を見ていないので、私はアレクトロン王国チームの様子を口頭で伝えた。
「――――とまあ、こんな感じだった。【魔法剣士】対策が今回の特訓の急務といった感じになる」
私は説明を終えた。
「……ルシア先生、口頭じゃ【魔法剣】が凄いとか言われても伝わらない」
ターニャは私に意見を言った。
まっ、そりゃそうだ。
口下手な私が出来る事とすれば【実演】だろうなぁ。
「うん、それじゃあ見せるよ。【魔法剣】をね」
私は鋼の剣を手に取った。
さすがに、木刀ではこの技は出来ないからだ。
【魔法使い、剣士スキル同時発動】
中級炎系魔法+竜神斬り=神焔一閃
――ズバドォォォォン
半径10メートルくらいのクレーターが荒野に刻まれた。
「これぐらいの威力だったよー」
私はクレーターの中から手を振ってみんなに伝えた。
我ながら力加減は完璧だったな。
昨日の技の威力を完全に再現できた。
あれっ、エリス様以外の顔が引きつってる……。
「るっルシア先生、これって本当に同じ【勇者候補】が使ったの? ははっ、こんなの一発まともに受けたらアウトじゃん……」
ルーシーは泣きそうな顔になった。
「確かにこれほどの威力とは、私の【真空正拳突き】のようなものとばかり思ってました」
マリアは戦慄した。
確かに、マリアの技も【魔法剣】ならぬ【魔法拳】だからな、原理は同じだ。
「……でも、戦うしかない。どうするんだ? ルシア先生」
ターニャはもう落ち着いていた。
「見ての通り【魔法剣】は強い。魔法の威力に斬撃のパワーが掛け合わされ、一点の破壊力が爆発的に上昇するからだ。ただ、弱点というか、君達にもできる対抗策はある。非常に難易度は高いが……」
私は説明を始めた。
「本当に! そんなものがあるの? こんなことを言うべきじゃないけど、想像ができないわ」
エリスは私の言葉に反応した。
「それは、より強い【魔法剣】で対抗することだ……」
私は答えを話した。
「そんなの無理だよー。今から練習したってボクじゃ剣術なんてとても無理だし、エリス様が努力家でも魔法は……」
ルーシーが反論した。
「うん、一週間で【魔法剣】を使おうなんて無理だよ。普通はね、でも裏ワザを使えば何とかなる。しかも、威力はさっきのよりも上だ」
私は再び説明を始めた。
「裏ワザ? それはどのような方法なのですか?」
マリアは首を傾げる。
「うん、これから【実演】するよ。よいしょっと」
私はまたもや、見せたほうが早いと思い、【実演】を開始した。
【忍者スキル発動】
分身の術(2体)
「私が今からルーシー役の【魔法使い】ルシアだ」
「そして、私がエリス様役の【剣士】ルシアだ」
私は2人に分身して二役を演じる。
【魔法使い】ルシア→【剣士】ルシア
【魔法使いスキル発動】
最上級火炎魔法
片方の私がもう片方の私に向かって魔法を放つ。
【剣士】ルシア
【剣士スキル発動】
十字斬り+最上級火炎魔法=鳳凰十字斬
――ズギャバドォォォォォォォンッ
今度は半径20メートルぐらいの更に大きなクレーターが出来た。
「なっ、さっきよりも大きい威力だったろ?」
私は1人戻って、みんなに声をかけた。
よし、これでみんなも希望が持てたに違いない。
「ねぇ、ルシア。確かに凄い威力だけどさ。これって一歩間違えるとあたしが丸焦げよね? というか、斬撃のタイミングと魔法のタイミングが完全に一緒じゃないとこんなの出来ないわよ。リスクも難易度も高いのね……」
エリスは私の技の難しさにすぐに気が付いた。
「ええ、そうです。更に相手は地面と違って動きます。だから実際は難易度は今のよりも高いです。タイミングがズレればただの二段攻撃に成り果てますし。ですが、修得出来ればアレクトロン王国の【魔法剣士】の【魔法剣】には必ず打ち勝てます。何故なら、【最上級の攻撃魔法】は必ず両手を使いますので、普通は【魔法剣】に出来ないからです」
私はエリスに説明を追加した。
「…………分かったわ。それくらいの無理が出来ないと勝てないならやるしかないもんね。指導、よろしく頼むわ。いいわよね? ルーシー」
エリスはスッキリとした表情になった。
「うっ、うん。ボクも頑張るよ!」
ルーシーはガッツポーズをとった。
「よし、じゃあ朝食を食べたら早速練習に取り掛かろう」
私はそう言って、ラミアが待っている小屋に向かった。
朝食を食べた終わると、まずはエリスとルーシーに2人で成す【魔法剣】のコツを説明した。
そして最初は初級魔法との複合から練習をさせた。
これなら万が一、魔法がエリスに直撃しても軽傷で済むからだ。
「きゃっ、また失敗……。ルーシー、もうワンテンポ早くできる?」
エリスはタイミングを合わせることに苦戦していた。
「はい! これくらいでどうですか?」
ルーシーは握りこぶしくらいの炎をエリスに向かって放つ。
「…………今ね! はっ!」
エリスは思っきり剣を振りおろした。
――ズバォン
地面に半径2mくらいの小さなクレーターが出来た。
「やったわ。5回に1回くらい成功するようになったわね」
エリスはホッと胸をなでおろした。
「これだけ小さい炎でもこんなに難しいなんて……。いや、ボクは頑張るって決めたんだ。エリス様、先ずは初級魔法で百連続成功させましょう」
ルーシーはエリスに目標を話した。
よし、この2人は大丈夫だ。
次はマリアとターニャだ。
「……私達は【魔法剣】の修得はないから多少は楽だな」
ターニャはマリアにそう話しかけた。
「そうでしょうか、私は嫌な予感がするのですが……」
マリアは不安そうな顔になった。
その通りだマリア、悪いが楽はさせないよ。
「さて、【魔法剣】でエリス様とルーシーが【魔法剣士】と戦う。じゃあその間、君たちは誰と戦う?」
私は簡単な質問をした。
「……そんなの簡単だ。【聖戦士】、【賢者】、【槍使い】の3人を相手にする。あっ……」
ターニャはすぐに答えて、先程の発言の安易さを呪った。
「えっ、ターニャ。そうなのですか? 2人で3人と戦うことになるのですか?」
マリアはことの重大さに気づいた。
「……エリス様とルーシーは【魔法剣士】の相手で手一杯に決まってるからな。はぁ、面倒だ」
ターニャは心底嫌そうな顔をした。
そういう顔はやめなさい。
確かに無茶をさせるが、それを何とか出来るのはお前のセンス次第なのだから。
「でも、そのための訓練とは何をすればいいのか全くわかりません」
マリアは腕を組みながらそう言った。
「うん、すっごくシンプルな訓練だよ。じゃあ模擬戦をしようか、【私達】仮想アレクトロン王国チームと……」
私はそう言い終わると、模擬戦の準備をした。
【忍者スキル発動】
分身の術(3人)
「私が【聖戦士】をやろう」
「では、私は【賢者】だな」
「ん、わかった。【槍使い】は私だな」
私は3人に分身して、アレクトロン王国チームを再現した。
「それじゃ、これから毎日私達とひたすら戦い続けるぞ」
「まっ、さすがに全く同じとはいかないが、大体同じ戦闘力でいくから、気を抜くな」
「試合開始!」
私の分身とターニャ、マリアのコンビが戦いを始めた。
結果として、10分で2人は立ち上がることが出来なくなった。
「はぁ、はぁ、上級職の相手だけでも辛いです……。その上、人数まで多いとなると……」
マリアは愕然としていた。
「……ルシア先生。回復してくれ。次はもっと何とかする……」
ターニャは目をつぶりながらも闘志を見せた。
この子は殻を破りかけているかもしれない。
決勝戦までに間に合わせなければ……。
模擬戦は回復を何度も繰り返しながら何時間も続いた。
少しずつ、戦える時間が長くなり、マリアとターニャのコンビネーションも良くなってきた。
エリスとルーシー、マリアとターニャが各々コンビネーションに特化した訓練は連日続いた。
スケジュールは毎日以下の通りだ。
起床、早朝ランニング(100キロメートル)、朝食、午前訓練(私は主に魔法剣の指導)、昼食、午後訓練(私は主に模擬戦の相手)、夕食、自由訓練、就寝。
この生活を一週間、毎日みっちり行なった。
そして誰一人として、音を上げることなく特訓を終えた彼女たちのレベルは信じられないくらい上がっていたのである。
「よし、これなら実践でも使えるわ! ルーシー、頑張りましょう!」
「はい、エリス様。どんなタイミングでも合わせてみせます」
「……いい加減、2対3にも慣れた。というか飽きた」
「ターニャさん……、凄いです。あとは私がサポートを上手くすれば……」
ダルバート王国チームは、厳しい訓練の末に進化を遂げていたのだ。
そして、いよいよ【天武会】決勝戦の日がやってきた。




