第14.5話:ルシアの知らないその後の話(三人称視点)
ボルメルン帝国の城下町の外れに大きな森があった。
そこにひっそりと佇む大きな黒竜。
さらに、赤紫色の髪の紫色の羽が生えている露出度の高い衣服を着たサキュバスと呼ばれる淫魔が黒竜の傍らに立っていた。
その場所に近づく無精髭で前髪の長いトレンチコートを着た男。
男が近づくとサキュバスは跪く。
「お待ちしておりました魔王様」
開口一番サキュバスはそう言った。
「おーい、レイラちゃん。こっちでは僕の名前はジェノスって言ったでしょうが」
男は魔王と呼ばれた。
「はっ、申し訳ございません。ジェノス様。【天武会】を楽しみにされているのは重々承知していましたが、急にお呼びしてしまい……」
レイラと呼ばれたサキュバスは頭を下げ続ける。
「ああ、いいよいいよ。レイラちゃんのせいじゃないもん。楽しい出会いもあったしさ。これ見てよこれ」
ジェノスは嬉しそうに頬の傷をレイラに見せる。
「きっ傷ですか? バカな、魔王様が傷付かれるなんて……」
レイラは驚愕した。
「だから、ジェノスだってば。僕も驚いたよ。ここ150年くらいで初めての体験だったからねぇ。ルシアちゃんかぁ、是非とも現役復帰して欲しいね。僕のライバルになれる逸材だよ、彼女は。ふふっ」
ジェノスはニヤリと笑った。
「はぁ、ライバル……ですか? 失礼ですが、ジェノス様にそのようなものは不要では?」
レイラはジェノスにそう尋ねた。
「わかってないねぇ。僕ぁ退屈なんだよ。せっかく作った魔王城には150年以上経っても誰も辿り着かないし、たまに出張って適当に勇者達の相手をしても一方的に虐殺するだけで戦いにすらならないんだから。神も女神も才能ある奴を選んだり【天武会】を開いたり努力は認める。【天武会】は興行としちゃあ凄く面白いし。ただ、戦う相手にすると全然物足りないんだよねぇ」
ジェノスは腕を組みながらそう言った。
「結構なことじゃないですか。ジェノス様が天地魔界最強のおかげで我々も世界征服に邁進できるのですから。そもそも、魔王城の場所に至る迷宮はジェノス様の自信作なのですから、人間ごときが辿り着けないのは当然かと」
レイラは誇らしげな顔をした。
「それが嫌なの。先代も、先々代の魔王もこだわりを持って格好いい魔王城を作っていたんだ。その奥で待ち構えていてさぁ、意味深なセリフを吐いて、勇者のパーティーと死闘を繰り広げるんだよ。いいかい、魔王の醍醐味はこれなの。勇者との死闘がない魔王なんて、イチゴのないショートケーキだよ。僕ぁ、あれに憧れて魔王になったんだから。ルシアちゃんなら僕の夢を叶えてくれそうなんだよねぇ」
ジェノスは頷きながら話した。
「左様ですか、私はショートケーキは生クリームが美味しければイチゴには重きを置きませんが……。……コホン、あと私にはジェノス様と対等に戦える者の存在など皆目見当もつきません」
レイラは淡々とした口調だった。
「それは残念だなぁ。まっ、いいよ。【天武会】の決勝戦は何があっても絶対に見に行く約束してるから。予定を入れちゃ駄目だよ」
ジェノスはレイラに指示を出した。
「承知致しました」
レイラは短く答えた。
「じゃあ行こうか」
ジェノスはレイラと共に黒竜に乗って空に消えた。




