第13話:準決勝をラミアと知らないオジサンと一緒に弁当を食べながら応援する話
【天武会】、準決勝がついに始まった。
全世界に中継されている中、ダルバート王国チームは前回優勝したボルメルン帝国チームに勝てるのか?
――【天武会】、観客席――
「いやー、先に関係者の特権で席を予約しといて正解だったな。準決勝から各国のファンが詰めかけて、中々座れないからね。席で見れない人は外の水晶から観戦するしかないんだよ」
私は最前席に弁当とお茶を持って座った。
「あー、ルシアール様。ご飯食べながら見るんですの? 皆さんが頑張っていらっしゃるのに……」
ラミアが横目で私を見る。
だって、今日から販売される【天武弁当】は限定200食ですぐに売り切れるんだもん。
「とっとにかく、序盤はエリス様とターニャに注目だよ。ほら、動き出したぞ」
私は話題を目の前の戦闘に変えた。
まずはターニャが、得意の体術でカインを翻弄していた。
カインの武闘家としての実力はかなり高かったが、開始直後ということで若干動きが固く感じられた。
ターニャ→カイン
【仙人スキル発動】
秘孔束縛
ターニャはカインのツボに正確に鋭い突きを放った。
「うん、私が教えたように敵の体が攻めに転じて、筋肉が弛緩する瞬間を狙えている」
ターニャの攻撃のタイミングは見事だった。
カインの両手がだらんと下がり、身動きが取れなくなった。
エリス→カイン
【剣士スキル発動】
十字斬り
エリスの剣がカインの体を切り裂こうとした。
しかし、カインは何かを叫びながら、エリスの剣撃を左腕で受け止めた。
カインの左腕から鮮血が飛び散る。
カインは切られた左腕をそのまま動かしてエリスの腕を掴み投げ飛ばした。
エリスは地面に叩きつけられた。
エリスとターニャの奇襲は失敗に終わった。
「ルシアール様、完璧なタイミングではなかったのですか?」
ラミアが私の方を見た。
「うーん、タイミングは良かったんだけど、多分カインは尋常じゃないくらい硬い鋼の肉体を持っているね。あれは、相当な力じゃないと技が完全に効かないな。ターニャは仙術込みでも腕力はそんなに強くないからね」
私はラミアに説明した。
おそらく、ターニャなら技をかけた瞬間それも悟ったと思う。
いつもの彼女ならここで消極的になってしまうが……。
ターニャはエリスに手を貸して立ち上がらせ、後衛のルーシーとマリアと合流しようとした。
しかし、退くスピードが遅すぎたようだ。
2人はボルメルン帝国チーム全員に囲まれていた。
「ルシアール様ぁ、弁当を食べている場合じゃありませんの。大変ですよぉ」
ラミアは私の襟を掴んでガクガク揺すった。
キラービーの幼虫の唐揚げが旨くってつい、2個目を食べようとしていたのだが、無理そうだな。
あーあ、囲まれちゃったのか。
まぁ、無傷は難しいだろうな。
どうするか?
2人の【賢者】アマンダとフローラが魔力を両手に集中しだした。
最上級クラスの攻撃魔法を使うつもりか、遊び無しで一気に決める気だな。
アマンダ→エリス
【賢者スキル発動】
最上級氷系魔法
フローラ→ターニャ
【賢者スキル発動】
最上級風系魔法
アマンダとフローラの攻撃魔法がエリスとターニャを襲う。
エリスはかろうじて左腕に魔法が掠める程度で攻撃の直撃を避けた。
そして、そのままアマンダの方に直進していく。
アマンダはすぐに攻撃の姿勢をとるが、動作が追いつかず、エリスは包囲網を突破した。
ターニャはあえて風系魔法が放たれる瞬間、猛スピードでフローラに近づき、全身がズタズタに切り裂かれたが、風系魔法の余波がフローラ自身にもぶつかり、そのスキをついて包囲網から抜け出した。
この日まで、基礎体力向上に特化させておいた甲斐があって、最上級魔法をまともに受けても戦闘不能にならなかったのは大きかった。
結果、エリスは左腕を凍傷、ターニャは全身に切り傷を負いながらもパーティーに合流することが出来た。
「ああ、ターニャさんが傷だらけにぃ、エリス様も……。ルシアール様、なんでこの状況でまだ食べたり出来ますの?」
ラミアは私の肩を揺らした。
やめろ、口の中にまだ唐揚げが……。
「むぐぐ」
私は喉が詰まってしまった。
しまった飲み物がもうない……。
「ルシアール様、ターニャさんが大ピンチですよー」
ラミア、とにかく揺らすのはやめてくれ。
まさに今ピンチなのは私だ、いかん……死ぬぅ。
「あっ、良かったらコレ飲むかい?」
隣に座っていた前髪の長い無精髭を生やしたトレンチコートを着た黒髪の男性が私にお茶を渡してくれた。
「ごくごく。ぷはー、あっどうも。すみません」
私は隣の男に感謝した。
親切な人って居るもんだな。
「礼には及ばないよ。いやぁ、ダルバート王国チーム、いい判断だったなぁ。あんな捨て身の脱出思いついても普通はやらないねぇ。ありゃあ、指導者が相当なドSだよ」
隣の男はクスクスと笑っていた。
はい、私が指導しました。
「あなたは一体……」
それにしても、ひと目でそこまで見抜くとは、このオジサン何者だ。
「僕ぁ、【天武会】の大ファンさ。今回の推しチームは断然ダルバートだねぇ。みんな可愛い女の子だし……。おっ、何かをまた仕掛けるみたいだぞ」
隣の男は上機嫌そうに指さした。
重症のターニャはマリアに回復呪文を施されていた。
それゆえ、エリスとルーシーが一時的に前衛を担当している。
そこにカインを先頭にボルメルン帝国チームが全員、ダルバート王国チームに向かってきた。
カイン→エリス
【武闘家スキル発動】
猛虎神撃
カインの丸太のような腕から繰り出される剛拳がエリスを襲った。
エリス→カイン
【剣士スキル発動】
嵐車斬り
エリスは剣で土煙を巻き上げて、煙幕を作った。
カインの拳は空振りに終わる。
その直後、アマンダとフローラがエリスを魔法で狙おうと構えた。
しかし、ここで事態は一変する。
なんと、カインがアマンダとフローラに攻撃を仕掛けたのである。
ルーシー→カイン
【魔法使いスキル発動】
意識混乱魔法
カインは混乱し仲間を相手に大暴れを始めた。
「ルシアール様ぁ、ルーシーさんがやりましたわ」
ラミアは喜びながら私の肩を揺らした。
だから、飯食ってるときにそれはやめろ!
「ほぅ、いいタイミングだねぇ。やっぱりダルバート王国チームは面白い。戦闘力の差をスキルの使いどころで補っているねぇ」
隣の男はしきりに頷いている。
カインを混乱させたことは戦局に大きな影響を与えた。
混乱状態を解除するには物理的な衝撃を与えることが最も手っ取り早い。
しかし、カインの鋼の肉体は生半可な衝撃では効果は薄いらしく、2人の【賢者】はカインの混乱状態を解けずにいた。
しばらくすると、ターニャが回復し前線に復帰した。
ダルバート王国チームとボルメルン帝国チームは実質5対3の状況になっていたのである。
エリス→アマンダ
【剣士スキル発動】
スリーパーソード
アマンダはエリスのいきなりの睡眠攻撃に面食らい、一瞬意識が飛んでグラついた。
ターニャ→アマンダ
【仙人スキル発動】
秘孔束縛
意識が飛んだ瞬間を見逃さずにターニャがアマンダのツボを射抜いた。
アマンダは脱力し、地面に伏してしまった。
エリスとターニャはそのまま、ロレンスのサークレットを狙い駆け出した。
「ルシアール様、これはチャンスですの?」
ラミアは私に話しかけてきた。
「千載一遇のチャンスだよ。ここで早めに決められないと色々とまずいな」
私は弁当をおいて試合に集中した。
「どうしてですの?」
ラミアは不思議そうな顔をした。
「手の内がほとんどバレてしまったし、フローラはまだ無事で当然マリアのサークレットを狙いに来る」
私は状況を説明した。
「そうなんだよねぇ。カインくんとアマンダちゃんが復活すると絶対的に不利だから、その前には決めちゃわないとまずいなー」
隣の男も私に同調する。
私達の予想通り、フローラはマリアに向かって走っていた。
しかし、ルーシーが目の前に立ち塞がる。
フローラ→ルーシー
【賢者スキル発動】
最上級風系魔法
ルーシーは咄嗟に防御したが、体が切り裂かれながら、吹き飛ばされてしまった。
そして、フローラは再びマリアの元に駆け出そうとした。
しかし、体が激しく痙攣しだして動けなくなった。
マリア→フローラ
【武闘家スキル発動】
大声砲弾
なんと、ボルメルン帝国チームはリーダーのロレンス以外が一時的に行動不能に陥る事態になっていた。
そして、ロレンスにエリスとターニャのコンビが必死の表情でサークレットを狙う。
ロレンス→エリス、ターニャ
【聖戦士スキル発動】
闘気光弾
ロレンスは左右の掌から闘気の塊を大砲のように打ち出して牽制する。
エリスもターニャも近距離主体なので、一定の距離を取られると攻撃が中々難しい状況だった。
エリス→ロレンス
【武闘家スキル発動】
大声砲弾
エリスは近づくことが難しいと感じて、声の波動をロレンスに仕掛けた。
ロレンスはほんの一瞬だけ硬直した。
ターニャ→ロレンス
【仙人スキル発動】
流水乱舞
ターニャはその一瞬がくるタイミングを事前に察知したのか、ロレンスが硬直した瞬間に必殺の連撃をサークレットに叩き込んだ。
――バリンッ
『ワァァァァァァ!』
破裂音と共に会場と水晶が置かれている外の広場から大きな歓声が聞こえた。
「ボルメルン帝国チーム、サークレットの破壊を確認。よってダルバート王国チームの勝利!」
この瞬間、ダルバート王国チームの決勝戦進出が決定した。




