第10話:観戦中に勇者達に絡まれて、少しげんなりした話
【天武会】の2回戦が始まった。
ブルズ共和国の防御の硬さと回復魔法に苦戦するエリス達だったが、特訓の成果【魔力封じのダンス】が成功し、勝利への兆しが見えた。
「すごいですわ。変な動きを所々でされていたのはダンスを踊っていたからなのですね」
ラミアは感心していた。
「その通り、もっともブルズ共和国チームの攻撃が消極的だからこそ使える手だけどね、もしも、パルナコルタみたいな火力のチームだったら踊り中にやられちゃうし……」
私はブルズ共和国の弱点を突く作戦を実行させた。
「魔法が封じられて、ブルズ共和国は素手で攻撃を始めましたわ。【武闘家】もいるみたいですよ」
ラミアは指をさしてそう言った。
「うん。前回の戦いでもケビンとレベッカの連携技でサークレットを破壊していた。さて、エリス様とターニャはどう動くかな」
私はこのあとの展開を見守った。
ケビン、レベッカ→エリス、ターニャ
【武闘家スキル発動】
双龍拳
ケビンとレベッカの拳が龍のように不規則な動きでエリスとターニャを狙う。
しかし、エリスはダメージを覚悟して拳を受けとめ、ターニャは相手の動きを正確に読んでカウンターを入れようとした。
エリス→ケビン
【剣士スキル発動】
嵐車斬り
ターニャ→レベッカ
【仙人スキル発動】
流水乱舞
エリスは地面を剣で打ち上げて土煙を起こし、相手に生じたスキをついて剣撃を放った。
ケビンはエリスの剣の直撃を受けて倒れた。
ターニャはレベッカの拳法を完全に見切って、流れるようにフェイントを入れながら動き、カウンターでレベッカの顎や鳩尾に連撃を放った。
レベッカは急所を正確に打たれてしまい、バタリと地面に付した。
こうして、主力戦力を倒したダルバートチームはその勢いのまま、【勇者役】のメルに向かっていった。
そして……。
「ブルズ共和国チーム、サークレットの破壊を確認。よって、ダルバート王国チームの勝利です!」
我々は準決勝へとコマを進めたのである。
「やったぁ、勝ちましたよールシアール様ぁ」
ラミアは喜びながら私に抱きつく。
あぁ、わかってる。
まったく、凄いものを見せてもらったよ。
私の教えを実行して、生徒達が勝利する。
こんなに嬉しいものなんだな。
正直言って自分が勝つより嬉しい……。
あと、ラミアよ、私が笑っている内に自重しろ。
それ以上は本当に許さん。
――【天武会】、ダルバート王国チーム、控室――
「今回も何も言うことがないくらい、完璧な戦いだった。あと2回勝てば優勝だ。今日はしっかり休んで明日からまた頑張ろう」
私は【勇者候補】達を労った。
「はぁー、腰が痛い……」
「私もです、ダンスは当分いいかもしれません」
ルーシーとマリアが腰を擦っていた。
「…………zzzz」
ターニャは転がったまま寝てしまう。
「ルシアール。いよいよ、優勝が現実味を帯びて来たわね。次も頼んだわよ。あたし、あんまり疲れてないから偵察に付き合うわ」
エリスは本当に底なしの体力だ。
――【天武会】、観客席――
さあて、準決勝で戦うのはどんなチームかな。
私は次の対戦国をチェックした。
前回優勝で開催国のボルメルン帝国と古豪ムラサメ王国か。
ムラサメ王国のソウルミュージックの演歌は私は大好きだ。
順当に行けば、ボルメルン帝国に分がありそうだが。
うちみたいな番狂わせがあるかもしれないし、最後まで分からんな。
「さすがにどちらも強そうね。ムラサメ王国は忍者と侍のみの構成みたいだけど、どうなのかな?」
エリスは私に質問した。
「忍者のスキルの忍術は難しいですが体力の消耗が少ない上にかなり強力です。侍は剣士と似てますが、一撃必殺のような技が多いのが特徴ですね。修練を積まれると厄介な職業といえます」
なんせ、私もよくこの2つの職業のスキルは使うからな。
便利すぎる。
「そっかー。ボルメルン帝国は……、あの2人って【賢者】じゃない? 上級職ね……。こりゃ強いや」
エリスの言う通り、特に番狂わせもなく、ボルメルン帝国があっさりと準決勝進出を決めた。
ムラサメ王国もかなり強かったが相手が悪すぎた。
私達の次の対戦国は前回優勝のボルメルン帝国だ。
「ルシアール様。なぜあんなに【賢者】って強いんですの?」
ラミアは私に質問した。
「それには、僕がお答えしましょうラミアさん」
うへぇあ、アレックスじゃん。
なんで、こっちに来てるの?
「結構ですの。わたくしはルシアール様とお話し中ですわ」
ラミアはぷいとそっぽを向いた。
「ぐぬぬ。相変わらず手厳しいですね。【賢者】とは上級職と言われるものでして、【魔法使い】と【神官】をある程度極めた人間しか職業につけないのですよ」
アレックスは髪をかき上げて話した。
お前こんだけ拒絶されて、よくしゃべれるな。
「うちのパーティーにもいますよ。【賢者】ティアナが……」
アレックスは自慢気に話した。
わかったから、どっか行ってくれ。
「あら、ルシアール様。奇遇ですね。今日も凛々しくて素敵……。先日は失礼しました。ねぇ今度一緒に食事でも……」
ティアナよ、胸を押し当てるのは得意技か?
生憎、ラミアでもう胃もたれおこしてるんだが……。
あー腹立つなこいつら。
「あの、すみません。あたし達、そろそろ国に戻る時間ですので……」
エリスは手を叩いて、この場から私達を遠ざけようとしてくれた。
「そうなんですよ。残念ですが、これで……」
私は頭を下げて、ラミアの手を引いてこの場を離れた。
「ああん、ルシアール様ったら強引ですわぁ」
ラミアは手を引かれながら戯れ言を宣う。
アホ堕天使、口には気を付けろ。
うわぁ、めっちゃ睨んでるよ。
――ダルバート王国への帰路――
私達は【勇者候補】達を連れて馬車に乗りダルバート王国に戻る。
【賢者】対策か……。
中々の難題だな。
そもそも、上級職の中でも【賢者】は強い。
攻守のバランスの高さで言えば【勇者】の次くらいだ。
弱点は少し力が弱いくらいかな。
魔法封じも効けば有利だが、踊ってる間にこちらが倒されるのがオチだろう。
【賢者】といえば、ティアナか。
あいつ弱点あったけかな……。
私は勇者のパーティーでの戦いの経験を思い出せ……。
いや待てよ、そういえば【賢者】の弱点というわけじゃないが、昔格下のモンスター相手に全滅しかけたことがあったな……。
何があったんだっけ?
「あっ、そうだ……」
私は思わず声が出てしまった。
「どうしたの、ルシア。突然声を出して」
エリスが私の顔を覗き込んできた。
「見つかりましたよ。ボルメルン帝国に勝てるかもしれない方法が……」
私はエリスの目を見て言った。
「ちょっと、それマジなの? 早く教えてよ」
エリスは興味津々みたいだ。
「ええ、ただこれまでよりも無茶な特訓になりますが、大丈夫ですか?」
私はエリス達に尋ねた。
「えっ……今までよりも……。だっ大丈夫です」
「うーん、ここまで来たら絶対に勝ちたい! ボクも頑張るよ」
「…………任せろ」
【勇者候補】達はやる気があるみたいだ。
「まぁ、あたしもこの子たちのやる気には負けないつもりよ。どんな特訓だってドンと来なさい」
エリスは胸を張ってそう答えた。
「わかりました。心を鬼にして、特訓メニューを作ります。ふっふっふ」
よしっ、許しは貰った。
それでは、作ろう地獄の特訓メニューを。
「ちょっと、その顔はなんなのよー。限度ってものがあるからね。なんか、果てしなく嫌な予感がするんだけど」
エリスが騒ぎ出したが、もう私の中では特訓メニューが出来上がりつつあった。
「ルシア様、何だかとても楽しそうですわ」
ラミアは私の顔を見てそう漏らした。
ああ、楽しくて仕方がない。
強くなっていく、彼女達を見ることが……。
まるで、スポンジのように色々なことを吸収して実行する。
教える側として、これ以上の幸福はないよ。
「なんか、ルシア先生ニヤニヤしてるよー」
ルーシーは不安そうな顔になった。
「こっ怖いですね。私達は一体どうなるのでしょう」
マリアも少し泣きそうだ……。
「……安心しろ、骨は拾ってやる」
ターニャは相変わらずマイペースだった。
私だって鬼になるとは言ったが決して血も涙もないわけじゃない。
大丈夫だ、人がどのくらいで死ぬのか測るのは割と得意だから。
限界ギリギリを見極めてやるから安心しろ。
「いや、逆に怖いわよ。どんな修羅場潜ったらそんな事が特技になるのよ」
エリスが完全に引いていた。
馬車はダルバート王国に向けて夕方の道を走っていた。




