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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あまりてなどか

作者: たびー

たびーさんには「午後は眠気との戦いだ」で始まり、「全部嘘だよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば13ツイート(1820字)以上でお願いします。

#書き出しと終わり

https://shindanmaker.com/801664 


 午後は睡魔との戦いだ。

 あと数針、セーラーの衿をまつるだけなのに……忍は強引に下りてくる瞼としばし戦った。男にしては白くしなやかな指が針を持つ。針は器用に布をすくっては縫っていく。

 しかし強引な睡魔に勝てるはずがない。午前中の按摩と鍼が効いたらしい。

 さっさと降伏を決め、小卓に広げた雑誌のうえに小さなセーラー服を置いた。

 忍は広縁に置かれた籐の椅子の背もたれに体を預けた。

 蜂蜜色のやわらかく暖かな陽射しがガラス越しに降り注ぐ。とはいえ、着るものは単衣(ひとえ)から(あわせ)になった。離れで忍の世話をしているタケが用意した半纏もすでに着ている。体を冷やしては、病に良くないからと。

 大きく息をついた拍子に、ごほっと咳が出た。まずい、と思ったときにはすでに遅く、たて続けに、二回・三回。忍は椅子の上で痛む胸に手をあて背中を丸めた。嵐のように続くかと思われた咳は、やがて小さくなり、のどの痛みを残して収束した。

 忍は腕を開いてゆっくりと呼吸した。上下する薄い胸、喉の奥はまるで空洞のように感じられる。乱れた髪を手櫛で直す。床屋へはしばらく行っていないため、髪はだいぶ伸びてしまった。

 吹く風は稲穂のかすかな香りを運ぶ。秋は忍の病が重くなる季節だ。小さな発作が去り、忍はまどろんだ。

 ――結核ではなく、喘息……。

 いっそ、死病ならと続けるかと思われた()()の蔑むような口調が耳に甦る。ここに来る少し前のやりとりを今さら思いだす。

 あいつが出征してから、二年と少し。

 忍は胸の中で、あいつが居なくなってからの月日を数えた。と、いうことは片田舎の別荘の離れでくらすようになって同じくらい経過したのだ。

 いっそ、このまま遠くへ行けたなら。

 あいつが戻ってくる前に。

 とうてい敵う事のない望みを、忍が思わない日はない。

 とんとんとん。

 眠りに落ちるまえに、渡殿を踏む小さな足音が響いた。

「忍おじさま」

 とん、と腕につかまる小さな手を感じて忍は目を開けた。

「綾子姫さまでしたか」

 綾子は大きく印象的な目を細めて笑った。

 長い黒髪に赤いリボン。ふだんのもんぺ姿とは違い、今日は朱鷺色の地に黄色と白の菊の花を散らした着物を纏っている。きちんとした着物姿は一昨年の七五三以来かも知れない。

「ね、おようふくは、しあがりましたの?」

「あと少し。縫い代の始末すればおわりですよ」

 忍は伸びをして眼鏡を押し上げると、小卓のセーラー服を手に取ってみせた。綾子の口元がゆるみ、ほうと溜め息をつく。

「すてき。忍おじさま、なんておじょうずなの」

 綾子は広縁に膝をついた。忍の大島紬の膝に両手をのせて、針を動かし始めた忍の手元をうっとりと見つめている。

「針がぶつかったら危ないですよ。そちらにお座りなさい」

 忍は卓を挟んだ反対側の椅子を目線で伝えた。

 綾子は素直にうなずき、籐の椅子へと腰を落ち着けた。そこへ、タケが盆を捧げ持ってやってきた。

「のちほど、涼子奥さまも見えられるそうです」

 女中のタケは曲った腰を伸ばすことなく忍に伝えると、お茶と栗色の茶巾絞りをのせた漆塗りの小皿を卓に置いた。

「お食べ。栗ではなくて薩摩芋だけれど。タケさんはお料理がじょうずだから、ほんの少しの砂糖でも甘くしてくれるんだ」

 薩摩芋はクチナシの実と一緒に炊かれて黄金色に染まっている。綾子の瞳が菓子に釘付けになった。戦局が悪化しているのは、配給品が滞るようになったことからも知れた。砂糖は今や貴重品だ。

「もうすぐ裏庭の栗が採れます。そうしたら、タケが栗ご飯を作って母屋にもお届けしましょう」

 栗ご飯という言葉に、綾子の体は小さく弾み、胸の前で祈るように指を組んだ。ご飯、といってもおそらくは米ばかりではなく麦も混ざっているだろうけれど。それでも、屋敷の食糧事情は、他所よりよほど恵まれている。

「いただきます」

 綾子は黒文字で茶巾絞りを切り崩し、口に入れた。瞬間、目を見開く。そのまま目を閉じて頬に手をあてると首をかたむける。

「あまいわ。とてもあまいわ、おじさま」

 忍は綾子が菓子に夢中になっている間に巧みに針を動かし、仕上げていった。自分が仕立て屋に勤めていたときの端切れで間に合わせて作った。忍は町場で気安く暮らしていた日々を懐かしんだ。

 家出どうぜんで一度は屋敷から逃れたというのに。体さえ壊さなければ……忍の喉には嵐が住み着いてしまったのだ。

「ほら、できあがり」

 綾子が菓子を食べ終わるのと時を同じくして、服は完成した。セーラー服は、スカートともつながったワンピースだ。忍が手渡すと、綾子の頬はいっそう輝いた。

「ありがとう、おじさま。サチに着せるわ」

 お気に入りのお人形、サチに合わせて作った服はこれで三着目だ。高くさし上げ、綾子はセーラー服を見つめていた。

「はやく、トウキョウにもどりたいな」

 溜め息をつき、腕を下ろした。

「また、これがきたい。せっかく入れたがっこうだったのに。おかあさまとおなじがっこう」

「もうすぐ着られますよ。戦争はじき終わるでしょう。そうしたら……」

 そうしたら、()()()は帰ってくるだろうか。あいつ……綾子の父親の顔を思い出し、瞬間、背中に悪寒が走る あいつが帰ってきたら、またあの爛れた日々が始まるのだ。

 うなだれた綾子を撫でようとした忍は、衣擦れの音と伽羅の香りに気づき、手を戻した。

「忍さん、おひさしぶり。おかげんはいかがです?」

 いつのまにか、広縁の角に涼子が立っていた。裾に扇を描いた銀鼠(ぎんねず)色の留袖だ。長い髪を鼈甲の櫛でまとめ、唇には紅を刷いている。綾子といい涼子といい、妙に改まったいでたちをしている。

「きょうは、何か」

 忍が尋ねると、涼子は背筋を伸ばして忍の隣に座る綾子をちらりと見た。綾子は人形の服を袖の下にすばやくかくした。涼子は卓に広げたままの雑誌が目に入ったらしく、眉を寄せた。忍はさりげなく頁を閉じると脇へと寄せた。

「大奥様が東京からこちらへ、お住いを移されます」

 出征した夫の留守居を預かる若奥さまの威厳をしめすように、膝をつかず立ったままで忍の頭の上から声をかける。さすが、没落したとはいえ華族の振る舞いが身についている。

「それは、それは」

 だからか、と忍はひとりごちした。いよいよ、戦局が険しくなってきたのだろう。東京や各地の大都市も空襲が相次いでいると噂に聞こえてきている。

「こちらは三島家の繊維工場がありますから」

 忍はうなずいた。たしかに、工場はある。それにこの別荘も。けれど、まぎれもなく疎開だろう。くくっと忍の唇から笑いが漏れた。

()()がここで暮らしますか。厄介払いしたぼくと、結局は皆さまお暮しになる」

 大奥様は今は会長職へと退いたが、社長である息子もいまだ母親には頭が上がらない。

 生家は下級武士、亡父三島武と二人三脚で三島の家を大きくした女傑、珠樹(たまき)。そのきつさゆえか、息子の嫁はあまり長生き出来なかったと噂される。

 (こわ)い妻を敬遠して、武は花街に芸子を囲った。忍の母だ。

「忍さん、大奥様がご到着されたなら、必ずご挨拶にあがってください」

 涼子の声がこわばった。忍はあえて淡々と答えた。

「なぜ? ぼくがまだ死んでいないことを確かめたいから? 」

「忍さん!」

 とつぜんの冷たい応酬に綾子の視線はおろおろと、母とおじの間を何往復もした。長く続くかと思われた沈黙は、赤ん坊の泣き声で終わった。母屋の方からわずかだが泣き声が聞こえた。

「ああ、太一郎さんが」

 タケの言葉に、とたんに涼子は落ち着きを失った。太一郎は一歳を過ぎた綾子の弟だ。

「はやく戻られた方がよろしいですよ」

 タケの声に促され、まだもの言いたげな涼子は、渡殿へと戻りかけた。

「太一郎さま、お可愛いですね。大旦那さまともよく似てらっしゃって……」

 タケの言葉に、忍の片頬がかすかに持ち上がる。振り返った涼子は肩越しに忍を睨んだ。

 ――あの夜の顔とはずいぶん違う。

 忍は涼子の柔肌の感触を思い出した。しおらしく、忍の腕のなかでないていた涼子を。

「お暇いたします、忍さん。綾子さん、おいでなさい」

「ま、まだ、まだ帰りません。忍おじさまとおしゃべりしたいです」

 綾子はいつの間にか立ち上がると、忍の腕にすがっていた。再度促されても小さく首を左右に振る娘を一瞥すると、涼子は振り返りもせずに離れから去っていった。

「お茶のお代わりをお持ちしましょう」

 タケは取り繕うように、ふたりに話しかけた。

「タケさんは、大奥様のこと、今日のことはご存知だったのかな」

 忍の問いかけにタケは曖昧に微笑んで厨へと戻っていった。

 タケは若い頃から大奥様づきの女中だった。忠実なる(しもべ)が知らぬはずがない。忍についているのも、見張るためなのだ。看病と称して、夜も隣の部屋に寝る。何かあったなら、タケから大奥様へとご注進があるだろう。たとえば、孫の妻の来訪や寝乱れた寝具だとか。

 すでに終わっているのに、と忍は腹を抱えて笑いたくなることがある。

 涼子とは、一度きりだった。そう、二年前に信一郎が出征してすぐの一夜。

 奴の酷さは相手がたとえ女であっても変わらないと踏んで、声をかけたのだ。男児が生まれないことで大姑には嫌味を言われ、夫には乱暴にされる。そんな涼子を優しくいたわり、華族の自尊心を傷つけぬよう、誘ったのだ。


 涼子の夫である孫の信一郎のことを、()()はどれほど知っておいでだろう……。

 忍は額に指をあてて、笑いをかみ殺した。


「おじさま……何かおかしいことが?」

「ああ、すみません。大奥様がいらっしゃるのが楽しみでね、つい」

「わたしは、こわいの。大ばばさま」

 大奥様は低い背丈の割に、がっちりとした肩幅をしている。いつも口をへの字に曲げていて、眼光の鋭い老婆だ。喋らせれば、打ち負かせる者などいない。御年八十を過ぎているが病一つせず、杖に頼らずに歩く。

「太一郎のことばかりかわいがるもの……きっと、わたしのことがキライなのだわ」

 綾子が生まれた時の、珠樹の不機嫌ぶりを忍は覚えている。ひるがえって、太一郎が生まれた時の狂乱ぶりも。親戚や取引先一同を集めて盛大なお披露目の会を開き、さしもの女傑も曾孫には甘いと揶揄された。

 女の曾孫など数にも入らなかったのだろう。綾子は第一子とはいえ、曾祖母の眼中にはないようだった。

 それは忍も似たようなもので、綾子とは似た者同士と言えた。

「わたしも得意ではないよ。けれど、大奥様は三島の会社を支えている。そのおかげで、ぼくらは世の中の大半の人たちのような苦労をせずに済んでいる。感謝しなくてはね」

 はい、と綾子はうなずいた。地元の尋常小学校に通う綾子は、貧しい子や都会からの集団疎開の子たちのことを知っている。どれだけ不自由な暮らしをしているかも。

 病気を患った三十男の忍が仕事もせずに暮らしていけるのも、三島という後ろ盾があってこそだ。

 奉公先で床に伏せていた忍を見つけ出し、保護したのは信一郎だった。

 忍を必要としたのは、信一郎ただ一人だった。

『さがしましたよ、叔父様』

 忍は、伏せっていた狭い部屋の戸口に立った麻の背広の信一郎が、死神に見えた。年上の甥は、執拗に忍を探し追いかけてきた。逃げ出した場所に連れ戻され、忍は再び信一郎に支配された。


 十になる頃に花街いちの美女とよばれた母を亡くした忍を引き取ったのは、三島の家だった。

 実の父は以前は優しかったのに珠樹に遠慮し、忍を遠ざけた。豹変した父に哀しさを覚え、忍は広い屋敷で一人きりだった。そんな中で七つ年上の信一郎は年下の叔父に何くれとなく目をかけてくれた。

 良家の子息ばかりが通う学校で忍は立ち居振る舞いや言葉遣いに戸惑い、勉強にもついて行けなかった。そんなときにも、いつも忍を励まし礼儀作法を教え、宿題を手伝ってくれた。

『忍はかしこいね』

 そういって頭を撫でてくれた信一郎を兄のように慕った。

 やがて父である武が亡くなると、忍は身の置き所を失ってしまった。忍はまだ十五だった。武の葬儀のあと信一郎は忍の手を優しく握った。

 そして、そのまま忍を自分の欲望のなかに取り込んだ。

『かしこい忍なら、わかるよね。わたしだけが君の味方だよ』

 その夜から忍は信一郎に組み敷かれ、手荒に扱われ……。忍の信一郎への思慕は踏みにじられた。


「おじさま、ご本を見てもよろしいかしら」

 綾子の声で、暗い思いから現実へと戻る。

「ええ、どうぞ。でも、これは皆さんには内緒にしていてくださいね」

 綾子を膝に抱きあげ、一緒に雑誌の頁を繰った。上質な紙に印刷されたカラー写真に綾子は目を奪われた。東京の古書店から以前取り寄せた開戦前の洋書だ。金髪の美女たちが裾の長い夜会服を着て写真のなかでポーズをとっている。このご時世、敵国の本など持っているのを屋敷の外の者に見つかりでもしたら、非国民とののしられるだろう。

「きれい……お姫さまのおようふく」

 世が世なれば、綾子は姫さまだった。母親の涼子は没落華族の一人娘だったのだから。成金の三島家では格式を欲しがり、借金を肩代わりし結納金を積んだ。かくして信一郎は十歳離れた涼子を嫁に迎えた。

「みたこともないわ。どれもすてき」

 美女のひとりは、すらりとした両腕は素肌を見せ、黒のベルベットは上半身にそって長くふわりとした裾を広げる。次の頁では、透ける絹のシフォンを何枚も重ねた透明感のある色鮮やかな紅色のドレス。

 涼子は婚約してからは三島の家から女学校へ通った。忍と同じ屋敷に住んだのは、ほんの一年足らずだったが、おそらくは信一郎と忍の関係に気づいていたと思われる。

 食堂や廊下ですれ違う忍に向ける視線が、まるで汚らわしいものを見るようで、すぐに目を逸らした。少女らしい潔癖さで妾腹の忍を避けていた。

 その涼子が、ただ一度とはいえ、忍に身をゆだねた。忍からすれば、子どもの出来ない涼子に同情したのでもなく、出征前夜に信一郎が涼子を選んだことに腹を立てたわけでもない。人の心のもろさや愚かさを味わった愉快な経験だった。

「つくれる?」

 綾子が小首をかしげ、振り返り忍を見た。黒く大きな瞳は母親の涼子とそっくりだ。

「そうだね、綾子姫にたくさん作ってあげよう」

 仕立て屋では男性のものばかりを縫っていたが、いつか女性用のドレスを作ってみたいと思っていた。母が健在ならば、きっと忍は母のために作っただろう。

「ほんとう、おじさま! うれしい」

「戦争が終われば、上質な布もレースも手に入るでしょう。薬もよいのが作られて、ぼくの病気もなおります。綾子姫の父上はそのために外地で戦っています」

「そうね、日本はいくさに勝つのでしょう?」

 忍は笑顔を張り付けたまま、うなずいた。三島の女傑は政財界や軍部にも通じている。それが帝都を捨ててくる。おそらく財産を整理してくるのだろう。そして、次の出方を考えるようであれば……勝敗は見えているのだ。

「お父さまのご無事を祈りながら、ここでお待ちしましょう」

 綾子はこくんとうなずいた。するとどうしたものか、頬がほのかに赤らんできた。そのまま、忍を見つめ、思いきるように話しかけてきた。

「は、花嫁衣装もおじさまが作ってくださいね」

 突然の申し出に、忍は思わず吹き出しそうになった。けれど綾子の精いっぱいの勇気を笑うことはできなかった。

「もちろんだよ、とびきり素敵な衣装を作ってあげる。綾子姫はきっと綺麗な花嫁になる」

 綾子はほっとしたのか忍に背中を向けると、小さく続けた。

「おじさまの……およめさまにしてくださいますか?」

 綾子の声は最後は消え入るかのようだった。両手をぎゅっと握って膝のうえにおいている。背後から見る綾子の耳は赤く染まっている。

「ありがとう、ぼくにはもったいないよ」

「ほんとですか?」

 振り向いた綾子は泣きそうな顔をしていた。忍は綾子の頭を撫でた。 

「そしたら……どこか遠くでくらしましょう」

 忍は不意を突かれて息が詰まった。最後の夜の光景が脳裏によみがえる。


 信一郎さん、必ず生きて戻って。貴方なしで生きられないよ、ぼくは……このまま遠くへ連れて行って……。


 信一郎を憎むくせに、信一郎がいなければ自分は三島で生きてはいけない。


 ひゅう、と喉が鳴った。

「おじさま?」

 忍はとっさに綾子を下ろして口を押えた。とたんに、激しい咳が続いた。

 喉が鳴る。吸い込む息はわずかなのに、咳は肺から空気を絞りだす。肺が痛い、気道が狭まる。卓上のものをなぎ倒し、忍は広縁に前のめりで倒れ込んだ。


「おじさま、おじさま!」


 最後の夜に、信一郎に選ばれた涼子が憎らしかった。だから涼子が誰にも言えない秘密を与えてやった。


 太一郎は、誰の子どもだろうな。


 戦争は勝ちます。

 お父様は必ずもどります。

 大奥さまには感謝しています。

 病気は治ります。


 窓から見る青空が歪み、視界がゆがむ。

 咳をするたび喉が締め付けられていく。

 ひゅう、ひゅうと喉から風の音を吐き、忍は胸をかきむしった。

「お母さま、タケさん! 誰か!」

 綾子の声が耳朶を打つ。

 視界がかすむ。

 綾子の小さな手を握った。


 ああ、全部うそさ。



気楽に書き始めたら、長くなってしまった。

そして、今まで書いたことのないような感じになった。


大人になってから、喘息になった。さいわい大きな発作に見舞われたことはないが、しんどいレベルのときもあり、今は薬を飲んでいる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 関係性。 それぞれの思惑が交錯した過去が、純粋に慕う綾子を前に滲むようです。 忍の気持ちの軸はあの人にあるのでしょうね。 戦いの後。 どうなっていくのかぞくぞくです。
[一言] 短編では表現しきれて居ない気がするかな?
[良い点] 良いですねー 「~なろう」では、こういう作品には なかなかお目に書かれないので楽しくなりました。    [気になる点] キャラクターが多い上に名前が似てたので 馬鹿な自分には誰が誰なの…
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