託された手紙 ひとつ目の事件
ある日、高校で私をいじめていたグループの子のリーダー格が死にました。
殺人事件があったのだと言います。
ほら、「百舌事件」です。ご存知でしょう?
百舌事件の被害者が、彼女だったのです。
その被害者の子を、そうですね、Aとしましょう。
Aはその日、帰り道におばあさんを見かけたそうです。重たそうな荷物をたくさん持っていたおばあさんは、そのうち、どんがらがっしゃん! と、荷物を落としてしまったそうで、Aはおばあさんを慌てて助けました。そして言ったのです。
「荷物をお持ちしましょうか?」と。
おばあさんは大喜びしました。
「ありがとうねぇ」
そういうおばあさんに、Aは「いいえ」と言って荷物を持ちました。
おばあさんの家は山奥にありました。
「こんな山奥は不便と分かっていてもねえ。亡くなったあの人との思い出が消えてしまいそうで、離れられないんだよ」
なぜ山奥に住むのかと問うたAに、おばあさんはそう答えました。
そして、山道の途中でおばあさんは「もう家が近いから大丈夫だよ」と言いました。
「これ、お礼にどうぞ」
おばあさんはそう言って、手作りのクッキーをAに渡しました。
Aはその場でクッキーを食べました。
「あらおばあさん、このクッキー、焦がしました?」
「苦かったかい?少し焦がしてしまってねえ」
不思議そうに問うAに、おばあさんはそう言いました。
「あら、そうだったんです、ね……」
その時、Aは突然、途轍もない睡魔に襲われました。そして、崩れ落ちて、眠ってしまいました。
実は、クッキーには強力な睡眠薬が入っていたんです。
おばあさんはそれを見ると、にやりと笑いました。
そして、腰の曲がっていたおばあさんがですよ? 突然荷物の中からブルーシートを取り出して、Aをその上に寝かせたんです。そして同じ荷物の中から包丁を取り出して、Aの心の臓を刺したんです。
思いっきり。力強く。
貫通するほどに。
そして、生き絶えたのを確認して、近くの木に刺したんです。
貫通してできた穴に、木の枝を通したんです。
まるで、餌を枝に刺す百舌のように。
そして、現場の後始末をして、去って行きました。
——これが百舌事件の全容です。
……え? なぜ私がいるはずがないのに、こんなに詳しく知っているか、ですって?
それは後でお話しいたします。