託された手紙 恐怖と勇気
——いよいよ、ここからだ。
でも手紙の本文全部は大変だな……
『大体でいいのに』
「でも本当のことを伝えたいから、全部ちゃんと書くわ」
『……嬉しい。でも、無理しないで』
はじめまして。
突然この手紙を託してしまい、すみません。
私の名は秋本と申します。
今日は、遠い昔に私の身近であったことを貴方にお話ししたくて、そして、貴方に全てのことの事実を知っていただきたくて、この手紙を書かせていただいております。
どうか最後まで、お付き合いください。
私が幼い時、私の住む村では目隠し鬼が流行っておりました。そう。「目隠し鬼さん、手のなる方へ」と言ったり、口笛を吹いたりして目隠しをした鬼を呼ぶ、あれです。本当に、盛り上がっていました。みんな楽しそうで、いつも広場には目隠し鬼をする声が響いていました。
ある日、私は鬼の子が目隠しをしたまま転び、起き上がれなくなっているのを見かけました。私は手を貸してあげました。
「ありがとう。だあれ、手を貸してくれたの」
「私だよ。秋本——」
「——あんただったの?」
さっきまであんなに優しい声だったのに。急に冷たい声になってしまいました。
——私は、いじめられていたのです。
背が低く、小柄だという理由で。
家が貧しかったのも、理由の一つだったのかもしれませんがね。
「そうだ。あんたが鬼をやりなよ」
「私?」
私は今まで入れてもらえることのなかった目隠し鬼に混ぜてもらえると思って、嬉しく思いました。
しかし、それは罠でした。
足を引っ掛けられました。転んでも手を貸す人はいませんでした。楽しそうに「鬼さんこちら、手のなる方へ」と呼ぶ声は、私を嘲笑うためのものでした。結局、誰も捕まえることは出来ませんでした。
同じことが、何度もありました。
高校でも、私はいじめられました。
いつしか私は人を恐れるようになりました。まともに人の顔を見られません。目なんてもってのほか。人のことを信じるなんて、そんな恐ろしいことは出来ません。
ではなぜ貴方にこの手紙を委ねたのか……それは、委ねる相手が貴方しかいなかったからです。
それに、どんなに怖くても、死ぬ前に一度だけ、一度だけ人を信じてみようと思ったのです。
恐ろしいことでした。
正直言いますと、部屋の予約のためにここに電話をかけたときだって、声の震えが、体の震えが、止まらなかったのです。
貴方はホテルに訪れた私を見て、不思議に思ったでしょうね。私はまともに貴方を見ていないと思います。会話も短くしようとしていると思いますし、一刻も早く立ち去ろうとしたでしょう。
でも、この手紙を預ける時だけは貴方の目を見ようと決めました。それが、出来てきたでしょうか? 出来ていても、きっと怯えたような目だったでしょうね。
……話が逸れました。
本題に参りましょう。