始まり
始まりは……そう。
あのお客様を泊めた時だった。
私はその時、新聞を読んでいた。
『百舌、血のミルク、風見鶏は同一犯⁉︎』
そんな感じの見出しで、百舌事件、血のミルク事件、風見鶏事件は同じ睡眠薬が被害者に盛られていたとのことが分かり、同一犯とみて捜査している……みたいな内容だった。
「あ、あの……予約した、秋本です」
顔を上げると、そこには白いワンピースをきた女の人がいた。小柄な高校生くらいのその人は、おどおどとした目を、細い声をしていた。
「秋本様ですね。えーっと。407号室となります」
鍵を渡して笑いかけても、目を合わせてくれない。にこりともしない。ずっと挙動不審で、戸惑ったような表情をし続けている。
「あ、あの。フロントさん」
フロントさん?
少し考えて、私だと気付く。
「はい、なんでしょう?」
そう言って笑いかけると、彼女は震える手で、私に手紙を渡して来た。
「これ、貴方に……」
その瞬間、目があった。
おどおどとしていて、他者を拒む——信用していない目。なのに、何かにすがりつくような目。
「ええ、確かに受け取りました」
そう言って手紙を受け取ると、彼女はパッと目をそらした。
「ゆっくりおくつろぎくださいね」
「ありがとうございます」
彼女は辺りを伺いながら、挙動不審のままフロントを離れて行った。
彼女からもらった手紙は、すぐには開けられなかった。勿論、それは仕事があったから。
仕事がひと段落ついた夜中に手紙を開封した。
何を書いたのだろう。
それが気になった。
そこにはホテルの一泊分の宿泊料金と、あの手紙が入っていた。
そして私は、全ての真相を知ることになった。
……許してね。
私は……みんなに知ってほしい。本当のことを。
『……いいよ。それを望んでしたことだから』
「ありがとう」