真相
手紙が、終わった。
「ここからがいよいよ、本題よね」
よーし、と肩を回し、パソコンに向かった。
勤め先である白百合ホテルに届いた新聞で、その事件のことを知った。
1つ目は、「百舌事件」。
1人の女子高生が、まるで百舌が棒に刺した餌かのように木の枝に刺され、死んでいたのだという。
2つ目は、「血のミルク事件」。
また1人の女子高生が、北向きの部屋で死亡していたという。しかも、その側には被害者の血が溶かされたミルクが置かれていたとか。
3つめは、「風見鶏事件」。
またまた1人の女子高生が、自宅で風見鶏に刺されて死んでいたのだという。
どれも睡眠薬を飲まされた後の殺害だとされており、同じ薬を飲まされていることが分かったので、同一犯の犯行と見られている。
テレビで、不可解な5人の女子高生の死を知った。ある夜に突然苦しみ出し、幻覚を見て、幻聴を聞いて、狂ったように叫びながら、死んでいったという。死因は薬の誤飲とみられているらしい。
——私は、この出来事の真相を知っている。
これは、地獄のような日々を過ごして来た少女の、復讐劇だ。
——死ね……死んでしまえ!
——よくも私のことを……!
——許さない。許さない……!
——今更そんなの、聞きたくない!
彼女が繰り返し口にした言葉が部屋の外まで漏れでてきて、それを聞いたその時、思った。
彼女にとって、生きていることは救いではなく、地獄であるであろう彼女にとって、これ以上「頑張れ」ということは、彼女にとっては棘で刺され火で炙られることのように辛いことなのではないか、と。
——手紙を読んだ後、慌ててお客様の部屋番号を確認し、部屋の前まで様子を見に言った夜。
あの夜聞いた声が、頭から離れない。
どうしてマスターキーを持っていなかったのだろう。思えばあの時は、携帯電話さえフロントに置いてきてしまっていて、誰にも連絡が出来なかったのだ。いつもなら持っているのに、どうして持っていなかったのだろう?
——私が来た時には、彼女は呪文を唱え終わった後だったようで、ずっと、
「死ね……死んでしまえ……!」
と呟いていた。
最初は言葉尻が掴めないほど小さな声で。だんだん気持ちが強くなったのか、だんだん大きな声で。それでもなんとか言葉が聞こえたぐらいの大きさだったが。そして突然それが聞こえなくなったかと思うと、急に叫び出したのだ。部屋の外の私ですら、はっきり聞き取れるほどの大声で。
「よくも私のことを……! 許さない、許さない……! 今更そんなの聞きたくない! 許さない! 今更そんなの聞きたくない!」
私は冷静な心を失い、無理やり扉をこじ開けようとした。しかしか弱い女の力では不可能で、何も出来ずに終わった。
——声がやんだとき、ようやく携帯とマスターキーを持ってくればいいのだと気づき、私はフロントに戻り、それを持って部屋に戻るなり入った。
——お客様も、死んでいた。
その後は、大騒ぎになった。なんせ、ホテルで突然人が死んだのだから。私もその時の状況を説明しなければならなくて、駆り出された。その時にあの手紙は警察に持っていかれてしまった。正確には、取り調べの際に手紙を持っていなかったので、警察がホテルに行って回収した、らしい。
しかし、あの手紙は残っている。私の携帯の写真フォルダの中に。
これは私の癖のせいだ。物を無くしやすい私はよく手紙も無くしてしまうため、読む前に必ず封筒と全ての手紙の写真を撮るようにしているのだ。
手紙の引用はすべて、この写真を見て行った。
ちなみに部屋の窓は開いていて、その近くに金属製のコップが5つあった。その中には燃え尽きた松の葉のカスがあった。松葉の火呪をしても館内の火災報知器がならなかったのは、窓を開けてその窓際で呪いをしたからだった。白百合ホテル館内の火災報知器は、煙感知式火災報知器だった。
高校生5人が不審な死を遂げたことは報じられたが、その死因は薬の誤飲とみられるとし、犯人については指摘すらしていなかった。呪いのせいで死んだなんて馬鹿馬鹿しいと思ったのかもしれない。
また、その前の3人の死についても、事件は同一犯であることは報じられたが犯人については言及していない。あの手紙だけでは信憑性がないのかもしれないとも思う。
そして秋本さんが死んだことは報じられたが、秋本さんの死因は自殺とされた。あながち間違いではないのだが……。
よし、ここまで来た。
あと1話、書くだけ……
私は、少しだけ緊張しながら、パソコンに向かう。
一気に、書いてしまおう。




