表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
最終章 貴方のその手が、好きだった
93/95

第90話 きっとまた

 それからまた7年の時が流れた。

 サラたちがいなくなってから、14年の時が過ぎている。


「こら、ジェード!城の廊下は走るなとあれほど」

「すみません、緊急事態です!」


 ジェードは謝りながらも走るのはやめない。通り過ぎる人々は慌てて走る彼を見て、何があったかを理解しため息をつく。


 ジェードは、小さな没落貴族の出身だ。城に仕えてまだ日が浅い。何故ジェードが城で働けているかと言うと、サガスタ王、リュオンが拾ってくれたからだ。

 彼に感謝をしている。だが今はかなり腹が立っている。


「リュオン様、大変です!!」


 ジェードはそう叫びながら、慌ててリュオンの部屋の扉を開けた。部屋の中にはリュオンと、ディアン、ローザがいる。

 サガスタの人間にとってはすごい存在の3人だ。ジェードも最初見た時は心臓が飛び出しそうになったが、今ではすっかり見慣れた。


「王妃様が出て行かれました!!」


 ジェードの言葉に、リュオンは見ていた書類から目線を上げ、ため息をついた。


「またか」


 はーやれやれとでも言いたげなその態度にジェードは口をあんぐり開ける。


「王妃様が参列予定だったのはいかが致しましょう」

「仕方がない。俺一人で行くか」


 ディアンとリュオンはさっさとこれからの話を始めるので、ジェードは慌ててつっこむ。


「ちょっと待ってください!追いかけてくださいよ!!」

「出ていったものは仕方がない」

「王妃様だって、リュオン様に追いかけてきてほしいんですよ!」

「そんな事ないさ。今頃あの若い商人と仲良くしてるよ」


 ジェードはその言葉に何も言えない。商人の存在はジェードも薄々気づいていたが、リュオンも気づいているとは思わなかった。

 確かにまぁそうかもしれない。いやでも。


「これで何人目と思ってるんですか……!!」

「えーと、8人?」

「9人目です、リュオン様」

「あ、そうか」


 呑気な物言いにジェードは今度こそぶち切れ、リュオンが座っている机を力強く叩く。机に置いていた書類が反動で舞い、ディアンが冷静にひろっていく。


「こんなに王妃様が逃げるなんて、リュオン様一体何してるんですか!?」


 リュオンはジェードの怒りように、困ったように頭をかく。


「そうは言われてもな。ちゃんとしてたぞ。定期的にちゃんと部屋にも行っていた。贈り物も欠かさなかったぞ」


 リュオンはそう言って自分の頑張りを主張する。違う。うまく言えないが何かが決定的に違う。


「ああもうだから……!!ちゃんと愛情を示せとあれほど……!!」

「誠意は見せたがな。愛情を示せと言われても……」


 ジェードはがっくりと肩を落とす。その姿に、今まで黙って座っていたローザは言葉をかける。


「諦めなさい、ジェード。この人たちは冷酷非情なのよ」


 美しいその姿で、やんわりと毒をはく。言われたリュオンとディアンは全くこたえた様子がない。


「あはは!ディアン、奥さんあんな事言ってるぞー」

「心外ですね」


 ジェードはこれからを思いため息をつく。

 

「はぁぁ……あと一ヶ月後には舞踏会もあるのに」


 リュオンはその言葉に、顔を輝かせる。


「やめる?」

「やめませんよ!いいですかリュオン様、リュオン様の生誕祭とは建前で、これは外交のためのものです!またサボってたりしたらご飯抜きますからね!」

「ジェード、貴方もなかなかはっきり言うわね……」


 ローザに言われた言葉を無視し、ジェードはリュオンの机に分厚い書類をのせる。


「はい、という事で!これが参加者のリストです!!頑張って覚えてください!!」


 その書類を見て、リュオンは眉をしかめる。


「こんなにいるの?覚えられないって」

「問答無用です!」

「まったくもう、呼びすぎなんだよ……」


 リュオンはそう言って、パラパラと紙をめくる。その手が、ふと止まった。


「どうしました?」

「彼女は……」

「前言いましたよね?飛び級して、ルーズル学院に今年首席で入った生徒です。リュオン様が呼ぼうって言ったんですよ」

「あ、ああ、知ってるけど、写真は初めてだから……」


 リュオンは明らかに動揺している。


 ディアンとローザも覗き見て、目を見開いた。


*****


「嬢ちゃん、まだ決まんないの〜」

「ま、待ってください!あと三十秒で決めます!」


 サガスタ城下の市場のすみっこ。シートに並べられた写真たちの前で、黒い帽子を被った少女はずっと悩んでいる。


「こっちもかっこいい……でもローザ様たち夫妻のも素敵だな、欲しいな、ぐぬぬ、選べない……」


 本当は欲しい物全部買えたら一番いいが、所持金には限りがある。悩み続ける少女の姿に、店主はにこりと微笑む。


「嬢ちゃん王様たちのこと本当好きなんだねぇ」

「はい、憧れてて……」

「明日は舞踏会。バルコニーから顔を見せてくれるといいな」

「は、はい、有難うございます……!」


 その舞踏会に出席するとも言えず、少女はこくりと頷いた。


「……結局5枚も買ってしまった……どうしよう食費が……」


 後悔しながらも、買った5枚をにやにや見つめる。この写真に写ってる人、ずっとずっと憧れてた人たちが、近くにいる。そうして、もしかしたら会えるかもしれない、


 そう思うと、自然に顔がほころぶ。


「もうすぐ、会えるんだ……!夢みたい!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ