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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
最終章 貴方のその手が、好きだった
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第85話 虚構

「……すみません、でした」


 ディアンはこれまでの経緯を、ローザに話していた。部屋で2人、テーブルを挟んで向かいに座っている。時刻はすでに夜の3時を過ぎていた。


 話をし終え、つい謝罪の言葉を述べると、ローザは低く呟いた。


「……謝らないでよ。何も出来なかったのは、私も同じよ」


 手に持っているカップの中の紅茶は、既に冷めきっている。ローザはそれを見つめながら、ディアンに告げる。


「さっきは、責めて悪かったわ。本当は、自分を責めたかったのよ」


 その言葉に、ディアンはローザの方を見る。ローザは、らしくなく自虐気味に笑った。


「私ね、自惚れてたの。バフォメットにね、サラの居場所教えてもらって。行ける方法が見つかって。あの子のこと救えるのは、私なんだって」


 バフォメットは、旅の途中で出会った悪魔の名だ。その言葉で、彼女はここまで来た。


「……でもね、違った。私あの子の、本当の姿に会う事も出来なかった」

「ローザ様……」

「ここに来るまではね、ずっとサラにむかついてたの。でも、今は自分に腹が立ってる」


 ローザはそう言って、俯いた。長い髪が、彼女の表情を隠す。

 泣いてるのではないかと不安になり、ディアンは彼女の髪に手を伸ばした。手が触れ、彼女の瞳と目が合う。


「ディアン様!!」


 大きい声を出して衛兵が入ってきて、ディアンは咄嗟にびくりと震える。衛兵はその姿を見てあああと声をあげた。


「す、すみません、お邪魔を……」


 何か勘違いさせている気がする。しかし解くのも面倒なので、ディアンは無視する事に決めた。


「いや。それよりどうした?夜中だぞ」

「それがあの、リュ、リュオン様が、気が狂われました……!!」


 ディアンはそれに、ローザと顔を見合わせ、気づけば走り出していた。


*****


「リュオン様!!」


 辿り着くと、ディアンはその光景に絶句した。


 リュオンは笑顔で応える。


「ああ、ディアン」


 リュオンがいたのは、牢屋だった。本来グルソムたちがいたはずの牢屋は、赤く血だらけになっている。リュオンの後ろには、グルソムたちとオルフが横たわっていた。

 リュオンは、血がついた剣を持っていて、返り血を浴びたのか全身血だらけだ。


「これは、どういう……」

「いや、この者たちは大罪人だろう。だから、殺した」

「グルソムは死なないはずでは……」

「ディアン。覚えてるか?サラには、魔族の心臓が見えたのを。……それが今、俺にも見えるんだ」


 リュオンはそう言いながら、自分の赤く染まった手を見る。


「何でかは分からない。俺が、サラを殺したからかもしれない。目覚めてから、俺の身体は普通じゃないんだ」

「リュオン様……」


 主の言葉に、ディアンは戸惑いそれしか言えない。リュオンはそれに小さく笑った。

 そうして彼はディアンの横を通り過ぎる際、小声で何か告げた。ディアンはそれに、何も言い返さず、立ち尽くす。


 ローザは、リュオンの行く先に立ちはだかった。リュオンは一瞬きょとんとした後、微笑みかける。


「ああ、ローザ様、おひさしぶり」


 言い終わる前に、牢屋内に強烈な音が響きわたる。ローザがリュオンの頬を、盛大にはたいた音だった。


「何やってるのよ……っこんな事して、貴方恥ずかしくないの!?」


 リュオンは怒るローザに、静かに目を向ける。そうして、冷たく言い放す。


「これは、うちの国の問題です。罪人をどう処分するかも、俺が判断する。貴方に批判される筋合いはないと思います」

「……っこの馬鹿!」


 また出しかけた手を、誰かに止められた。エマだった。その瞳には、涙が見える。


「エマ。貴方どうしてここに……」

「じゃあディアン、後の始末は任せた」

「わかりました」


 リュオンはそう言って、ローザの横を通り過ぎていった。ローザはエマの手を放し、慌てて追いかける。


「貴方、サラの事が好きだったんじゃないの!?」


 その言葉に、リュオンは足を止めた。そうして、ローザの方を振り返る。


「あの子が死んだ途端、こんな事して……こんなの、あの子が見たらどんな気持ちに」

「好きだよ」


 リュオンの言葉に、ローザは彼の顔を見る。彼は寂しそうに、笑っていた。


「サラの事。今でも」


 ローザはその姿に、何も言えなくなる。リュオンはそれに、軽く息をついた。そうして淡々と告げる。


「だから、俺は立ち止まっちゃ駄目なんだ」


 そう言って去っていく姿を、ローザはもう、見送るしか出来ない。彼が歩いたところには、血が滴り落ちていた。


*****


「ほぉ……リュオンが」

「お疲れなのかと……いかがいたしましょう」

「問題ない。予定通り、リュオンには王となる宣言を国民の前でしてもらう」


 そう言ってサガスタの前王は、立ち上がった。


「ようやく気づいたんだろう、己の愚かさに」


 魔族を殺す力を身につけていたのは驚いたが、リュオンが彼らに情を抱いてないなら、利点となる。これからは彼らを鎮圧する存在として世間に認知されるだろう。


「では、行こうか」


 そう言って、衛兵を連れ歩き出す。


 ドアは静かに、閉じられた。

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