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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
最終章 貴方のその手が、好きだった
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第82話 どうして

「王が死んだ!化物に殺された!」

「王子も重傷で意識を失ってるらしい!」


 サガスタに着いたローザたちの耳に届いたのは、混乱している国民の声だった。街には号外の新聞が散乱し、店はどこも開いていない。


 新聞を拾い上げると、そこには『化物の王は死んだ』と書かれていた。気づけばその新聞を、手で握りつぶしていた。


「……嘘でしょ……?」


 こんな事、信じられない。あの優しい王様をサラが殺して、リュオンも傷つけて。

 そうして、サラも死んだなんて。


 最後に会ったのは、いつだったか。

 本来の姿になった彼女を、ローザはまだ見たことがなかった。ずっとずっと、追いかけてきたのに。


 ローザは気づけば膝から崩れ落ちていた。エマたちに支えられ、通路から移動する。


 ずっと頭の中では、サラと見た海や星空が浮かんでいた。


*****


 目を開けると、そこには懐かしい天井が見えた。幼い頃からずっと育ってきた部屋だ。細かい模様が描かれていて、それが怖くて寝れない日もあった。


「リュオン様!?」


 声の方を振り向くと、ディアンがそこにいた。寝てないのか、顔色が悪い。ドアの側に立っていた衛兵は、どこかへと走って行った。


「良かった、目を覚まされて……」


 嬉しそうに、でもどこか切なそうにディアンはそう呟いた。まだよく状況が飲み込めず、記憶を必死に呼び起こす。


「俺は、気を失ってたのか……?ディアン。父上は……サラはどうした……?」


 その問いに、ディアンは顔を強張らせる。


「ゼネスは死んだ。魔族の王に殺されてな」


 声は、ドアの方からした。前王、リュオンにとっては祖父にあたる人物が毅然とした姿で部屋へと入ってきた。衛兵が呼んできたらしい。


 彼の言葉に、リュオンは戸惑いながら尋ねた。


「……そんな…………サラは、どこにいるんですか?俺まだ話が」

「魔族の王も死んだ」

「……死んだ……?」


 その言葉に、リュオンは思考が止まった。


「そんなはずありません。サラは、不死身のはずです」

「魔族たちがそう言ってるんだ、間違いない」


 魔族が……?彼らは今、どうしてるんだ?


「リュオン。民が混乱している。お前は早く王位に就き、彼らの前に出て安心させなければならない」


 祖父の言葉に、ディアンが悩みつつ言葉を発した。


「あの、リュオン様はまだ目覚められたばかりで……」

「そんな事は知っている。突然こんな事になり辛いのは、私も一緒だ。だが私は老いゆく身。リュオン、お前が動かねばならんのだ」


 祖父の言葉は最もだ。でも繰り広げられる言葉が、全て流れてゆく。まだ、夢なんじゃないのかと疑いたくなる。


「……ゼネスは遺言をのこしていた。〈誰が何と言おうと、王位は息子のリュオンに譲る〉とな」


 その言葉に、リュオンは顔をあげ、祖父の顔を見た。


「あいつの気持ちを、無駄にするな」


 そう言うと、足早に去って行った。リュオンが寝ていた間も、色んな事に追われていたんだろう。

 早く、早く動かないと。でも。


「リュオン様……」

「ディアン。俺を見つけた時、側にサラはいたか?」

「……いえ、いらっしゃいませんでした。魔族が言うには、存在そのものが消えたようです」

「彼らは今どうしてる?」

「牢屋にいます。彼らにももう、魔力はないようです。調べ上げた後は、見せしめで殺すようです……」


 リュオンは、自分の手を見た。どこも、変わっていない。あの時、自分はサラに触れたはずだ。


 慌てて刺されたはずの腹部を触る。包帯が巻かれているが既に痛みはない。


「どうしてだ……」


 混乱が体を支配する。俺はあの時死んで、サラはまだ生きてたはずだ。なのに。


「どうして俺が、生きてるんだ……」


*****


 目の前の主の悲痛な問いに、ディアンは答える事が出来なかった。リュオンはディアンの表情に気づき、慌てて言う。


「いや、なんでもない。有難うディアン。ずっとついててくれたんだろう?」

「え、いえ……」

「ごまかすな、顔色が悪いぞ。少し休め。私ならもう、大丈夫だから」


 何も言えずそこにいるディアンに、リュオンは笑いかける。


「安心しろ。死にはしないよ」

「リュオン様」


 ディアンはそれ以上なんて言葉をかけていいかも分からず、礼をして部屋を出た。きっと、今彼は1人になりたいんだろう。


 まだ幼いのに、父親と大切な人を同時に失ったんだ。


 目覚めない方が、彼にとっては幸せだったのかもしれない。それを分かっていても、目覚めてほしかった。

 そんな自分に嫌気がさし、ため息をおとす。


「ディアン」


 声をした方を振り向くと、使用人に連れられた、懐かしい人物がそこにいた。


「……ローザ様」

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