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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第2章 さてはてどこに行きましょう
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第8話 後を追う者たち

「エマ、待ってくれよ」


 トラスはものすごい勢いで馬を走らせる相方に気弱な声で叫ぶ。しかしエマは彼を一度振り返ると、強い目力で睨んできた。


「待っていられますか!貴方の速度にあわせていたらいつ着くか!」


 はてさて、皆様彼らが誰か覚えておられるだろうか。彼らはローザに仕える、エマとトラス。

 彼らは王宮に仕える一族に生まれ、ローザという主に仕えることになった。幼き頃から知り合いで文武を競いあってき二人は、同じ主につく事になった今、どちらが一番姫様に信頼されているかを日々争っている。

 しかし今回2人共姫様に置いていかれる事になった。

 

 そして今。エマは怒り、サガスタから半ば強制的に馬を借り、彼らが向かった方へ走っている。

 すると、脇道からいきなり白いローブを着た少年が現れ、エマの行く手に立ち止まった。

「うわあ!?」

 エマは慌てて手綱を引き、反動で転ぶ。

「エマ!!」

 トラスに腕を掴まれ慌てて彼の馬に乗せられたが、エマは主をなくした馬を見た。馬は、少年に向かって突き進んでいく。

「危ない、避けて!!」

 しかし少年は身動きをしない。


 だめだ!


 思わず目を閉じたが、何も音がしない。恐る恐る目を開け次に見た瞬間、エマは驚いた。馬がおとなしく、少年の顔に鼻をあてている。彼はそんな馬の鼻を優しく撫でながら、エマに話しかける。


「可愛いね、この子貴方の馬?」


 少年は歳に似合わず、甘い声で言った。エマは半ば面食らいながら、返事をする。


「い、いえ、この馬はサガスタから借りているもので」

「そうなんだー」

「あ、あの、それより怪我」

「いいのいいの。そんな事よりお姉さん、そんな急いでどこに行くの?」

 エマは思わず固まる。ど、どうしよう。

「ああごめん、聞いちゃいけなかったかな。いや僕たち、ジュールに行きたいんだ。でもお金なくて。悪いんだけど、もしそっちの方角へ行くなら、乗せてくれない?」


 自分がひきそうになった子の懇願に、エマはたじろぐ。ジュールなら、自分たちが行く方角だ。なら、無駄にもならない。それに……

 エマはそこまで考えて、首を強く横に振った。トラスと少年が突然の行動に驚いている間に、エマは首を振るのをやめ答えた。


「い、いいけど」

「エマ!」

「本当?やったあ。有難う!」


 少年はそう言い、嬉しそうな声を出す。少ししか顔が見えないが、その僅かに見えるとこだけでも、綺麗な顔をしていることが分かる。ところでこの子、自分を轢きそうになった馬によく乗れるな。

 もしかして、自信があった?


 すると脇道から、叫び声が聞こえる。何かと思えば、長身の男が現れた。彼は、エマたちに気づきもせず、少年に話しかける。


「こら!お前は何度言えば分かる!少しは待たんか!!」

「あ、兄上。この人たちが乗せてくれるって」


 そう聞いて、兄上と呼ばれたものは、エマを見る。少年と同じ、白いローブを着て頭からフードを被っている。ただ線の細い少年とは違い、随分と体格がいい男だ。

 はっきり言って、似ていない。だが世間にはそんな兄弟山ほどいる。彼は深々と頭を下げた。


「申し訳ない、弟が無理言って」

「あ、いえ」

「よろしくお願いします」

 乗るんかい。

 エマは心の中の声を賢明に殺しながら、王宮内で噂の美しい所作で馬に手を向ける。

「じゃあとりあえず、弟くんは私の馬に、お兄さんは彼、トラスの馬に乗ってください」

「あ、あの、いいんですか?」

「へ」

「良ければ、私が貴方の後ろに乗りますが……」

 なんだこの気色悪い発言は。エマはにっこりと、優雅に笑う。

「いえ。弟さんをご心配されての発言だと思いますが、馬の腕は彼より私の方が上です」

「あ、いえ!私は貴方を見くびった訳では……!」

「さあ弟くん。乗って」

「はーい」

 弟は慣れたもので、トラスの手を借りることなくひょいと乗った。エマは多少驚くが、後ろで兄を見てもひょいと乗ったので、馬術に親しんでいるのかもしれない。後方が乗り切ったところで、エマは手綱を引き、馬を走らせる。

 しかししばらくたつと、少年がエマの胸もとに頬ずりを始めた。

「お姉さん、いい匂いがする」

「きゃあああああ!!」

 エマは叫ぶが、少年が手綱を引き、馬を平穏に操る。


「ああ。だから言ったのに…」

 兄の方は、背が高いので、トラスの後ろに座っている。トラスは後ろで溜息をついている彼に声をかける。

「子どもってすごいですねぇ。ところで、貴方たちは何の御用でジュールに?」

「私たちが会いたい方が、その地にいると聞きまして」

「へぇ、僕らと一緒ですね。僕たちも、人を追ってるんですよ」

「おお、それは偶然ですね」


 彼らは馬を走らせる。その道は、平坦なように見えて険しかった。

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