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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第10章 越えられない溝
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第76話 魂胆

「オルフ、聞こえるか?」


 森に向かい、ジェラルドはそう呼びかける。彼が立っているのは森の入り口。とりあえず呼びかけてみたものの、何も反応がない。


 彼らが隠れそうな場所を従者のラグナスと相談し、今日この森にたどり着いた。この森が当たりだろう。気配がどこか特殊で、一度入ってみたら明らかに細工されているのを感じた。


 さすが、英雄の弟子と言ったところか。


 しばらく待ってみたが、森からは何も返事が返ってこない。ジェラルドは小さくため息をつく。

 だが帰ることはせず、めげずに森へと話しかける。


「だんまりか?悪いが俺の目はごまかせない。なぁ、話をしよう?見ての通り、私は1人でここに来た。君たちに危害を加えるために来たわけじゃない、ただ話がしたいんだ」


 森がざわめいた。何かが内部で起こってる。オルフが近づいてきてるのか。ジェラルドがそう考えを巡らしてると、強い力で森に引きずり込まれた。

 そうして視界が回ると、地面に尻を強打した。


「っいって……」

「大丈夫ですか?」


 尻をさすっていると、上から声がした。見上げると、幼い獣耳を持つ少女がそこにいた。暗い森の道を照らすように、灯を右手に持っている。


「……君は……」

「はじめまして、ルカと申します」


 ぺこりと頭を下げる少女の姿を、ジェラルドはじっと見る。彼女はそれに、ニコリと微笑んだ。


「よかった。お迎えかな?歓迎してくれるのかい?」

「はい。私がご案内を任されています。どうぞこちらに」


 ルカがそう言って進んでいき、ジェラルドから見て分かれ道の右の方に入ろうとする。


「待って。そっちは違うよね?」

「いいえ。こちらであっています」


 はっきりと告げられたその言葉に、ジェラルドは口の端をあげる。


「ねぇ、オルフやサラさんに会いたいんだ。話がしたい」

「お二人はここにはいませんよ」

「そうだね、サラさんはいないね。じゃあとりあえず、2人で話さないか?」


 その言葉に、ルカは嫌そうな目をして、そうしてため息をついた。


「……ばれたか」


 幼い少女だったその姿は、いつの間にか水色の髪を持つ幼い魔法使いの姿となった。


「はじめまして、かな。ジェラルド、リセプト王と呼ぶべきか?」

「王は気恥ずかしいから、是非ジェラルドで」

「そうか。ではジェラルド。この件からは手を引け。お前の国には関係ない事だ」

「そうしたいのは山々なんだがね、どうも皆、魔という言葉が出るとすぐ俺をあてにするんだ。国を守るためには、外の繋ぎも大事でねぇ」


 ジェラルドはやれやれと言いながら首を振る。オルフはそれを鼻で笑い、提案する。


「ならばここで私たちに殺された事にして自由に生きてみるのはどうだ?」

「それはいいね〜、でもやめとくよ、こっそり生きるのは私の性にはあわない。……それより、私はもっと君は賢いと思ってたよ。こんなやり方じゃ、うまくできるはずがない」


 ジェラルドのその言葉に、オルフは心外だと言わんばかりに反論する。


「こうなったのは王の意向だ。闇討ちするのは嫌なんだそうだ。他の奴らもあいつの意見は無視出来ないから、やむなくこういう状況になっている」

「……サラさんも、侵略するのは賛成なんだ」


 ジェラルドは、あの獣の姿の少女を思い出す。


「まぁ、文句ならあの銀髪の王子に言え。王が会いに行った時、あいつが嘘でも温かく迎えたらこんな風にはなってない」


 そういえば、リュオンもそんな事を言っていた。


「そうか。会う機会があったら言おう」


 その時はきっと、彼に私は嫌われてるだろうがね…


 ジェラルドはその言葉は言わず、辺りを見回した。グルソムが1、2、3…森の影に潜んでいる。


「彼らが私を殺さないのも、サラさんの命令か?」


 ジェラルドの言葉に、オルフは嫌そうに顔をしかめた。図星のようだ。


「ジェラルド。人間たちは、少しは私たちに土地をくれそうか?」


 オルフの問いに、ジェラルドは首を振った。


「いいや。悪いが彼らは君たちを倒す事しか考えてないよ」

「そうか……」


 オルフは言葉こそ残念そうだが、まったく期待はしていないようだった。


「サラ!賭けは俺の勝ちだ!言う事を聞いてもらうぞ!」


 オルフがそう叫ぶと、森がまたざわめいた。やがてそのざわめきの中に、凛とした声が響いた。


「わかった」


 その声を合図に、森に潜んでいた複数の影が同時に動いた。ジェラルドはそれを制そうと魔法で風を起こすが、それをものともせず影はジェラルドを捕らえた。


 ジェラルドは倒れこみ、切り裂かれた腹部に手をあてる。そうして目の前の、血がついた長い爪を持つ者を見上げる。


「君は……」

「あ、やっぱりバレてたんだ。変に勘付かれないように、城の中には入らなかったのに」


 獣の耳を持つ小さな少年は、にたりと笑う。ローザの従者であるエマたちがジェラルドを訪ねに来た際、城の外で待っていた者たち。何か訳ありだとは思ったが、グルソムだとは思わなかった。

 あの時は、2人しかいなかったはずだ。その他に、3人の影が見える。やはり、少人数なのか。


 オルフは苦しそうに倒れているジェラルドを見下ろし、冷たい声で告げた。


「残念だな、勝てると思ったのか?サラがここにいる限り、お前の力に屈する事はない。なぁ、サラ」


 オルフの声に、ジェラルドはその声を向けた方を見る。そこには、銀髪の獣の耳を持つ娘がいた。


 その瞳は赤くガラスのようで、何を考えてるか読み取れない。オルフはサラの方を呆然と見るジェラルドに、淡々と告げた。


「ジェラルド。お前には今から人質になってもらう」


 その言葉を聞いて、ジェラルドはオルフの狂った瞳を見る。森にやけに簡単に入れたなとは思ったが、そういう魂胆か。


 ……でもいい。計画通りだ。

 とにかくサラと、2人になる機会をもたなくては。


 ジェラルドは血に染まった腹部を触りながら、上着の縫い付けた中に隠している小さなビンの所在を確認した。

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