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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第10章 越えられない溝
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第73話 何ができるか

 バフォメットは、驚くローザを見て満足そうに笑っている。


「な、なんで貴方がここに……」

「いや、ちょっと知り合いを迎えに来たんだが、あんたが見えてな。面白そうだからご挨拶に」

「ご挨拶って……」


 ローザは全く悪びれないバフォメットの様子に絶句した。ローザはかつてこの男に勝手に操られた過去があり、彼女にとってそれは黒歴史である。それなのにこの男は、謝るどころか何事もなかったようにニコニコしている。


「知り合いって誰よ?」

「あんたは知らない人だよ。それよりどうしたんだ?置いてきぼりくらっていじけてんの?」


 ローザは言われたその言葉に、顔をこわばらせる。バフォメットはそれを見て、したり顔を浮かべた。


「まぁ、元気だせよ。これから北大陸は戦場になる。命が惜しければここにいた方がいい」

「貴方、何でそんな事知ってるの?ただの悪魔でしょ?」

「コキ使われてる身の上なんでね」

「……誰に?」


 そう尋ねると、バフォメットは微笑み、移動しようと立ち上がる。


「!待って!貴方、サラの居場所も知ってるの!?」


 ローザのその言葉に、バフォメットは一瞬目をぱちくりさせた後、微笑んだ。


「さあ?」

「教えて!あの子、一体どこにいるの!?」

「聞いてどうする気だよ。知ったところで、どのみちあんたは何もできない」

「そんなの、分からないじゃない!」


 自分が無意識に発したその言葉に、ローザは驚いたが、言葉はまだ溢れ出てきた。


「確かに、私は何も知らない、何もできないけど……だからって嫌よ!このまま、何もできないなんて。行ったら何か、できるかもしれないのに!」

「できる事が一つも浮かばない時点で、行っても無意味だと思うがな」

「……あの子を、一発殴るの!」


 やけくそ気味にローザが言ったその言葉に、バフォメットはぽかんと口を開けた。


「なぐる……」


 そうして沈黙が続いた後、盛大に吹き出した。ローザは彼のその行動に、恥ずかしさが出てきて顔を赤くする。バフォメットはまだ笑いながら、ローザに向かって意地悪そうに微笑んだ。


「殴るために行くのか。グルソムの王を?」

「……そうよ。サラの分際で私を置いていったこと、怒らないと」


 ローザは恥ずかしさを必死でこらえ、バフォメットの目を真っ直ぐに見る。バフォメットは口の端をあげると、小さく呟いた。


「いいよ。教えてやる。森の中だ」

「?森……?」


 ローザは詳しく尋ねようと口を開いたが、バフォメットは次の瞬間にはもう姿を消していた。


 彼が消えた部屋で、ローザは一人考える。


「森って、もしかして……」


*****


「まんまるさん、着いたよ。浜辺」


 リュオンとディアンは馬から降りながら、丸い姿の魔物に話しかけた。すると、その魔物は毛を逆立てる。


「だから!なんだその力が抜ける名前は!」

「だって、名前を教えてくれないから」

「そうですよ。まんまるさん。この名が嫌ならお名前を教えて頂かないと……」

「やだね!人間に名前を教えたら、どう悪用されるか分からない!」


 リュオンはため息をつく。この場所に来るまで、何度このやり取りをしたか。


「ま、とりあえず着いたな。ついてきな」


 まんまるがそう言うので、リュオンたちはそのまま大人しく着いていく。


 まんまるはリュオンたちに、海が見える場所に連れていくよう告げた。ここは港でもない、地元の人たちが訪れる場所だ。まんまるいわく、船がいては逆に邪魔らしい。


 一体、どうする気なんだろう。


 そう思っていると、まんまるは何か小さく呟いたと思うと、口笛を吹いた。


 すると、どこからか大きな音が聞こえ、その音がどんどん近づいてくる。


「な、なんだ?」


 戸惑いまんまるの方を見るが、彼は満足そうに微笑んでいる。


「来るぞ」

「え……」


 その直後、大きな水しぶきが起こり、リュオンたちに直撃した。


「うわっ!!」


 水滴で視界がぼやける中、リュオンは海に長く大きな生物を見る。


 リュオンはそれに、ぽかんと口を開ける。色は濃ゆい灰色だが、首が長く大きな恐竜のような姿には、どこか見覚えがあった。


「ガル、いきなり呼び出してすまない!」


 まんまるはそう笑顔で告げる。

 ガルと呼ばれた魔物は、大きなその瞳を見開いた。


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