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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第10章 越えられない溝
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第68話 無茶な要求

 オルフは布で覆われた椅子に座ると、水晶玉を目の前の机の上に置いた。そうして、北大陸の王たちが持つ、水晶玉に語りかける。

 突如光った水晶玉に、何事かと驚き見る者たちに告げる。


「こんにちは。僕の名前はオルフ。魔族からのお知らせをしたいと思い、この水晶玉を利用させてもらいます。単刀直入に言うと、君たちには北大陸を出て行ってもらいたい。期間は明日から一ヶ月。よろしくお願いします」


 皆、何を言われたのか分からず沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、他の誰でもない、サガスタ王だった。


「どういう事だ?」

「言った通りだ。北大陸から、出て行ってほしい」


 そう言うと、呆然としていた北大陸の王たちは我に返り、次々に疑問や反論の声をあげる。だが、オルフはそれを全く気にせず、むしろ楽しそうに笑った。


「あはは、いきなり驚くよねぇ」

「貴様!馬鹿な冗談はよせ!」

「おじさん、誰に向かって言ってるの?俺が、冗談でこんな事してると?」


 そうして、鋭い眼差しで告げた者を睨む。向けられた者は、全身に恐怖が駆け巡った。


「オルフ・リーゼフ!何故英雄の弟子である貴方がこのような事を……貴方は、人間でしょう!?」

「人間だから、グルソムの味方をしちゃ駄目なの?それは、僕の勝手だよ」

「こんなの、無理に決まってる!!」

「無理?それは、頑張ってもらわないと。こっちだって、すぐ突撃したいところを譲歩してるんだ」


 これは本当の事だ。実際、こんな無意味な事、オルフはしたくない。それでも、すぐの突撃に賛同されなかった以上、こうするしかない。


「出て行かない場合、どうなるか分かってるよね?一ヶ月後を、楽しみにしてるよ」


 まだ何か言っていたが、通信を終わらせる。光を失った水晶玉を、オルフは見つめる。


 かつて己が世界の交流の為に作った水晶玉を利用して、弟子がこのような事をしていると知ったら、彼はどう思うだろうか。


*****


「どういう事だ!!」

「そんな無茶な話があるか!あの魔法使いは、何を考えてるんだ!」


 飛び交う各国の王の言葉を、ジェラルドは上の空で聞いていた。今は、水晶玉を通して世界各王が集う緊急の国連会議を行っている。

 城に戻りついてすぐ聞いた知らせは、ジェラルドにとっても衝撃だった。


 北大陸に無茶な要求をした魔法使いオルフは、かつて北大陸にいた魔族を倒した魔法使いロキの愛弟子だ。

 そんな彼が、こんな事をする事がまず理解できない。


 そして、これはサラも関わっている事なのか。


 ジェラルドがかつて見たサラは、純真無垢な印象で、こんな酷な事をするようには見えなかった。


「こうなっては仕方ない、武器を集めろ!!」


 その声に、ジェラルドは意識を戻し反論する。


「待ってください!戦うつもりですか?」

「当たり前だ。こんな無茶な要求にのむなんて無理に決まっている」

「無意味な争いは避けるべきです!そんな事をしては、どれほどの犠牲者が出るか……!」

「ではリセプト王。貴方は、北大陸にいる住民全てをどうするおつもりか?」


 その言葉に、ジェラルドは言葉につまる。北大陸の王たちは、居た堪れない、やるせない表情をしている。

 昔より人口は増え、建物も増えている。他の大陸で北大陸の人々全てを受け入れる事など、現実問題かなり難しい。

 そもそも、北大陸に住む人々がすぐに事を受け入れ移動するとは思えない。


「君も分かってるはずだ。相手に折れる気がない以上、もはや我々には戦う未来しかない」


 その言葉に、皆黙る。

 確かに、その通りだ。オルフは出て行かない場合、争いをする意志を明確に示していた。


「なに、恐れる事はない。彼らの能力は昔のままだ。例えそこに一人の魔法使いが加わったとして、他の魔法使いも、武器も我らの手の中にある。奴らに勝ち目はないさ」


 南大陸の一国王の言葉に、皆は頷くしかなかった。


 光が消えた水晶玉を、ジェラルドは静かに見つめる。

 隣にいた西大陸ユーランの国王アイルが、立ち上がり、部屋から出ようと歩き出す。ジェラルドは彼女の方を向かず、水晶玉を見つめたまま呟いた。


「アイル様、頼みがあります」

「なんだ」

「あの子たちを、お願いできますか」


 ジェラルドの告げた言葉に、アイルは全てを理解した。


「……置いて行く気か」


 アイルの言葉に、ジェラルドは頷く。


「何も言わないでか」

「はい」


「……わかった」


 アイルのその言葉に、ジェラルドは彼女の方をようやく振り返ると、立ち上がり深々とお辞儀をした。その動作に、アイルは苦笑で返す。


「お前も、苦労が絶えないな」


 アイルの言葉に、ジェラルドは微笑んでこたえた。


*****


 ドアを叩くと、リュオンが顔を出した。ジェラルドは、グラスとワインを顔の前で掲げる。


「酒でも飲まないか?」


 そう言うと、リュオンは不思議に思いながらも部屋の中に入れてくれる。小さいが客室用にきちんと整えられた部屋のテーブルの椅子に座ると、リュオンを招きグラスに赤ワインを注ぐ。


「ほら、飲んでみ。うまいから」


 リュオンは渡されたワインを、静かに口に運ぶ。


「うまいか?」


 そう聞くと、リュオンは頷いた。


「サラさんには、会えなかったな。どこにいるんだろうな」


 ジェラルドは自分の分のワインを注ぎながら、世間話のように話す。


「……今日、サラに会いました」

「え」


 リュオンの言葉に、ジェラルドは思わずワインを零しそうになった。慌ててつぐのをやめるが、リュオンはそんな彼の姿を、呆然と見つめる。


「ジェラルド様が慌ててる姿、はじめて見た気がします」

「な、なんで?あれか、一時いなかった時か?」

「はい。ゴーデラに行ってたんです。そこで、サラに会いました」


 何故ゴーデラに?何故そこに彼女が?聞きたい事がいっぱいありすぎて、言葉が出てこない。


「……ジェラルド様。前、言ってくれましたよね?俺の事、グルソムじゃないって」

「ああ。……君のその姿は、恐らく君の母親がグルソムの血を飲んだためだ」

「……他にも、何かありますよね?」


 リュオンは、静かにそう尋ねる。一瞬ジェラルドは悩んだが、覚悟を決め口を開いた。


「ここからは、私の予測だ。……サガスタ国は、北大陸の中心地。北大陸は、そこから繁栄していった」


 リュオンの表情は、変わらない。彼は、分かっているのだろうか。


「……君のお母さんについて、調べさせてもらった。王族をずっと影ながら支えてきた、一族の出だと」

「はい。……ジェラルド様、分かってます」


 リュオンはそう言うと、ワインを飲み干した。そうして、笑顔で告げる。


「サガスタは、グルソムを封じた者たちによって生み出された国。そうして、俺はサラの憎い仇の子孫です」


 リュオンはそう言って、へへへと笑う。


「俺は、間違えちゃいました。彼女はそれを分かっても俺を信じようとしてくれたのに、俺はそれを、拒絶した」


 リュオンの手が、今にも血が出そうなほど強く握りしめられる。


「あんなに調子いい事言ってたのに。……結局俺が、一番サラを傷つけてる」


 リュオンの頭に、ジェラルドはぽんと手を置く。


「……あまり、思いつめるなよ」


 リュオンはそれに、申し訳なさそうに笑う。ジェラルドはそれを見て小さく笑うと、ワインを差し出した。


「さっとりあえず今日は飲め!」

「あ、はい。わわ……」


 ワインを注ぎながら、ジェラルドは目の前の少年を見る。


 きっと、リュオンとこんな風に酒を飲めるのは、最後だろう。

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