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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第2章 さてはてどこに行きましょう
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第7話 魔法使いオルフ

「魔法使い?それがどうしたというんだ」


 リュオンの間抜けな問いに、ディアンは肩をガクッと下げる。


「…いいですか?リュオン様。サラ様のお姿が、仮のものならば、何らかのまじないがかかってるのは確かです。我々には、それがどんなものか知る術はありません。しかし、魔法使いなら……」


 そこまで聞いて分かったのか、リュオンが手をぽんと叩く。


「なるほど!!どんな術か分かり、運が良ければ解けるかもしれないということだな!さすがだぞディアン!」

「はあ。誰でも思いつくことかと思いますが」

「それで?その魔法使いとやらは、どこにいる」

「分かりません」

「へ?分からないのか」

「その魔法使いは、特定の住宅はもたず、流浪の旅をしているようです。今はたまたまこの地にいるだけで、何処にいるか、しいてはまだいるかすら定かではありません」


 ディアンの言葉に、リュオンは肩を落とす。


「なんだ。では、すぐ探さないといけないじゃないか」


 リュオンのその言葉に、ローザは人差し指を立てて提案する。


「でもまずは、ご飯食べません?私、お腹が空きましたわ」

「そうですね。では、ご飯場所を探しましょう」


 そう言ってディアン以外の3人(うち一匹獣)は歩き出そうとした。ディアンは叫ぶ。


「ちょっと貴方たち!旅の目的を忘れてませんか!?」

「まあまあ。早くしないとおいてくぞー」


 ディアンは頭痛を感じた。こいつらは、揃いも揃って能天気すぎる。俺がしっかりしないと…そう思っていると、目の前の3人(うち1匹獣※以下略)の姿ははるか彼方にいた。


「こらっ!ちょっと待ちなさい!!」


 ディアンは慌てて追いかけた。


 一軒の美味しそうな店の前にきたところで、サラはリュオンに告げた。


「リュオン。私、お腹空いてないし。外で待ってる」


 そう言って去っていく。その背中を、リュオンはつまんだ。


「ここより、向こうに外の屋台があった。そこで買って食べよう」

「え、でも遠い……」

「仕方ないわね。早く行きましょう」


 ローザもぶっきらぼうにそう言い、ディアンはただ微笑んでいる。皆の優しさに、サラは目を潤ませる。こんな大きな獣の姿では、飲食店には入れない。気を遣ったつもりが、暖かい気持ちにさせられた。


 屋台には、小麦粉で作られたパンケーキが売られていた。

 素朴な味だが、大変美味かった。お腹がいっぱいになると、ふたたび課題が浮かび上がった。


「ああ、どこにいるんだろー?魔法使い」

「どこだろうねー。今は3時くらいだから……」


 自然と入ってきた返事に、一同は驚く。その声は、その屋台のおばさんだった。


「おばさん、魔法使いを知ってるの!?」

「ああ、オルフちゃんのことだろ?」

「オルフちゃん!?」

「皆そう呼んでるよ。今はたぶん、噴水の周りで野良犬と遊んでるんじゃないかなー」


 おばさんのその言葉に、その屋台の常連らしいおじさんが反応する。


「あれ、今はおやつじゃないか?」

「あ、そうかな!そうしたら、ロアンの店だね」


 犬と遊ぶ?おやつ?


 どうもイメージしていた魔法使いとギャップがあるようだ。しかしこの情報は、確かめに行くしかない。リュオンは、即座に立ち上がる。


「取り敢えず、行ってみよう」


 噴水の周りで犬を連れていたおじさんには

「ああオルフ?ロアンのとこに行ったよ」

 ロアンの店では

「ダリーのおもちゃのお店に行ったよ」

 ダリーの店では

「本を買いに大通りの図書館へ……」



「あーっもう!見つからない!」


 先程からたら回し状態だ。リュオンは地団駄を踏み、ディアンは悩ましい顔をした。


「早いですね。移動魔法でも使っておられるんでしょうか?」

「俺の居場所を嗅ぎ回ってるっていうのは、あんたたち?」


 振り向くと、そこに立っていたのは水色の髪の、少女のような顔をした男の子だった。紺色のローブを着ている。彼は腕組みをしたまま、4人に向かい合った。


 リュオンが少年に、優しく話しかける。


「ああ、いや。私たちは、オルフという優秀な魔法使いを探していて。君も知らないかい?」

「だから。そのオルフが、この俺だって言ってるんだ」


 皆は驚いてその姿を見る。まだ7歳くらいの、幼い姿だ。でも確かにその堂々とした姿勢と物言いからは、幼さを感じられなかった。ローザが、恐る恐る尋ねる。


「こんな子供が…?」


 その呟きに、オルフは鬱陶しそうに答える。


「いろいろあるんだよ俺にも。あんたたちは、そんな事が聞きたくて俺を探していたわけ?」


 その言葉に、気づいたらサラは叫んでいた。


「あ、あの、私、もとの姿に戻れますか!?」


 彼は一瞥しただけでサラの質問には答えず、本屋の前のベンチにどかりと座った。そうして、買ったばかりの本を開きながら、ちらと4人を見る。


「まずさ。人を訪ねてきておいて、何も持ってきてないわけ?」


 その言葉に、4人は呆気にとられる。オルフは口の端を、いやそうにあげた。


「全く。これだから王族は礼儀知らずで困る」

「え。俺たちが王族だってどうして……」

「見たら分かる。旅装の格好をしたところで、他なんもかえてないんだから当然だ。もう噂になってるぞ」

「う、噂!?」

「ああ。サガスタの王子が、獣の恋人の呪いを解くため旅していると。それはもう、壮大に」


 ディアンはあああと頭を抱える。リュオンは特に気にした様子もなく、オルフに尋ねる。


「何も持ってこず申し訳ありません。後でお礼に何か持ってきます。だから話を…」

「嫌だね。俺は、後でという言葉は信じない。先にお代はもらう」

「では、一体何を…」

「そうだな。では、そこの通りにある、ワッフルを買ってこい。10個」


 その言葉にディアンはずっこける。


「そんなものでいいんですか?金品などでは……」

「ワッフルをバカにするな。あそこは超人気で並ぶのに1時間はかかる」

「1時間も!?」

「そうだ。俺はそれが食べたい。俺に相談に乗ってもらいたければ、ワッフルを持ってこい」


 オルフの妙なすごみに、ディアンはリュオンに耳打ちをする。


「……どうしますか、リュオン様」

「仕方ない。並ぶか」

「では、私が行ってきます。皆様はどこか……」

「何言ってる。王子も並ぶんだ。当然だろう」

「な…!リュオン様にそのような事は!!」


 ディアンは慌てるが、リュオンは笑顔で応えた。


「ああ、いいさ。並ぼう」

「リュオン様!」

「お前はいちいちうるさいなぁ。ワッフルに並ぶだけで済むなら、安い話だ」

「分かったら、さっさと言ってこい」

「ああ、ちょっと行ってきます。2人はここら辺で休んでて」


 歩き出そうとするリュオンに、サラは叫ぶ。


「リュオン、私も……!」

「あんたは駄目。いいからほら。さっさと行った行った」


 オルフがしっしと手を振ったので、2人はワッフル屋の方に並んで行った。「10個全部違うトッピングなー」とオルフが叫ぶ。


 そうして2人がいなくなると、ローザはオルフに向き合う。


「で?何であの2人を行かせたの」

「無論、ワッフルが食べたいからだ。あとは、獣の娘。お前に先に、聞きたいことがあったからな」

「は、はい!」

「お前、あの王子が好きなの?」


 いきなりの恋愛トークに、サラは目を丸くする。


「は、はい…」

「あいつもあんたが好きだと?」

「そう…言ってくれました」

「ふーん。なら、このままでもいいんじゃない?」

「へ」

「だって、その姿でお互い相思相愛なら、姿を変える必要なんであるの?何のために?」

「それは…獣では、結婚出来ないから……」

「もとの姿に戻ったら、出来るの?」


 オルフの質問の意図が分からず、サラは困惑する。


「は、はい…出来ますよね?」

「俺が聞いてるの。貴方は、ただあの王子についてきただけじゃない?」


 その言葉に、サラは目を見開く。


「貴方は、自分を森から連れ出してくれるなら、誰でも良かったんじゃないかな?あの王子のことが、本当に好きなの」


 誰でも……?サラはオルフの言葉に、体を硬直させる。対してローザは、オルフの物言いに眉間に皺を寄せた。


「貴方、一体何のつもり?そんな言い方、失礼よ!」

「悪いけど、これは大事な話なんだ。子供はちょっと黙ってて」

「なっ……!?あ、貴方の方が子供じゃ」

「誰でも良くなんてありません!!」


 サラの叫びに、ローザとオルフは彼女を見る。


「リュオンだから、私は信じる事が出来たんです。誰でも良くなんてない……!」


 サラはそう力強く言った後すぐ我に返り、大きい体を小さくさせた。ローザは、その姿を見る。オルフはただ、微笑んで本を閉じた。


「ふーん。分かった有難う」

「何が分かったのよ」

「君はまだ、自分が置かれている環境を分かってないね。そうして、リュオンという王子との結婚を、ただ望んでいる。それはもう、身を焦がれるような愛し方ではなく、ただの幼い恋愛ごっこだ。俺は、あんたの魔法は、とくべきではないと思っている」

「…?何でですか?」


 サラの言葉に、オルフは微笑んだ。


「世界が動くからだ」

「……世界が?」

「ああ。君は、自分は何故、そのような姿にされたのかを、考えたことがあるかい?」

「……はい。でも、分かりませんでした」

「理由が分からないなら、やめた方がいい」


 オルフはそう言い、目の力を強めた。


「それが、この今の世界を、壊さない」


**


 リュオンとディアンは、ワッフルを抱え、オルフたちのもとに急ぐ。


「リュオン様。あの魔法使い、信用していいんでしょうか…姿形から、すでにうさんくさいんですが…」

「あいつは信用出来るだろう。何か含んでいるものはあったが、嘘は言わない奴だ」

「ならいいんですが…リュオン様。私は、貴方が何故このようなことをなさるのか、理解に苦しみます」

「ん?」

「貴方は、本当にあの娘が好きなのですか。王へのあてつけでは……」

「ディアン。口が過ぎるぞ」


 滅多にないリュオンのすごみに、ディアンは頭を下げる。


「…失礼いたしました…」

「…彼女は私を救ってくれた。だから、私も彼女に返したい。ただ、それだけだ」


 大図書館が見えてくると、3人の姿が見えた。


「…世界の平和のために、自分はこの姿でいるべきだと……?」

「そうだ」


 オルフの発言に、リュオンは異を唱えようと叫んだ。


「!そんなこと……っ」

「そんなの、嫌です!!」


 リュオンの叫びは、サラにふさがれた。


「…私は、私になりたいんです!!ちゃんと自分になって、リュオンと向き合いたいんです!」


 リュオンは彼女の叫びに、呆然とした。彼女が、こんなに大きく叫ぶなんて、初めて聞いた。


「…ふうん」


 リュオンはオルフに、ワッフルを渡す。


「お、有難う」


 オルフはその包みをあけ、チョコがついたワッフルを食べる。暫く無言が続いていたが、ふと彼は呟いた。


「…一度しか言わない。よく聞け」

「…へ?」


「マーレイスの鎖」


「ちょ、ちょっと待ってください」

 ディアンは慌てて紙切れを取り出し、メモをする。オルフはただ、淡々と言っていく。


「オディアスの翼」


「アザフスの涙」


「セディウスの糸」


「ナサイルの刃」


「…これを集めて、もう一度私のもとへ来い。この国にはいないかもしれないがな。その時はまた私を探せ」


 そう言って、オルフは去っていこうとする。慌てて、ローザは叫ぶ。


「あ、ちょっと!これ、どこにあるのよ!?」

「そんなこと、自分たちで調べろ」


 そう言ってオルフは、背中を向けたまま、顔だけ4人に向ける。


「魔法に必要な材料は、それが解くべき魔法なら、必ず集まる。集まらなければ、解くべきではない」


「…集めてみせます。必ず」


 リュオンの強い眼差しに、オルフは笑う。



「まあ。せいぜい頑張るんだな」


****


 オルフは食べながら、彼の家に帰る。ドアを開けようとしたところで、中から開かれ、少女が「お帰りなさい!」と笑顔で言った。どうやら、オルフの姿が窓から見えたらしい。


「ああ、ほいこれ、ワッフル」

「うわぁ、私これ大好きなんです!」

「うん、手に入る機会があったから。食べろ」

「有難うございます!わーどれにしようかなー」


 少女の楽しそうな様子に、オルフも微笑む。彼女はワクワクとした様子で、お茶の準備をする。


「そういえば。聞きましたか?隣の国の王子様の話」

「ああ。獣の恋人とやらと旅してるんだろ?」

「素敵ですよね!おとぎ話みたい!幸せになれるといいなぁ」

「幸せねぇ……」


「はい!出来ました!食べましょう〜あ、クリームもらってもいいですか!?」


 オルフは少女がいれてくれたお茶を飲む。そのお茶は、甘いものに合う、少し苦いお茶だった。

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