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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第9章 ロキ
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第66話 再会と決別

 リュオンは、目の前の人物を凝視する。


 彼女は、間違いなくサラだ。優しいその声は、側にずっといてくれた黒い獣そのものだった。


「ごめんね、急にいなくなって。驚いたよね」


 サラが申し訳なさそうに告げてくるが、リュオンはただ彼女を見る。黒い耳も、その赤い瞳もそのままだ。だがそれ以外は……


「リュオン?」


 名を呼ばれ、意識を取り戻す。


「あ、ああごめん」


 サラは、心配そうにこちらを見ている。何か言わなければいけないのに、うまく言葉が出てこない。


「サラ、なんだよな……?」


 念のため、もう一回聞く。するとサラは目をぱちくりさせた後、答えた。


「うん、そうだよ。信じられない?」


 リュオンはそれに首を強く横に振る。彼女がサラだと信じられない訳ではない。ただ、思考が追いついてないだけだ。


「……今まで、何があったんだ?」


 そう尋ねると、サラは寂しそうに微笑んだ。答えたく、ないのか。


「知ってるんでしょう?じゃなきゃ、ここにはいないよね」

「……ああ、知ってる。でも、信じられないんだ。サラが人を殺すなんて」


 リュオンのその言葉に、サラは表情をかたくする。


「……イーザさん……」

「え」

「亡くなったの?」

「……ああ……体が赤く染まって、亡くなったって……」

「そう」


 サラはそう答えたきり、何も言わない。


「事故だろ?」


 思わずそう尋ねても、サラは返事をしない。何故答えないのか。


「皆心配してるよ、サラの事。ローザ様も、サラがそんな事するはずないって言ってる」

「ローザ様が……?」

「ああ」

「……会いたいなぁ……」

「戻ればいるよ!一緒に行こう」


 そう言うと、サラは静かに首を横に振った。


「もう、戻れない」

「どうして……」

「ねぇ、リュオン。一緒に行かない?」


 サラからいきなり告げられた言葉に、リュオンは目を丸くする。


「え、一緒にって、どこに……」

「グルソムの皆に会いに。シアンやコバルトもいるの」


 あの2人は、やはりグルソムだったのか。


「ね、リュオン行こう」


 サラは、そう言って笑顔で手を差し出す。リュオンはそれを、ただ見つめる。暫く間があいた後、リュオンは口を開いた。


「……駄目、だよ。行けない」

「そうか、だよね」


 サラは、あっさりと答えた。まるで、はじめから断られる事が分かっていたように。困惑するリュオンをよそに、サラは彼を見つめる。

 そうして、まっすぐに尋ねてきた。


「ねぇリュオン。リュオンはさ、私の事好き?」

「へ!?」


 そう言って、サラはただリュオンを見つめてくる。リュオンは、顔が真っ赤になっていくのを感じた。


「え、えと、あの、その……」


 どうしてか、前は簡単に言えた言葉が出てこない。ふいに、サラが手を伸ばしてきた。白い手が、目の前に近づいて


 気づいたら、後ずさりしていた。


 その事実に気づいた時、頭が真っ白になる。自分は今、無意識にサラを拒んだ。


「サ、サラごめん。違うんだ、あの……」


 サラは穏やかに微笑んでいる。リュオンはその表情を見て、心が痛んだ。


「謝らないで。リュオンは、何も悪くないよ」


 そんな風に言わないでほしい。何もかも、分かっていたように言わないでほしい。


「……リュオン、はじめて会った時の事、覚えてる?」


 サラは、穏やかにそう尋ねてきた。リュオンは何も言えず、ただ小さく頷く。


「あの時リュオンが私の手をとってくれて、すごい嬉しかった。あの時から、ずっと大好きだよ」


 サラは笑った。その笑顔はとても綺麗で、リュオンは時が止まったような感覚におちいる。


「有難う、リュオン。……ばいばい」


 そう言って、サラは指を鳴らした。その瞬間、強い風が巻き起こる。


「!待って、サラ……!!」


 伸ばした手は、空をきった。すでにそこには、誰もいない。


 リュオンは、サラの名を呼び、山の中を走った。


 分かってる。もうサラはここにはいない。


 リュオンは、自分の手を見つめ、その手を側の木に打ちつける。


 いなくなって、分かった。

 サラはきっと、本気でふれる気はなかった。ただ、俺の反応を見たかったんだ。


 そうして俺は、間違えた。


*****


 サラが再び目を開けると、そこは小さな部屋の中の、魔法陣の上だった。目の前には、杖を持ったオルフがいる。


「いいのか。まだ、お前の事探してるぞ」

「うん、もういいの。有難う、オルフ。わがまま聞いてくれて」

「……決心はついたか」

「うん、もう大丈夫」


 サラはそう言って、笑う。オルフはそれに笑い返さず、杖を振る。サラがいる魔法陣が、消えていく。


 サラは自分の手をじっと見つめ、強く握った。そうして、前を向く。


「始めよう」

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