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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第9章 ロキ
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第62話 予期せぬ手

「え、と……」


 ロキの視線に、サラは思わず目線を泳がせる。


「サラ様」


 後ろから聞こえたその声に、サラはびくりと体を跳ね上がらせる。振り返ると、顔を引きつらせたカイがそこにいた。


「何故ここにいらっしゃるのですか」

「ち、違うの!たまたま通りかかったら、ほら、あの……目覚めて!聞いて、ロキって言うんだって!」


 カイはその言葉に、ロキを見る。ロキは、にこりと微笑んだ。


「ロキと言います。この度は、助けて頂き本当に有難うございました」

「……何故、我々の言葉が分かる」


 ロキの態度に反して、カイの反応は冷たく、棘がある。そうされても、ロキは穏やかに告げた。


「私は学者で、言語を学ぶ事が好きなんです。だから、貴方がたの言葉も多少は分かります。難しい言葉は分かりませんが……」

「……そうか」


 そうしてロキは深々と頭を下げる。だが、その彼にカイは重く告げた。


「目が覚めたのなら、すぐに出て行ってくれ」

「カイ!!」

「帰るには、船に乗らねば帰れないんですが……」

「悪いが、この地にそのような乗り物はない。泳いで帰るんだな」

「痛みがひどくあまり動けず泳げない場合、どうしたらいいですか?」


 ロキが平然とそう尋ねた為、カイは眉間に青筋を立てた。それを見て、サラは慌てて割り込む。


「大丈夫!怪我が治るまで、ここにいればいい!」


 サラの言葉に、二人の視線が彼女に集まる。


「それに、帰る方法が見つかるまで、ここにいてください。もしかしたら、貴方の仲間が探しに戻ってくるかもしれないし」

「良いんですか……?」

「ええ、もちろん!!」

「サラ様」


 そう呼ばれ、気づけばカイに腕を掴まれドアの外に連れてかれる。ドアを閉めると、カイは表情を厳しくして告げた。


「あの人間は、危険です。直ちに追い出すべきです」

「どうして?悪い人じゃないと思うけど……」

「何か裏があるとしか思えません」

「でも、彼は刃物も何も武器を持ってなかったわ。荷物の中は難しそうな本ばかり。それに他に人間の気配はない。彼が悪い人なら、他に仲間がいたり武器を持ってたりするはずよ?」

「それは、そうですが……」

「追い出すのは、もう少し様子を見てからでもいいでしょう?」


 サラは真っ直ぐに、カイの目を見て尋ねる。長い沈黙がおち、先に折りたのはカイだった。


「……分かりました、サラ様」

「有難う、カイ!!」


 サラは喜んで、部屋に戻る。その姿に、カイは深くため息をついた。


*****


 王が人間を匿っているという話は、瞬く間に大陸中に広まり、魔物たちは皆驚きの声をあげた。そうして、城の周りに魔物たちが集まってくるようになった。


「くれぐれも、体の調子が良くなっても城の外に無断で出ないでください、皆が驚くから。城にいる皆は貴方の事知ってるから出歩いても大丈夫です。何かあれば、私かカイ、クウを尋ねて」


 サラが言う間、ロキはベッドで寝ながら呆然とその話を聞いていた。


「服もあと何着か持ってきますね。患部に巻く布も。ご飯は、人間って何食べるっけ……木の実とか食べられるかな……?どうしました?」


 じっと見つめてくるロキに、サラはたまらず尋ねた。それに対し、彼は心底不思議そうに呟く。


「いや……どうして、こんな良くしてくれるのかと思って」


 ロキの言葉に、サラはどこかムキになって答えた。


「だ、だから、人間に不要な恨みを買いたくないから!」

「でも、僕はこのまま帰れないかもしれないよ?何するか分からないし、殺すなら早い方がいいと思うけど」

「それは、私の勝手です。それに、その気になればいつでも殺せますから、変な真似はしない方がいいですよ」


 そう言って、サラは部屋を出て行こうとした。


「それは……君の能力で?」


 その言葉に、背筋が冷えるのを感じた。一瞬考え、静かに振り向く。


「……やっぱり、知ってるんだ」


 だろうとは思っていた。人間たちは、来る前からサラたちの存在を知ってるようで、様々な策を講じて捕らえようとしてきた。そうして、サラもそんな彼らを能力を使い殺してきた。大陸の向こうでサラの能力が有名でも、何も不思議はない。


「有名だからね。グルソムの王には、毒があると」

「グルソム?」

「君たち魔獣族の呼び名だよ。残酷な、っていう意味かな」


 その言葉に、サラはどこか冷めた気持ちになる。そうして、淡々と早口で答えた。


「そうね、貴方たちにとってはそうかも。私がそうしようと思えば、貴方なんて一瞬で殺せるから」


 サラの答えに、ロキは笑う。


「はは、こわいなぁ……でも、それは無理だね。君には僕は殺せない」

「どうして?私の力は知ってるでしょう」

「君は僕には嫌われたくないはずだ」


 ロキの言葉に、今度はサラが笑った。


「すごい自信ですね……」

「自信というか、直感かな?君は誰よりも、人に愛されることを願っている」

「私が?なにを言ってるの」


 そう笑っても、彼は表情を変えない。その静かな瞳で、ただ見つめてくる。私はその瞳に、動揺を覚えた。


 今まで出会った人間は、私を見たら恐怖で震えるか欲望にまみれた顔を見せるかだったが、この男はどちらでもなかった。


 哀れんだのだ。この私を。


 私は動揺を隠し、冷酷な笑みを浮かべて見せた。静かに、ロキの近くに歩み寄る。


「……貴方も私に殺されたいの?」


 そう言いながら彼に手を差し出した。こうすれば、彼がどちらか分かる。


 すると彼は、その手を掴もうと手を伸ばしてきた。


「……!!」


 サラは、差し出した手をすぐに引っ込め、そうしてロキから逃げるように部屋の隅に移動する。それに、ロキは微笑んだ。


「ほら、やっぱり。君に僕は殺せない」

「なっ……!!」


 サラは、顔が真っ赤になるのを感じた。馬鹿にされている。


 だがロキは、なおも笑顔で告げる。


「大丈夫。僕はただの学者だよ。もし怪しいと思ったら、いつ殺されても構わない」

「……分かった」


 サラの言葉に、ロキは笑う。サラはそれには笑い返さず、早足で部屋から出て行った。

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