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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第9章 ロキ
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第60話 彼との出会い

「皆まだ帰ってこない!!やっぱり私も……っ!」


 ローザがドアを勢いよく開け出て行こうとするのを、エマが首根っこを掴んで止める。


「ローザ様。いけませんよ、部屋でじっとしておくように言われたじゃないですか」

「そうですよ。馬もないのに城の外に出て行ったら、民衆から追われます」


 トラスも被せて言うので、ローザは怒りに任せ振り向きながら反論する。


「だってだって!また私お留守番よ!?」

「仕方ありませんよ、馬足りなかったし」

「第一僕ら行っても足手まといですよ」


 二人に言われ、ローザは泣きたい気持ちになる。そもそも、一体何がどうなってるのか。考える度、さっきジェラルドから見せられた写真が頭をちらつく。あれは、サラが本当にしたのか……

 サラに会って、早く問い詰めたい。でも、もし本当なら、自分はどうすれば正解なのか……


「あーー!!もう分からない!!」

「「姫様うるさい」」

「なによ!?二人は気にならないの?」

「もちろん気になります。ですが、問題はそれだけではありません」


 エマの言葉に、ローザは首を傾げる。ここはオーセルの宮廷魔法使いが使っていた部屋のようで、部屋は解読不能な書物で溢れかえっていた。探究心が強い二人はウダウダ言っているローザをあしらいながら本を読み続けていたようだが、先程からその本のうちの一つを見ている。


「何してるの?二人とも」

「ローザ様。この方、誰かに似てませんか?」

「?」


 言われて渡された本には、左ページにはびっしりと文字が書かれていて、右のページには1人の人間が黒い線で描かれていた。その姿は……


「リュオン様……じゃないわよね?まさか、リュオン様のお兄さん……?」


 言いながら、ローザは違和感を感じる。サガスタでは、王子はリュオン1人のはずだ。じゃあこれは……


「王様の若い頃かしら?」


 そう言うと、エマは首を横に振った。


「ロキという名で、かつてグルソムの王を封印した魔法使いだそうです」



######


『サラ様!!』

『ああサラ様、今日も何と強い魔力』

『素晴らしい、見るだけで心が満たされる』


 毎日送られる賛辞に、私はいつも笑顔で応える。そうすると、皆が喜ぶからだ。


 私たちが暮らすこの世界には、いろんな姿の魔物や魔獣、不思議な生物が暮らしている。

 その中で、私は王という役目を受けた。自分の意思でも、誰に決められたという訳でもない。


 私のように二足で立ちながら、獣の耳や尻尾、体を持つものはたくさんいる。しかし私はどうやら、他の皆と違うらしい。皆は魔力を蓄える生き物で、私は魔力を生み出す生き物。いまいちピンとこないけど、私が元気がないと皆が元気がなく、私が元気だと皆が元気になる姿を見て、段々自分がどういう存在かわかってきた。


 皆が私を、「王」と呼び慕ってくれる。私はそんな皆が大好きで、皆と遊ぶ時間は幸せだった。

 でも何でか、時々寂しくなる。こんなに幸せなのに、皆優しいのに、何かが足りない。


 私はそれが、ずっと分からなかった。


 その日、クウと一緒に8つの脚をもつ獣の姿をした魔物に会いに行っていた。クウは、兄のソラと一緒に私が生まれた時からずっと側にいてくれて、いわば王の側に仕える従者の役目を負っている。

 

「サラ様ーー。そろそろ帰りましょう」


 クウのその言葉で、私はようやく空を見上げる。空は穏やかな赤色で、間も無く夜が訪れることを知らせていた。


「わ、全然気づかなかった!」

「そろそろ帰らないと、兄上に怒られます」

「本当だね。ごめんね皆、またね!」


 そう言うと、目の前にいた皆が寂しそうに声をあげる。私はそれに、笑顔で手を振った。


 城へと向かう道を通っていく中でも、皆が声をかけてくれる。大きな体で家を作っているものや、たくさんの触覚を使い器用に道具を作る者。皆が自分の体の特色を生かし、支え合って生きている。

 その姿を見ていると、自然と顔がほころぶ。緑はきれいで、遠くに見える海は夕日が反射して綺麗だ。


「いいね、クウ。平和だねぇ」


 そう言うと、クウは眉を寄せる。


「サラ様、油断してはなりません。いつまた人間が来るか、分かりませんからね」


 サラはクウの言葉に苦笑した。

 人間とは、この大陸には住んでいない、サラたちとは違う、魔力を持たない生き物だ。

 クウが言う"また"というのは、ついこの前人間たちがこの地を征服しようと攻めてきたからだ。結局倒して未遂で終わったが、次いつまた攻めてくるか分からない。


 人間が来る度サラは、自分の力を使う。それがこの世界を守るために必要で、皆が喜ぶからだ。サラの力を知って逃げ帰ってくれればいいが、人間は時に立ち向かってくる。殺さなければ、殺される。それは自然なことで、仕方がないことでもある。でも。


 サラは、ふと遠くに見える海の方を見る。この先にある世界は、どんな色をしているんだろう。


 その時、海の方に何か大きな違和感を感じた。


「クウ、待って。何かいる」

「えっ何かって……て、サラ様!!」


 サラは遠くでクウが叫んでるのを感じながら、違和感がある場所へ向かう。そうして、見えた光景に一瞬息が止まる。

 海が夕日の色に染まる中、砂辺にそれは倒れていた。


「にん、げん……」

「サラ様、ほっておきましょう。この者は気を失っているようですし、大きな怪我をしています。死ぬのも、時間の問題かと」


 追いついたクウはそう言って、サラの腕を掴み歩き出す。確かにクウの言う通り、人間は脇腹あたりから血が出ている。何か、嵐にでもあったのだろうか。戸惑いながらも、ついて行こうと歩き出した。


「た……助けてくれ……」


 後ろから聴こえたその言葉に、サラは恐る恐る振り返った。その者は震える声でそう告げた。茶色い双眸が、はっきりとサラを捉えている。


 その時、サラの中で何かが崩れた。


 それまで見てきた人間は、サラに二つの表情を向けた。怯えと、蔑み。いずれにしても彼らはサラを、化け物と呼んだ。


 だからサラは、人間が嫌いだった。


「!!サラ様!?」


 クウの手を振り切り人間の元へ駆け寄る。その者は、淡い茶色の髪と白い肌をしていて、華奢で、どこか儚ない。


「クウ、お願い。この人を城へ連れて行って、治療してほしい」

「だ、駄目ですサラ様!!人間など助けては!」

「お願い、クウ」


 サラの頼みに、クウは困惑する。自分でも、何を言ってるか分からなかった。それでも、何故かやめたくなかった。


 今思えば、この時から間違えていたんだ。

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