第59話 ルカ
「オルフさん、どうして此処に……」
サラがそう言うと、オルフがパンを食べながら返事をする。
「どうしてって。此処は俺の家だ」
「えっあっ違うんです!そういう意味じゃなくて……ここは一体、どこなんですか?私さっきまで、山にいて……」
「場所は教えられない。お前、意識を失ってたんだ」
意識を失っていた……
「来るのが遅くなってすまないな。こいつらを迎えに行ってたんだ」
「迎えに……?」
「結界が解けたからな」
どういう事か分からない。サラを気遣ってか、カイが話しかける。
「オルフさんが作ってくださった結界のおかげで、我々は生き残る事が出来たんです」
「生き残れた……じゃあ、他の皆は……」
「グルソムで生き残っているのは、我々だけです」
サラはその言葉に、愕然とした。昔は、もっとたくさん仲間がいたはずだ。それが、今は。
「……たったの四人……」
「私もいますよ」
その声に驚いて顔をあげると、ドアの所に一人の幼い姿の少女が立っていた。獣の耳と、黒い尻尾。彼女もまた、グルソムのようだ。髪は一つにまとめて緩く結わえている。
「お会いできて光栄です、サラ様。私、ルカと申します」
ルカはそう言って目をキラキラ輝かせながら、サラに告げた。尻尾が嬉しそうに揺れている。
「先日は、ワッフルを有難うございました。とっても美味しかったです」
サラはその言葉に、ぽかんと口をあける。ワッフル……?
「ルカ、礼を言う事はない。あのワッフルは情報提供料だ」
「そうですか?でもすごい美味しかったから、お礼を言いたくて」
オルフの言葉に、合点がいった。彼女が言っているワッフルは、初めてオルフと会った時にリュオンたちが手土産として買った物だ。
何でそれを彼女が……?
「オルフ、早く説明しないと。サラ様の頭がかなりこんがらがっちゃってるわ」
「ああ、本当だな。すまない。ではサラ、まずどこから話をしよう。君はこの五人を知ってるかい?」
サラはオルフの問いに、彼らを見渡す。目の前にいる小さな少年が、クウ。そうしてその兄がカイだ。
後ろにいる女性がレイラで、丸い男性がギル。
皆、自分が王であった時に側で支えてくれていた人たちだ。でも……
「ごめんなさい。ルカさんだけ、見覚えがない」
「なくて当然だ。ルカは、俺が拾った時はまだ小さな赤ん坊だったからな」
オルフの言葉に、サラは目を見開く。見た目は同じくらいだが、ルカにとってオルフは育ての親なのか。
「では、もう一つ質問だ。ーーロキを、覚えているか?」
その問いに、サラは一瞬顔を引きつらせた。
「……覚えてる」
「どこまで?君が知ってる事を、話してみろ」
「オルフ!!」
カイが止めるが、オルフは微笑みながらサラの答えを待っている。サラはそれに覚悟を決め、言葉を告げた。
「……彼が私に……呪文を唱えたところまで」




