第58話 集結
サラは、自分に向かってくる火がついた矢をぼんやりと見ていた。避けないといけないのに、動けずただその光を見つめる。
しかし、その光が突然目の前から消えた。サラは代わりに現れた目の前に立つその姿を、驚いて見つめる。
「な、何だお前は!?」
矢を放った男も混乱した様子でそう叫んだ。だが目の前の人物はそれには何も反応を見せず、サラの方を振り向く。
白い衣装に、深いフード。サラより背丈の低い少年は、手で止めた矢を地面に落とすと足で踏み潰し、にこりと微笑んだ。
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「ここが、ゴーデラです!!」
衛兵の声に、リュオンは馬に乗ったまま呆然とその景色を見る。そこは、一見どこにでもあるような山で、不吉な気配も何もない。
「この山は傾斜が激しい所がある。馬はここまでだな……リュオン!?」
「リュオン様!!」
皆が叫ぶ声を遠くで聞きながら、リュオンは山道を突き進んだ。
ここに、サラがーー!?
「……サラ、どこにいる!?俺だ、リュオンだ!!」
叫んでも、返事をするものはない。
そうして、山は恐ろしいほどに静かだ。本当に、魔物など住んでいるのか。
ふいに、鼻に違和感を感じる。
これはーー血の匂いと、何かが焦げた匂い。
焦りを感じながら、リュオンは山道を突き進んだ。そうして辿り着いた光景に、言葉を失くす。
そこには、木々や地面に刺さった矢と共に、男たちが倒れている姿があった。中には背中を大きく引き裂かれているものや、足を怪我している者がいる。その光景に一瞬意識が遠くにいったが、何とか気を立たせ男たちに駆け寄る。
「……おい、しっかりしろ!!」
一番近くにいた男を抱きかかえると、男は苦しそうな声を出す。生きているという事に安堵したが、既に息が切れている人々もいる。
「リュオン様!!」
「何だ、これは……」
遅れて辿り着いたディアンたちも、その光景に息をのむ。リュオンは男を一人抱えて立ち上がる。
「まだ息がある人がいます。急いで手当てを!!」
「ああ、皆、急げ!!」
ジェラルドの声に、皆が各々人を抱える。
「グルソムめ、なんて酷いことを……っ!!」
衛兵の呻きに、リュオンは息が詰まった。
これは、サラがした事なのか……?
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「まったく。なんで邪魔したんだよ」
「馬鹿言え。あのままいたら、お前は今頃袋の鼠だ。サラが意識を失ってたら、お前の魔力なんて少ししか持たない。むしろ、感謝してほしいくらいだ」
「なんだと!?」
……誰だろう。声が聞こえる。どこかで聞いたことある、でもリュオンの声じゃない。
「お前たち、本当仲悪いなぁ」
「そうして言い合ってる姿見ると、本当に子供みたい」
今度は、違う男女の声。この声も、どこか懐かしい……
「一緒にしないでくれる?こんなクソガキ」
「なんだと!?言っとくけどな、俺の方がよっぽど大人なんだぞ。第一お前なんか本当はただのジジイじゃ……痛っ!!」
「静かにしろ、クウ」
クウ……?この声も、どこかで聞いた、そうだ、コバルトさん。じゃなくて。
「……カイ……?」
気づけば、そう呟いていた。瞬間、場が静まり、次に歓喜の声が沸き起こる。
「サラ様、目が覚めたんですね!!」
そうして、シアンーークウが、サラのいるベッドに突進してきた。サラはその衝撃にも驚いたが、彼の姿を二度見する。
「サラ様、記憶が……!?」
コバルトーーカイが、嬉しそうにそう尋ねてくる。だがサラは、その言葉に答えられず、ただ二人の姿を見た。
白い装束はそのままだが、いつも被っていたフードをとっている。そうしてそこにはサラと同じ、黒い獣の耳が見えた。
「サラ様!!お久しぶりです!!相変わらずお美しい……!!」
「ちょっとぉ、あんまりサラ様に近寄らないで。貴方の馬鹿がうつっちゃう」
クウたちの後ろから、二人の男女が話しかけてくれる。男性の方は少しふくよかで全体的に丸い容姿。女性は細身でどこか品があり、肩ほどの長さの髪にはパーマがかかっている。
彼らはクウたちと同じ白い装束を身につけているが、姿はサラやクウたちより獣に近い。黒い獣の耳と尻尾をもち、腕も片方が肘から先が黒い毛で覆われていて、手先まで獣の手のような形をしている。
そうして、この場にいる者が、奥のテーブルに座っている者を除いて、皆銀髪に水色の瞳をしている。
「安心したよ、思ったより早いお目覚めだったね」
ふと、奥から声が発せられる。紺色のローブを着たその魔法使いは、奥のテーブルに座ったまま、食事を食べ続けている。
「オルフさん……」
サラがそう呟くと、オルフはパンにバターを塗りながら微笑んだ。
「やぁ。具合はどうだい?」




