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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第8章 許されざる存在
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第58話 集結

 サラは、自分に向かってくる火がついた矢をぼんやりと見ていた。避けないといけないのに、動けずただその光を見つめる。


 しかし、その光が突然目の前から消えた。サラは代わりに現れた目の前に立つその姿を、驚いて見つめる。


「な、何だお前は!?」


 矢を放った男も混乱した様子でそう叫んだ。だが目の前の人物はそれには何も反応を見せず、サラの方を振り向く。


 白い衣装に、深いフード。サラより背丈の低い少年は、手で止めた矢を地面に落とすと足で踏み潰し、にこりと微笑んだ。


****


「ここが、ゴーデラです!!」


 衛兵の声に、リュオンは馬に乗ったまま呆然とその景色を見る。そこは、一見どこにでもあるような山で、不吉な気配も何もない。


「この山は傾斜が激しい所がある。馬はここまでだな……リュオン!?」

「リュオン様!!」


 皆が叫ぶ声を遠くで聞きながら、リュオンは山道を突き進んだ。


 ここに、サラがーー!?


「……サラ、どこにいる!?俺だ、リュオンだ!!」


 叫んでも、返事をするものはない。


 そうして、山は恐ろしいほどに静かだ。本当に、魔物など住んでいるのか。


 ふいに、鼻に違和感を感じる。


 これはーー血の匂いと、何かが焦げた匂い。


 焦りを感じながら、リュオンは山道を突き進んだ。そうして辿り着いた光景に、言葉を失くす。


 そこには、木々や地面に刺さった矢と共に、男たちが倒れている姿があった。中には背中を大きく引き裂かれているものや、足を怪我している者がいる。その光景に一瞬意識が遠くにいったが、何とか気を立たせ男たちに駆け寄る。


「……おい、しっかりしろ!!」


 一番近くにいた男を抱きかかえると、男は苦しそうな声を出す。生きているという事に安堵したが、既に息が切れている人々もいる。


「リュオン様!!」

「何だ、これは……」


 遅れて辿り着いたディアンたちも、その光景に息をのむ。リュオンは男を一人抱えて立ち上がる。


「まだ息がある人がいます。急いで手当てを!!」

「ああ、皆、急げ!!」


 ジェラルドの声に、皆が各々人を抱える。


「グルソムめ、なんて酷いことを……っ!!」


 衛兵の呻きに、リュオンは息が詰まった。


 これは、サラがした事なのか……?


****


「まったく。なんで邪魔したんだよ」

「馬鹿言え。あのままいたら、お前は今頃袋の鼠だ。サラが意識を失ってたら、お前の魔力なんて少ししか持たない。むしろ、感謝してほしいくらいだ」

「なんだと!?」


 ……誰だろう。声が聞こえる。どこかで聞いたことある、でもリュオンの声じゃない。


「お前たち、本当仲悪いなぁ」

「そうして言い合ってる姿見ると、本当に子供みたい」


 今度は、違う男女の声。この声も、どこか懐かしい……


「一緒にしないでくれる?こんなクソガキ」

「なんだと!?言っとくけどな、俺の方がよっぽど大人なんだぞ。第一お前なんか本当はただのジジイじゃ……痛っ!!」

「静かにしろ、クウ」


 クウ……?この声も、どこかで聞いた、そうだ、コバルトさん。じゃなくて。


「……カイ……?」


 気づけば、そう呟いていた。瞬間、場が静まり、次に歓喜の声が沸き起こる。


「サラ様、目が覚めたんですね!!」


 そうして、シアンーークウが、サラのいるベッドに突進してきた。サラはその衝撃にも驚いたが、彼の姿を二度見する。


「サラ様、記憶が……!?」


 コバルトーーカイが、嬉しそうにそう尋ねてくる。だがサラは、その言葉に答えられず、ただ二人の姿を見た。


 白い装束はそのままだが、いつも被っていたフードをとっている。そうしてそこにはサラと同じ、黒い獣の耳が見えた。


「サラ様!!お久しぶりです!!相変わらずお美しい……!!」

「ちょっとぉ、あんまりサラ様に近寄らないで。貴方の馬鹿がうつっちゃう」


 クウたちの後ろから、二人の男女が話しかけてくれる。男性の方は少しふくよかで全体的に丸い容姿。女性は細身でどこか品があり、肩ほどの長さの髪にはパーマがかかっている。

 彼らはクウたちと同じ白い装束を身につけているが、姿はサラやクウたちより獣に近い。黒い獣の耳と尻尾をもち、腕も片方が肘から先が黒い毛で覆われていて、手先まで獣の手のような形をしている。


 そうして、この場にいる者が、奥のテーブルに座っている者を除いて、皆銀髪に水色の瞳をしている。


「安心したよ、思ったより早いお目覚めだったね」


 ふと、奥から声が発せられる。紺色のローブを着たその魔法使いは、奥のテーブルに座ったまま、食事を食べ続けている。


「オルフさん……」


 サラがそう呟くと、オルフはパンにバターを塗りながら微笑んだ。


「やぁ。具合はどうだい?」

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