第6話 衣服調達
リュオンたち御一行は、東に向かって突き進んで行った。
「あっ見えた!!」
そうして彼らは、異国の地に足を踏み入れた。馬車停めの遠くに、市場が見える。建物はどこも三角の屋根なのが特徴的だ。
「サラ、ここはサガスタの隣国、ジュールだ。学問の国で、世界のあらゆる情報が手に入ると言われている」
「ふーん」
サラは、それに不満そうな声で返事をする。まだリュオンにハッタリをかけられたことを恨んでいるのか。ディアンはそのやり取りを気にせず、3人に告げる。
「では、まずは市街地に行きましょう」
「ああ、飯だな!!」
「それもありますが、ローザ様の格好は余りにも目立ちます。一応ここからは、お忍びの旅です」
ローザはまだ、水色のヒラヒラのドレスを着ている。そんなのを着ているのは、どう考えても王族だ。
「え、お忍びなの?」
「……当たり前です。サガスタの唯一の跡継ぎが旅をしているなど知れたら、どこの国に狙われるか」
本当は、変態などと知られたら色々面倒なのが一番の本音だが、それは触れないでおく。
「それもそうだな。では、買い出しに行きましょう」
「はい!参りましょう!」
のんきに歩き始めた二人を、ディアンは睨みつける。
「駄目です。貴方方はここで待機です」
「ええ何でぇ!?」
「だから、姫様は目立つからと言ってるでしょう。女性2人置いていくのも危険ですし(1人獣だが)、リュオン様とローザ様は、ここにお残りください。服を買いには、私とサラ様で行ってきます」
「なら、俺が行けばいいだろう!俺は旅衣装だし、身分だって隠してみせる!」
「貴方も駄目です。サラ様と2人で逃亡されては困りますから」
「サラを連れて行く方が目立つんじゃないか」
「ご心配なく。私と一緒に歩いていれば、国家所有の優秀な獣に見えますから」
リュオンはぐ、と言葉に詰まった。ディアンは黙っているサラに声をかける。
「サラ様、よろしいですか?」
サラは、他の2人とは違い、落ち着いて返事をした。
「はい」
ディアンとサラは、無言で市街に入っていく。しかし2人は、少し離れて歩いている。民衆は始め異質な彼らに驚いていたが、しかし獣が大人しいと分かると、陽気に話しかけてきた。
「兄ちゃん!!寄ってかないかい?いい商品があるんだよ!!」
「いえ、結構です……」
そうしてスタスタとディアンは歩いて行こうとするが、ふと気づき振り向くとサラがいない。見ると、市場の商品たちを凝視していた。店の人々も驚いて獣を見ている。サラは、並べられている装飾品に、目をキラキラさせていた。思わず、店主に赤く光る美しい宝石の名を尋ねようと口を開いた。
「あの」
「あーー!!そうだご主人!!若い女性の衣服が置いてあるお店を知らないかい!?」
サラの声がかき消されるほどの声でディアンがそう尋ねると、路店の店主は困惑しながら答えた。
「あ、ああ。この固まりの次の市場の、右側にあったかと……」
「有難う!!おい、行くぞ!!」
ディアンの剣幕に、サラはションボリとし、大人しくついて行く。ハタから見ると、彼は偉大な獣使いに見える。
「サラ様、人前で喋らぬように。それに、我らの目的は衣服です。ゆっくり見ていては、リュオン様に怒られます」
「ごめんなさい……」
そう言いながら、ディアンは気付く。彼女も、若い娘だ。それにこのような場所は、初めてなのかもしれない。
「……帰りは少し見て帰りましょう」
そう言うと、サラは嬉しそうに目を見開いた。ディアンもつられて微笑む。そうして衣服が売られているテントの前に来た。
「さて、どれにしようか……これでいいかな?」
ディアンが選んだのは、真っ黒な旅衣装であった。というのも、彼も今黒い旅衣装を着けていることから分かるように、彼は黒好きである。というか考えるのが面倒だった。
「ではこれを……」
そう言おうとした時、サラはディランの衣服の裾をつついた。
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己あのディアンという男。私を厄介もの扱いしているわ。
ローザは心の中でディアンへの怒声をとばしている。だが、これはまだいい。問題は。
「サラ、無事かな〜……」
リュオンと折角2人きりだが、さっきから彼はこればっかりだ。どこがいいのか、あの獣の。
獣の姿でもリュオンをベタ惚れさせているから、すごいいい性格なのかと思えば、そうでもない。すぐ機嫌を損ねるしリュオンをひっかこうとしているし。
「あの、リュオン様?」
「ん?何ですか、ローザ様」
「リュオン様は、サラ様の、どこに魅力を感じたんですの?」
「あ!聞いてくれますか?」
そう言って彼は、身を乗り出してきた。ローザは、思わず仰け反る。
「まずなんと言っても、あの毛並み!!すごいキレイと思いませんか?」
「そ、そうですわね。確かにはい」
「あれは僕が、毎回彼女のもとを訪れる度ブラッシングしていたんです!!彼女は最初逃げてたんですが、やがて彼女も喜んでくれるようになり、今では2人のスキンシップの一つです」
「はあ」
どうしよう、蹴りたい。
「あとはあの瞳!!そしてあの美しい声!!どれをとっても、彼女は美しい!!」
そうして彼はペラペラと5分くらいサラの美しさについてスピーチを始めた。だんだん沸点がわいてくる。
「ま、冗談はおいといて」
「冗談かよ!!」
思わず叫んでしまった。しかしリュオンはそれを見て、愉快そうに笑われる。
「はは、やっと喋り方戻してくれましたね。俺は、ローザ様は元気な方がいいと思います」
「な、なにを……!?」
「どうせ城で一度怒鳴られてますし、長い旅です。お互い素を出していきましょう」
自分がなかったことにしようとしている事をサラリと言われ、ローザは決まりが悪くなる。
「ふん、貴方!私が何故ここにいるかお分かりで?」
「?私たちを応援してくださるためでは?」
「違います!私は、貴方を私に振り向かせるために、ついてきたんです!貴方が彼女が獣から戻った時、私とどちらがいいかもう一度選んでください!」
「俺は、サラ一筋ですよ?」
迷いもなくリュオンはそう言い放つ。だが、ローザも負けない。
「ふん!それはどうかしら?この旅で、必ず貴方を振り向かせてみせるわ!」
「そうですか、頑張ってください」
ローザはピキッと青筋を立てる。
「2人、遅いですねー」
またその心配かよ。心配しなくても、あんな見るからに怪しい奴ら誰も手を出さないわよ。
第一、あの2人では、きっと変な衣装を買ってくるに違いない。
「あ!!」
リュオンが叫ぶ方を見ると、包みを持ったディアンとサラが戻ってきた。
「戻りましたー」
「私の衣装、ちゃんと良いもの買ってきてくれた?」
「買ってきましたよ、これです」
それは、淡い水色の上着に、紺色のズボンの旅衣装だった。上着には華やかではないが、品よく花の模様が入っている。靴は、黒でシンプルではあるが、動きやすいブーツだ。
「あ、有難う……」
「サラ様が、選ばれたんです」
その言葉に、ローザが顔をあげる。サラは、モゾモゾと恥ずかしそうに言う。
「ローザ様は、そのドレスがとても似合ってらっしゃったので……それに、今着けておられる髪飾りにも合うかなと…」
まさかサラがそんな風に思ってるとは思わなかった。ローザは動揺して立ち上がる。
「…ふ、ふん!私は、何でも似合いますのよ!では、着替えますので、リュオン様、馬車から出てくださいな!!」
そう言って、リュオンはあっさりと投げ出された。ローザは水色の服を見つめる。彼女は今、白い縁に水色のガラスが入った髪飾りを付けている。
あれは一年前の誕生日、当然各国からローザに向けてのプレゼントが用意された。白やピンクのドレス、装飾品が並ぶ中、サガスタからは水色の髪飾りも含まれていた。
それは他の派手やかな装飾品とは違い、控えめではあったが、とても美しかった。
「これは……?」
ローザの問いに、リュオンがオロオロと答える。
「ああ、従者に頼んで用意してもらいました。気に入って頂けなかったでしょうか?」
「いえ、有難う……」
自分でローザのイメージを考えて、用意してくれたのが嬉しい。お礼を言うと、リュオンは晴れやかに笑った。
「……負けないわよ!」
そう言ってローザは、服の袖に腕を通した。
ローザ様、喜んで頂けたかな?
サラがそわそわしていると、ディアンがサラの前で手を広げた。
「それは……?」
「サラ様にも、何か装飾品があると、野良と間違われずいいかなと思いまして。それに、帰りにお店を見ていた際とてもこの品を見つめられてましたよね」
そうして首に、長い銀のチェーンがかけられた。
「お、お前何してるんだ!?俺だってプレゼントなんてした事ないのに!!」
「ですから、チェーンだけにしたでしょう。チャームは何か、貴方があげたらいいじゃないですか」
「ん!?そうだな、う、うーん……」
そう言って彼は固まる。サラはその話を空で聞きながら、首にかけられたチェーンを喜びに溢れた目で眺めている。
「用意出来ましたわ!!」
そう言って、ローザが降りてきた。彼女の言う通り、彼女は美しかった。旅衣装になっても、その立ち居振る舞いから、育ちの良さを感じる。
「ローザ様、よくお似合いです」
リュオンはにこやかにそう言い、ローザはそ、そうかしら?と照れている。サラがそれを冷ややかに見ているが、リュオンは全く気づいていない。
「では、情報探しに参ろうか。いや、飯だな」
そう言ってリュオンが歩き出そうとしたところで、ディアンは彼らを呼び止めた。
「それがリュオン様。先ほど市場で、耳寄りな情報を手にいれました」
「というと?」
「この国には今、優秀な魔法使いがいるそうです」




