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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第8章 許されざる存在
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第57話 いいなずけ

「お願いです。どうか、待ってもらえませんか」


 リュオンがそう告げると、ジェラルドは目を丸くした。


「サラと話がしたいんです」

「それは……一人で行くという事かな?」


 ジェラルドの瞳に、影がおちる。リュオンはその瞳を見て、口を噤んだ。


「リュオン様、私も行きます」

「ディアン」


 強い瞳で訴えてきたディアンの方を、リュオンは振り返る。ジェラルドはそれに、首を横に振った。


「駄目だ。言ったはずだ、今から行く場所には魔物がいる。それも、おそらく巨大化した魔物たちが」

「巨大化……?」

「グルソムの王の魔力は絶大だ。他の魔族にも影響を与える。そんな魔物たちと、君は戦えるのか?もう、オディアスの翼もないんだろう」


 リュオンはそう言われて、何も言えなくなる。


「わかったら」

「リセプト王、大変です!!」


 大きな音と共に、兵隊が部屋に入ってくる。


「一刻も早くゴーデラに!!」

「待て、すぐ行くから……」

「民が向かったのです!」


 兵隊の言葉に、ジェラルドの表情が変わる。


「なに……?」

「殺された者の部族が、仇討ちをするために向かったと……」


 仇討ち……サラに?


 リュオンは走り出すと、兵隊の横を通り過ぎ廊下を駆けていく。


「リュオン、待て!」


 ジェラルドの声が聞こえるが、リュオンは走るのをやめることはできない。


 こんなの駄目だ。ローザ様の言うように、サラがそんな事をするはずがない。


 きっと、何かの間違いだ。


*****


 セキトは、火矢を放たれて苦しむ魔物を、冷ややかに見つめた。ただの弓矢では、魔物はすぐに蘇る。しかし火矢となると話は別だ。魔物たちは悲鳴をあげ消えていく。


 セキトたちの部族は、ユーランの中でも人口が少ない。ペンキで伝統的な文様を描いたガラス細工を作るのを職とする者が多い、穏やかな民族だ。だが同時に、部族以外の領地への侵略を拒む。


 あの日、老婆は見知らぬ化け物に出会ったと叫びやってきた。あれは殺しに来たのだと泣き叫ぶ老婆をなだめ、セキトはイーザたちと共に侵入者がいる場所に向かった。そうしてそこで、悲劇が起きた。

 奇妙な事を言う化け物を追い出すくべく先陣を切って戦おうとしたイーザは、化け物の力により殺された。


 まだ生きている魔物を狙い火矢を放つと、その矢が飛び出してきたものの腕に刺さった。


「やめて!!」


 それは、忌々しい存在だった。銀髪の長い髪に、不自然に生えた黒い耳。そうして、ガラスのような赤い瞳。


 矢が刺さっても、表情一つ変えない。火傷も見る見るうちに消えて行く。このものにとっては、蚊に血を吸われている程度の感覚なのだろう。


 この化け物の中で一番人間に近いように見えて、一番遠い存在がそこにいた。


「お願い、やめて……!!この子たちは、何も悪くない!私が勝手にこの場所に来たの」


 化け物は、許しを請うようにそう告げてきた。その声が勘に触る。


「何を言うんだ?これのどこがひどいんだ、魔物は何度でも蘇る」

「そんな事ない!」

「なら、どうなるんだ?イーザのようになるのか?」


 その言葉に、目の前の化け物は目を見開いた。


「イーザ、さんは……」

「もちろん死んだよ。当たり前だろう?あんな姿になって、生きられる人間がいる訳ない」


 セキトは言いながら思い出す。今はもういない、友の笑顔が浮かぶ。そうして、その者の隣にいた笑顔を。


「あいつはどうした?」

「?あいつ……?」

「殺したのか?イーザのように」


 化け物は首を横に振る。


「とぼけるな。ここにいるはずだ。お前が殺した、イーザの許嫁が!!」


*****


 ……いいなずけ?


 サラは、目の前の男の言葉に、頭の中が真っ白になった。


 この人は、見たことがある。自分が触ったせいで苦しんで倒れた人を、抱えていた人だ。イーザと、叫ぶ声が聞こえた。その人が言うから、間違いない。


 あの人は、死んだんだ。

 自分のせいで。


 そうして彼は、何と言った?許嫁?


 そこで、一人の姿が思い浮かぶ。

 先日助けて、今は洞窟にいる彼女を。


 まさか、あの子が……?


「……覚えがあるのか?」

「あ……」

「無事なのか!?」


 サラは、その質問にうまく答えられない。無事ではない。彼女は腕をかまれ、体に毒がまわっている。


「……まさか……」


 男の顔から、血の気が引いていく。そうして目に涙をため、強く叫んだ。


「……射て!!」


 その声とともに、サラに弓矢が放たれた。痛みが、体を突き抜ける。


「お前のした事は、決して許されない」


 その言葉に、サラは目を見開く。その言葉、その瞳に、ずっと昔に言われた言葉を思い出す。


 ああそうだ。自分は……


 目の前で、火矢が再び放たれた。

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