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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第8章 許されざる存在
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第56話 どうか許可を

 森に迷い込んだ女性を保護して三日経った。まだ彼女の状態は万全ではないが、命の危機は脱した。


 眠っているその姿を、サラは見つめる。はじめは苦しそうだったが、今は薬草を練って作った薬が大分効いて落ち着いているようだ。安堵の息をつくと、クライスがため息をつく。


「ったく。本当可愛くない。人間は、やっぱり嫌いだ」


 サラはその言葉に、思わず笑みをこぼす。クライスは口は悪いが、懸命に彼女を看病している。


「クライス。本当に有難う」

「へ?」

「私一人じゃ、助ける事は出来なかった。それに、私の事も、ここに連れてきてくれて」


 サラがそう言うと、クライスは毛を逆立てた。


「な、なにいってるんです!お礼を言うのはこちらです」


 そうして、触覚をあちこちに動かしながら、高揚した様子で告げる。


「サラ様に会うまで、俺はほこりみたいな小さな生き物でした。貴方の魔力のおかげで、こんなに大きくなって、動けているんです。ここに連れてきたのは、皆が動けたらいいなと、思ったからなんです。だから、サラ様がお礼言うことなんてない」


 クライスの懸命な言葉に、サラは微笑む。そうして、頭を撫でた。


「クライスは優しいね」

「えっ!えへへへへ」


 サラに褒められたからか、クライスはすっかり機嫌がよくなった。


「よし!待っててくださいサラ様!おいしい木の実をとってきます!」


 クライスはそう言うと、洞窟の外へ飛んで駆けていこうとした。だが、暫く行くとふいにこちらに戻ってきた。


「どうしたの?」

「あいつが来てる」

「あいつ?」


 クライスの言葉に、サラは顔をあげ、洞窟の外を見る。かすかに見えるその姿に気づくと、慌てて立ち上がる。


「クライス、貴方はここにいて」


 そう言うと、クライスは不満そうに膨らんだ。その頭をぽんと撫でて、サラは外に向かう。


 そこにいたのは、少女の腕を噛んだ、六本の足を持つ魔物だった。


「どうしたの?」


 サラはそう言って、魔物の前に立つ。あの時、サラはとどめをさせなかった。それは、この魔物は山を守ろうとしていた事が分かっていたからだ。この山には人は滅多に来ない。そんな所に人間が来れば、怯えるのは当然だ。少女の傷も致命傷には至らなかったので、見逃した。もう人間を襲ってはいけないと、言ったはずなのに。


「洞窟の中に、入りたいの?」


 また襲いに来たのだとしたら、殺さないといけない。


 サラは、魔物の胴体の、光る部分を見つめる。魔物は簡単には死なないが、一箇所致命傷となる部分がある。王であるサラには、それが見えてしまう。


 魔物はサラの考えてることが分かったのか、首を振った。そうして、唸るように告げる。


「オウ、ドウカキョカヲ。コノママデハ、コワサレル」

「え……」


 その時、遠くの方で銃声の音が鳴り響いた。ついで、魔物たちの悲鳴がこだまする。


「な、なに!?」


 走り出そうとするサラの前に、魔物が立ちふさがる。


「オウ、イッテハイケナイ。ワタシタチガタイジスル」


 人々の叫び声と、魔物の呻きが聞こえる。サラは頭が真っ白になっていく感覚のなか、目の前の魔物は告げる。


「オウ。ドウカキョカヲ」


 その時、遠くの方で叫んでる声が聞こえた。


「出て来いグルソム!!イーザの仇をとってやる!!」


*****


「な、なんだ!?なにがあった!!」


 外の異変に気づき、クライスは慌てて洞窟の外に向かい飛んでいく。


 その飛ぶ音を聞きながら、女は静かに目を開けた。

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