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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第8章 許されざる存在
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第55話 苦くとも、それが真実

「ユーランにようこそ。私が、国王のアイルだ」


 目の前の女性は、リュオンに向かって毅然とした態度でそう告げた。リュオンはその姿を見て、驚きの声をあげる。


「王様!?それじゃここは……」

「ああ。王城の中だ。お前たちはついてる、別の場所に落ちていたら大変な事になっていたぞ」


 アイルはそう言って、リュオンを鋭く睨む。その瞳の鋭さに、リュオンは身がすくむ。アイルは暫くそうして見つめた後、呟くように尋ねた。


「確かにグルソムに似ているな……本当にただの人間か?」

「!……俺は……」


 リュオンは言葉を続けようとしたが、それ以上言葉を紡げなかった。

 以前魔物にも、同じ事を聞かれた。あの時は自分はグルソムかもしれないと思っていたが、ジェラルドは、違うと言った。


 じゃあ一体、自分は何なのか。


「人間だよ」


 その声に、リュオンは目を見開き部屋に入ってきた人物を見る。


「ジェラルド様……」

「久しぶりだね」


 ジェラルドはにっこり微笑むと、アイルの方を向き告げる。


「すみませんアイル様。少し、彼らと話をさせてくれませんか?きっと、すごい混乱してると思うので」

「……いいだろう。ただし、あまり長いのは困る」

「もちろん、分かっています」


 アイルはジェラルドのその言葉に釈然としない様子で頷くと、部屋を出て行く。やがて足音が遠くなると、ジェラルドは再びリュオンたちに向き合った。


「いやぁ良かったよ、ここに落ちてくれて。他の場所だと迎えに行くのが大変だからね」

「ジェラルド様は、どうやって……」

「俺も君たちと一緒さ。君たちより少し早く到着したけどね」


 ジェラルドは驚く程のんびりとした口調でそう告げる。


「あの、サラ様は……?」


 ディアンは本の山から抜け出すと、慌ててリュオンたちの元に駆け寄り尋ねる。


「現在、行方知れずだよ。お陰で国民は怯えっぱなしだ。働かず家から出ないものや、ああやって城の前でずっと叫んだりしているものもいるんだ」


 リュオンはその言葉に、再び外を見る。外では、皆喉が枯れるのではないかと思う程叫び続けている。


「ねぇ。さっきから、訳が分からない」


 ローザの声に、リュオンたちは彼女の方を振り向く。


「皆、何を言ってるの?サラは……サラは、無事なの?……さっきリュオン様が言ってた事は、本当なの?」


 ローザの問いに、皆何も答えられない。ローザは耐えられなくなり、肩を震わせながら叫ぶ。


「あの子が人を殺すなんて……そんな事、出来る訳ないじゃない!きっと、何かの間違いよ!」


「……見るかい?」


 ジェラルドはそう言って、ポケットから取り出したものをローザに渡す。ローザはそれを受け取り、視線を移した。


「っひ!!」


 見た瞬間悲鳴をあげ、手を離す。離されたそれは空中を舞い、床に落ちた。リュオンは見つめ、絶句する。それは一枚の写真で、何か赤くくすんだ物体が写っていた。


「これ……は……」

「人間さ。可哀想に。最後は苦しそうに死んでいったらしい」


 ジェラルドはそう言って写真を拾い上げると、ポケットに戻した。


「サラさんに殺意があったかどうかは分からない。でもこうして人が死んだのは事実だ。そうして今、もう一つ問題がある」

「問題?」

「……この人には、婚約者がいてね。今その子が、行方不明なんだ。国中探しても、見つからない。あと残ってるのは……ゴーデラという魔物が住んでると言われている山だ」


 ゴーデラ。もしかして、そこに……


 リュオンが思った事に答えるように、ジェラルドは続けた。


「恐らく、その山にサラさんもいる」


 ジェラルドはそう言って、窓の方を見る。外ではグルソムを捕らえるよう、国民が叫び続けている。


「衛兵たちの準備も整った。……今から我々は、ゴーデラに向かう」

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