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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第7章 マーレイスの鎖
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第49話 滅びたはずの

「いやー、今日は実がいっぱい採れた!ノア様、ほめてくれるかなー?」


 そう言って鼻歌を歌う褐色の肌の男の名は、ザンと言う。その背が高く、肩幅が広くどっしりとした雰囲気からよく初対面の人にはかなり上に見られるが、実際はまだ二十代半ばだ。

 ザンは、両腕で果物の大きな実を抱え、すっかり慣れた島の複雑な道を歩いていく。ここは、彼の生まれ故郷ではない。彼は東大陸のローレア国に住むシーザ族に生まれた。今は、彼が慕う1人の女性の側にいる為に故郷を離れ、この地に暮らしている。ある大切なものを守るために。

 彼らがその大切なものに出会ったのは、ここ最近の事だ。それまで守っていた人たちはノアに託し、現在はこの地を離れている。


「おぉっうまいうまい!」


 お腹が減ったため、実を一つぱくりと口に入れてもぐもぐする。これで何度かノアの元に帰る時には量が悲惨なことになっていたが、今日はあらかじめ大量に持っている。調子にのって、もう一個食べる。


「いやーうまいうまひっ!?」


 ザンは、言葉にならない声で叫んだ。地面が、急に揺らいだのだ。その状況を理解し、ザンは急いで走り出す。地面が揺らぐためよろめいたり転んだりしながらも草むらを抜け、ノアの元へ帰る。

 やがて、ノアの背中が見えた。


「ノア様!!」


 濃茶の長い髪と身につけてるローブが、風になびいている。ノアはザンの方を振り向いた。


「ザン」


 ザンはノアの隣まで駆け寄ると、目の前のものを見る。


「これは……!!」

「ああ」


 ノアも頷いて前を見る。そこは、水色の大きな湖のような空間が広がっている。いつも水平に水面が張られてるように見えるその空間が、今は泡を立て揺らめいている。


「解かれたようだ」


 ノアが嬉しそうにそう呟くと同時に、水面が大きく渦巻いた。そうして、無数の光が飛び散る。



*******


「いないな」


 セパール城の一室。当主であるララマは、戻ってきた衛兵たちの報告を聞くと、目の前にいるリュオンたちに告げた。


「目撃証言も、何もないんですか?」

 ローザの言葉に、ララマは頷く。

「ああ。皆、獣など見ていないと言っている」

「そんな……」


 リュオンは、ララマに向かい、頭を下げる。


「申し訳ありません、陛下。見つからず焦っていたとはいえ、皆様を巻き込んで……」

「それはいい。お前たちにはまぁ、色々と世話になった。しかし、こう誰も見てないとなると……魔法の類かもしれないな」

「魔法?」


 リュオンの問いに、ララマは頷いた。


「ああ。あの獣が自ら魔法を使ったのか、もしくは誰かによって移動させられたか。いずれにしろ、あの大きな獣が誰にも不審がられず、目撃もされず一瞬で姿を消す方法としてはそれが一番可能性が高い」


 ララマの言葉に、リュオンは思考を巡らせる。あの時、確かに何も物音がしなかった。


「とにかく、うちの魔法使いに調べさせよう。お前たちは、下手に動かず…」

「陛下!!」


 部屋に、大きな音をたて衛兵が入ってきた。走ってきたのか、額には汗が見える。


「どうした、そんなに急いで」

「西大陸から、通達がありました!直ちに国連会議を開くようです!」


 衛兵の言葉に、ララマは顔を歪める。


「国連会議?何だ一体」


 衛兵はララマに耳打ちをして告げる。少し間がたち、ララマが口を開く。


「……どういう事だ?彼らは、とおの昔に滅びた種族のはずだ。実際にいたかさえも、信じ難い」

「はい……しかし、あの特徴は、間違いないと。現在それは、既に西大陸の小さな部族の若頭を殺したそうです」


 その言葉に、ララマは眉間に皺を寄せる。


「……分かった。すぐ行く。すまないが、少し待っていてくれ」


 ララマはそう言い席から立ち上がると、部屋を後にした。衛兵も彼の後を追い急いで出て行く。部屋の扉が閉められた後も、彼らの慌ただしい足音が響き渡る。


「……ねぇ。何よ、一体」

「さぁ。危険なもののようですが……」


 ローザの問いに、エマも困惑した様子で答える。エマはトラスに視線を向けるが、彼もまた首を振る。

 エマが後ろも振り返ると、そこにいたはずのシアンたちの姿はなかった。


「いない……?すみません、ちょっと見てきます」

「あっ待ってエマ。1人でいくなよ」


 ララマたちに続き、エマたちも扉を開けて部屋を出て行く。


「え、ちょっと!何なのよ皆。サラを探さないと……」


 ローザはそう言い、ディアンとリュオンを見る。ディアンはそれには答えず、主の方を見た。リュオンは、小さく呟く。


「……滅びた種族……」


******


 ジェラルドがサガスタ王と対面してる時に、部屋のドアが叩かれた。


「ジェラルド様、私です」

「何だ、どうした」


 ダグラスはドアを開けると、驚いた表情を見せた。


「サガスタ王、ここにいらしたんですね。皆様が探しておられましたよ」

「何だ一体。何があった」

「緊急の国連会議が行われます」

「国連会議?」


 ダグラスは小さく頷く。


「グルソムが、現れたそうです」

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