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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第7章 マーレイスの鎖
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第48話 解放

 熱い光に包まれる。サラはそれに、思わず目を閉じた。


 ただ体を燃やすような痛い感覚が、体を襲い続ける。何かが自分の体に起きている事は分かるが、今どのようになっているかは分からない。


 ふいに、周りの熱さが引いた。だが、自分の体がまだ熱を持ち、感覚もおぼつかない。


「……う……」


 体が痛い。サラは、体を起こそうとして気づく。


 そこに見えた手は、人間の手だった。


 衝撃に声をあげそうになるが、かろうじて押しとどまり、その手をじっと見つめる。開いて閉じを繰り返し、自分の手だと実感する。


 顔を下に向け、自分の体を見る。瞬間、次は声を出していた。服を着ておらず、裸だった。唯一身につけているのは、首につけている銀のチェーンだけだ。

 サラは何か身に纏える物はないかと、室内を見渡す。


 そこは、小さな部屋一つぶんほどの、石で作られた小さな倉庫のような所だった。壁の角の一箇所に、何か服らしきものが置かれていた。サラはそこに、這って進む。


 近づいて見ると、淡いクリーム色の服と、黒を基調とし茶色い縦の線が入っているブーツが置かれていた。服は広げると、膝もとくらいまであるローブだった。頭から被るだけで良いので、服を着慣れていないサラでも楽に着ることが出来た。

 ブーツも足を入れるとすっぽり入った。どちらもサラの体のサイズにぴったりだ。


 姿が見える場所を探すため、慌てて立ち上がろうとしたが、よろめいて倒れた。四足歩行に慣れていたサラにとって、二本足で歩くことは難しい。


 壁まで這って進むと、よりかかりながら立ち上がる。そうして、自分の足を見る。


 二本足で、立っている。その事に気づくと、サラは喜びで顔を紅潮させた。


 姿を見たいが、石で敷き詰められたこの部屋では、自分の姿を確認する事ができない。まだ少しよれながらも、サラはゆっくり歩きながら、彷徨い歩き出す。

 

「オルフさん、いらっしゃいますか……」


 サラは壁をつたい歩きながら、先程まで目の前にいた人物を呼ぶ。


「オルフさーん!いらっしゃいますか……」


 そうして何回か大きく叫んだが、返事はない。サラはよろめきながらも、石で作られた中で異彩を放つ鉄の重いドアを開ける。


 そこからは、ただ石造りの建物が連なる、裏路地のような場所だった。先程までいたセパールの明るさとは一変し、どこか暗く不気味な雰囲気が漂う。

 

「どこなの、ここは……」


 そう人しれず呟くと、サラは、ふらふらと歩き出す。


「とりあえず、動かないと……リュオンたちを探さなきゃ」


 元の姿に戻っても、皆と会うまでは実感できない。サラはそう思い、暗い路地に足を踏み入れた。


 しかし暗く寂れた路地を暫く歩いても、人の姿は見当たらない。徐々に体の感覚が追いつく中、サラの中で不安は加速していった。


 ここは、セパールのどこなのか。もしかしたら、セパールのどこでもないのか。


 ふいに、一人の老婆がサラが歩いている道と交差している道を横切り歩いていた。サラは人に会えた事に歓喜し、喜んで駆け寄る。


「すみません!あの……っ」


 老婆は気だるそうに顔を向けると、サラの方を見た。


 そうして、悲鳴をあげる。


「ば、化け物……!!」


 化け物


 老婆に言われたその言葉を、サラは一瞬飲み込めなかった。


 老婆は慌てて逃げ、狭い路地をよろけながら駆けていく。サラはその姿に呼びかける事はなく、立ち尽くした。


 ……なんで……?自分は今、人間だ。化け物なんかじゃ……


 周りは石の壁ばかりで、何も反射するものがない。

 サラは、自分の体を触る。自分から見える姿は、紛れもなく人間だ。頭や顔を、手あたり次第触る。


 そうして、背筋が凍った。あるべきところに、耳がない。


 大きな足音が聞こえ、次第に近づいてくる。見ると、老婆が駆けていった路地から、恰幅のいい中年の男性や、若い男性たちが固そうな棒を持ち、こちらに来ている。

 男たちはサラの姿を見ると、息をのむのが分かった。背の高く肩幅の広いリーダーらしき人物が、声をあげる。


「お前、何者だ。何でこんな所にいる」


 サラは、答えようとした。でも声が出ない。


 何で、どうして。

 そんなの、分からない。


「婆さんに、何をするつもりだった」


 その言葉を言われて、サラは真っ青になった。何って、自分はただ、尋ねたくて……


 カラカラと、音が鳴る。

 男は持っている棒が固い地面につけ鳴らしながら、こちらに近寄る。


「早く何処かに行け。痛い思いしたくなければな」


 ゾっと背筋が凍る。


 しかし、戻っても、先程いた場所に戻るだけだ。ここを越えないと、皆を探せない。


「聞こえないのか。去れと言っている」


 男の声が、苛立ちを含んでいる。


 サラは、じっと目の前の男を見る。この人は、ここを守ろうとしているだけで、悪い人ではないはずだ。


「あの!」


 いきなり声を発したサラに、男たちが驚き小さく体を動かす。


「すみません、皆さんを怖がらせたみたいで……でも私、そんなつもりじゃなかったんです。ただ、人を探していて……」


 その言葉に、男は黙ってサラを見ている。


 分かってくれた。サラは、ほっとため息をつく。だが、男の瞳は鋭さを増した。


「ここには住人しかいない。あんたのお仲間なんかいるわけないだろ。見え透いた嘘をつくな」


 その言葉に、サラは目を見開く。


 どうして。

 どうして分かってくれないの。


「嘘なんかじゃありません。目が覚めたら、奥の小屋にいて、それで……」


 瞬間、男が振った棒が目の前に来たので、慌ててその棒を手で制す。後ろの男たちがざわめく。


「止めた!」

「イーザの棒を避けるなんて、やっぱりあの女、ただ者じゃない……」

「ばか、あれは女なんかじゃねぇ。化け物だ」


 男たちが言い合っている中、棒を振り切った男は、顔を真っ赤にしている。


「てめぇ……」

「お願いです、話を聞いてください!私は、皆さんを害す気は……」


「ふざけるな!!」


 男は棒を持つ手を離し、素手でサラを殴ろうとした。思わずサラは、手で頭を庇い目を閉じる。


「ぐぁぁぁぁ!!」


 だが叫んだのは、サラでなく男の方だった。目を開けると、男は顔を歪ませ苦しんでいる。その手は赤く変色し、見る見るうちに溶けていく。


 周りの者たちが、悲鳴をあげる。


「イーザ!大丈夫か、しっかりしろ!」


 男たちが駆け寄り声をかけるが、イーザは苦しみ唸り続けたままだ。腕はどんどん溶けていっている。


 その姿を見ながら、サラは呆然としてた。確かに今、男は自分に触れた。そうして、苦しみ出した。


「……私……」


 サラの中で様々な思考が行きかい、やがてそれは一つに繋がった。


「……!!!」


 言葉にならない叫びがサラを襲う。気づけば、走り出していた。その方向にいた男たちは、怯え避けていく。


「何している、追え!!」


 イーザを抱えている男は強く叫んだ。その声に男たちは頷くとサラを追い走り出す。だが、サラの方が圧倒的に速く、男たちは追いつけない。


 そうしてとうとう、男たちはサラを捕まえることが出来なかった。

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