第47話 時は満ちた
「驚いたよ。まさか、こんなに早く来るとはな」
オルフの言葉に、サラはまだ状況がつかめず辺りを見渡す。まだ具合が悪いのか、オルフの顔もぼんやりとしか見えない。
「ここは、どこですか……?私、宿の部屋で寝てたはずなんですが……」
「ここは、師匠が作った魔法の空間だ。お前が自分で来たんだ」
「?自分で……?そんな、私は何も……」
カツ、という床に何か当たる音が聞こえた。どうやら、オルフが杖を鳴らしたようだ。見ると、杖の下には白く色あせた封筒があった。その封筒は今、薄く青い光を放っている。
「これに、魔法が仕込まれててな。お前に課した条件が揃い、これを触った時、ここに導かれるように出来てたんだ」
「条件……?」
「全て揃っただろう?具合が悪くなったのもそのためだ」
オルフの言葉に、サラは大きく首を振る。
「揃ってないです。まだ、マーレイスの鎖が……」
「ふぅん?じゃあ、これは何?」
オルフはそう言いながら屈むと、サラの首もとに手を伸ばし、銀色のチェーンに触れた。それは、旅に出てはじめて市場を見た時、ディアンが買ってくれた物だった。
「……まさか、これが……!?」
「ああ。これがマーレイスの鎖。お前の呪いを解くのに必要な物だ」
信じられない。声が出せず固まっているサラを気にせず、オルフは淡々と話す。
「言っただろう?それが本当に必要なものなら、自然と集まると。もともとそれはお前が持っていた物だしな」
「私が、持っていた……?オルフ、貴方は何か知っているんですか。さっき言ってた師匠って」
その言葉に、オルフは答えない。彼はチェーンから手を離すと、サラに背を向けて少し離れた場所に立った。
「本当は、封筒を見つけるのにもう少しかかると思ってたんだ。でも実際は、こんなに早かった。師匠が何か細工をしたのか、それとも運命だからなのか、不思議だな」
サラは、封筒を見下ろす。これは、リュオンが持ってきた本に挟まってた物だ。
ふいに、視界が少し明るくなった。見ると、オルフの周りにはいつのまにか、サラたちがこれまでの旅で集めてきたものがそれぞれ光を放ち浮かんでいた。サラの首元にあるチェーンは、サラの首にかかったまま、微かに浮いて光を放っている。
前を見ると、オルフの瞳は、それまでサラが見てきた気だるそうな様子はなく、射るような強さのある瞳だった。
サラは、自分の鼓動が強く脈を打つのを感じた。
「……私、元に戻れるんですか……?」
サラの問いに、オルフは答える。
「ああ。お前が望むならな」
「……戻りたいです。お願いします……!!」
サラは、考える間もなくそう叫んでいた。その言葉に、オルフは満足そうに微笑んだ。そうして杖を振り、宙に浮かんだ物体は天高く上がり融合し、オルフはサラに向かって杖を掲げる。
瞬間、熱い感覚がサラの体内を駆け巡った。




