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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第7章 マーレイスの鎖
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第44話 見てこなかったもの

 思ったとおりだ。


 ジェラルドは、声を荒げた前王に動じず、心の中で確信した。


 この人は、何か知っている。


「教えて頂けませんか」


 前王は、唇をかみ、恨むように言った。


「……私は、何も言えない。約束したからな」

「約束?誰と?」


 前王は、首を静かに振った。


「それは言えない。……折角来て頂いたから、今日は泊まって行かれてください。だが、明日には、ここを出て頂きます。ゼネス、行くぞ」

「!待ってください、父上!父上はなにか……」

「ゼネス」


 前王が低く告げると、ゼネスは顔を悔しそうに歪めた。そうして、ジェラルドたちに礼をして前王と共に去っていく。


 暫くたつとジェラルドは、背もたれに寄りかかった。


「はー、つっかれたー」

 その言葉に、隣にいてじっと成り行きを見守っていた従者ダグラスは口を開いた。

「一体前王は、何を隠してるのでしょうか。現王であるゼネス様は、ご存知ないようでしたね」

「ああ……」


 ジェラルドは、思い出す。ゼネスは、本当に何も知らないようだった。何故、今まで知ろうとしなかったのか。ジェラルドは、理解に苦しむ。


「ところで、本当にこれ、グルソムの血なんですか」

「まさか。適当に絵の具を薄めて作ったものだ」


 ダグラスの質問に、ジェラルドは全く悪気がなさそうに微笑んだ。


*****


 暗がりの中、ジェラルドは客室で寝ていると、ドアを叩く音が聞こえた。ドアを開けると、そこにいたのは現王ゼネスであった。


「中に、入ってもいいかな」


 ジェラルドは、訝しみながら頷く。彼は簡易な服を身につけていて、手には紙らしき物しか持ってない。魔法を使える自分の方が、優位なはすだ。


 ゼネスは中に入ると、椅子を勧めるジェラルドに首を振った。その瞳に、光はない。ジェラルドは、彼の手元に目線を移した。


 そこには、満開の笑顔の、若い女性がいた。ゼネスはジェラルドの目線に気づくと、穏やかに告げた。


「私の妻、リアだ」


 茶色い髪に、茶色い瞳。この地に多い、至って普通の容姿の女性だ。だがその笑顔は、見る者を惹きつける力がある。


「幼い頃から決まっていた許嫁だった。だが、私は彼女を愛し、彼女もまた私を愛してくれていたと思う」


 ゼネスは、ぽつぽつと言葉を紡いだ。


「私がどうしても行かねばならない外交に行ってる間に、妻の体は急変した。急いで戻ると、既に妻は息を引き取っていて……生まれた子どもは、小さな体で、しかし生きていた。

……あの子は、妻の忘れ形見だ。だから私は、例え髪の色が違っても、瞳の色が違っても、あの子を大切にしようと決めた。守って、いきたいと」


 王は弱く微笑む。


「……本当は、知ってたんだ。私には、知らない事実があると。しかし調べようにも、常に周りには人がいて、王の仕事もあり自由に動けなかった。どこか父にも、監視されている気がして……」


 そこまで言うと、ゼネスはため息をつき、首を振った。


「いや、違うな。結局私は、知るのが怖かったんだ。……そうして、ずっとあの子とも向き合っていなかった」


 ゼネスは顔をあげ、ジェラルドを真っ直ぐ見た。その瞳にはまだ迷いが見えたが、意を決したように言葉を紡ぐ。


「私は昔、父の部屋で見つけた物がある。魔法使いからの、父への手紙だ」

「魔法使い……?」

 ジェラルドの問いに、ゼネスは首を縦に振って頷く。

「かつてこの地をグルソムの手から救ったとされる、英雄の弟子だ」

「英雄は、魔法使いだったのですか……?」

「そうだ。知る者は少ないかもしれないな」


 どの文献を調べても、そんな事は書いていなかった。ただ、英雄は世界を悪の手から救ったと。

 魔法使い……そう聞いた時、ジェラルドの脳裏にはある人物が浮かんだ。何か、悪い予感がする。


「だが、彼は色んな地を転々としてるらしく……今、どこにいるか分からない」


 ジェラルドの混乱をよそに、ゼネスは話し続ける。そうして、ジェラルドの手を掴んだ。


「だから、一緒に探してくれないか。魔法使い、オルフ•リーゼフを」

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