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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第6章 セディウスの糸
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幕間

 城の修復作業が始まり、その場にいたサラたちは流れで付き合う事になった。初めは皆サラに怯えていたが、大人しく瓦礫を動かす姿に、皆逃げ惑ったりせず遠巻きに動けるようにはなった。

 力仕事に向いていないローザは、エマと共に小さな欠片となった瓦礫を片付けている。


「心配かけてごめんなさい。エマ」


 エマはそう告げた目の前の少女を見る。その姿はブラウンの髪に綺麗な緑色の瞳で、いつも見慣れていたはずの彼女だ。

 しかし、彼女は何かが変わった。身長とかではなく、何かが変わった気がする。


「……エマ?」


 ローザがエマの顔を覗きこんでくる。彼女は慌てて返事をした。


「全く、心配致しました。オーセルに帰りづらいのは私たちも分かりますが、まさか共に旅に出るとは」

「そうね、今更だけど自分でもなかなか嫌な奴だと思うわ」

「トラスにも後でちゃんと謝ってあげてくださいね」

「分かってる」


 ローザはそう言って肩をすくめる。そうしてまた欠片拾いに戻った彼女を、エマは見つめた。そうして、彼女がどう変わったのか気づく。


「でも、旅をされて、良かったみたいですね」

「え?」

「何というか……お優しい顔立ちになられました」

 それを聞くと、ローザは眉を上げた。

「私は元々優しい顔立ちよ」

「それもそうですね」


 そう言って、二人で笑い合う。明るいその笑い声が、優しく響いた。


*****


 休憩時間になり、飲み物が配られた。サラはリュオンが持ってきてくれた浅く広い皿に注がれた水を飲んでいる。ローザは二個コップを持ち、きょろきょろと目的の人物を探す。その人物•ディアンは、階段に座り虚ろな表情をしていた。


「はい、どうぞ」


 差し出すと、ディアンは小さく会釈をし受け取った。そうして飲み出す。ローザはその隣に座り、少し飲むと、コップを手に持ち小刻みに揺らしながら告げた。


「わ……悪かったわね!」


 そう言うと、ディアンは首を傾げた。


「謝ってあげる。だから、仲直りしましょう!いや、してあげなくもないわ!」

「はぁ……いつ、喧嘩しましたかね?」


 呑気な声でそう尋ねられたので、ローザは動揺し答える。


「いつって……ほら、ギクシャクしてたじゃない!貴方の、その、手当てしようとした後から……」

 ディアンはその言葉に、「ああ」と思い出したように言った。

「そんな事もありましたね」

「……いいわよ、もう……」


 決死の覚悟で言ったのに。何か肩透かしをくらった気分になり、怒る気力もわいてこなかった。脱力していると、ふいに髪に触れられた。驚いて見ると、ディアンがこちらを静かに見ている。


「な、何!?」

「元に、戻ったんですね」

「え、は、髪!?」

「はい。瞳の色も、先程は黒でした」


 そうして凝視してくる。ローザは顔が赤くなるのを隠しながら、平静を装って告げた。


「私も、よく分からないの。サラに会ったら、元に戻って」

「サラ様に、ですか……」


 そうしてディアンは何やら考え込み、長い沈黙が落ちる。まだ自分の髪を持ったままだ。身体から変な汗が出てくる。


「……あの、そろそろ離してくれない?」

「あ、すみません」


 ディアンが気づきそう言って髪を離した瞬間、目が合った。ローザは顔が真っ赤になるのを感じ、持っていたコップを握りしめ衝動的に立ち上がる。


「じゃ、じゃあ仲直りという事ね!それじゃあ!」


 そうして足早に立ち去っていく。ディアンが何か言おうとしたが、聞こえない振りをしてずかずか突き進む。彼からかなり遠くなった所で物陰に隠れ、呼吸を整える。


「落ち着くのよ、これは何かの間違い。大丈夫、大丈夫……」


 ブツブツ小さな声でそう唱える。ある程度収まったところで、気を取り直し、そのまま真っ直ぐ進もうと歩き出す。

 ふと気になり後ろを振り向くと、ディアンは空を仰ぎ見てた。その顔は、どこか寂しそうだった。

 

*****


 ディアンは足早に去って行く小さな背中を見送った。怒らせてしまったのだろうか。仲直りと言っていたから、怒ってはいないのか。まぁ、元気そうだから良かった。先程会った悪魔は、彼女の心を縛っていたが、その力は彼より強い力によって破られたと言っていた。その強い力とは……


 そこまで考えて、ふと空を見上げる。これから一体、何が待っているのだろう。


 サラとリュオンが自分が何かを探し求めているのを、凄いと思う。自分は、何も知らず、このままでいたい気がする。


「ディアン!」


 声がした方を見ると、先程去っていったはずのローザがまだ少し離れた所にいた。


「貴方も何か悩んでるみたいだけど、気にするだけ無駄よ。ただでさえ目つきが悪いんだから、それ以上目が細くなったら大変よ」


 ディアンは目を丸くする。その顔を見て彼女は満足そうに微笑み、駆けて行った。


「……もっといい言葉があるだろう……」


 彼女は自分を慰めたかったのだろう。ディアンは下手くそな言葉に苦笑し、飲み干したコップを持ち立ち上がる。


 そうしてどこか軽い気持ちで、歩き出した。


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