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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第6章 セディウスの糸
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第37話 ジェシカとリリス

 少女は、用意された部屋の中でドレスを着た自分の姿を鏡で見る。黒い髪に黒い瞳。その瞳に光はなく、表情もどこか虚ろだ。身につけているドレスの淡い赤色だけが明るく、奇妙な感覚を感じる。


「ジェシカ様、お時間です」


 メイドの声に、少女はゆっくり振り向く。そう、彼女の名はジェシカ。彼女を助けた者がつけてくれた名。

 少女はメイドの後ろを歩く。大きな廊下を渡り階段を下りると、重い扉が開かれた。


「有難うございます」


 ジェシカはメイドに礼をする。心なしか、メイドの顔色は悪かったが、ジェシカはそこまで気を配る余裕がなかった。


 パーティー会場は、驚く程大きく華やかだった。光り輝く無数のシャンデリアの下に、豪華な食事や食器が並ぶテーブル。そして華やかに着飾った人々が既にたくさんいる。

 どうやらまだ、主役である王様は来ていないらしい。

 彼女はどこか自分を場違いに感じ不必要な程肩を縮こまらせる。頼れる人もおらず、ただパーティー会場の端っこに立っていた。そこに、一人の男性が近づく。

「はじめまして、私はザプトの大臣、アシュールと申します」

 完全に顔に張り付いた笑顔を浮かべ、男は優雅にお辞儀をした。

「はぁ……」

「お連れの方は、いらっしゃらないのですか?」

「ええ……私は、生き倒れていた所を拾われて、このパーティーに参加させて頂くことになったんです。ここに案内してくださった方も、どこかに消えてしまいました」

「お噂は聞いてますよ。何でも、この国の宰相直々にこのパーティーに参加して頂くようお話があったとか。本日お会い出来るのを、大変楽しみにしていました」

「え、いえ、そんな事は……」

 男の声はどこまでも優しかった。しかし、その瞳には黒いものを感じ、ジェシカは後ずさる。


「ジェシカ様。あちらで一緒にお話ししましょう」

 ふと、誰かがそう言い彼女の腕を掴んだ。

「おい。彼女は今私と話して……」


 男も文句を言おうとしたが、その言葉は最後まで続かなかった。ジェシカも腕を引いた人物を見る。そこには綺麗な少女が立っていた。水色の瞳に、亜麻色の髪。歳は、ジェシカと同じくらいだろうか。淡い水色のレースを何枚も重ねたドレスを着ている。


「申し訳ありません。彼女と少しお話がしたいんです」

 少女がそう言うと、少女に見惚れていた男は我に返り慌てて返事をする。

「えっ、あ、はい!どうぞ!」

「有難う。失礼致します」

「あの、貴方のお名前は……」

「リリスと申します」


 少女はそれ以上何か尋ねようとする男を無視し、笑顔でジェシカの腕を引き離れていく。男から大分離れたところで、ジェシカは目の前の少女に声をかける。


「あの!有難うございました。助けて頂いて……」

 ジェシカがそう言うと、リリスと名乗った少女は振り向き、ジェシカを凝視する。


「あ、あの……」

「貴方は、本当にジェシカって言うの?」


 心なしかリリスの声が先ほどより低い気がする。


「……本当の名は、分からないのです。生き倒れてたところを拾われて、こうして助けてくださりパーティーにも参加させて頂いたんです」

「うーん……まぁいいか。あのさ…」


 そこで、場内から歓声が湧いた。


 見ると会場の奥の祭壇に、一人の小柄な男が立っていた。七色の羽織を肩にかけ、黒い衣装を着ている。褐色の肌にウェーブがかかった黒色の髪で、見た目はまだ幼い子供のようだ。


「皆の者。今日は余の為によく来てくれた」


 その声に場内から溢れんばかりの拍手が起こる。


「実物の方が派手だな……」


 リリスから出たその呟きに、ジェシカは驚いて彼女の方を見る。リリスは慌てて、ジェシカに告げる。


「まぁいい。とにかくここから出よう」


 リリスはそう言うと、会場の出口に向かって歩いて行く。王の演説は、まだ続いている。


「余は今宵、生涯を共にする女性を見つけたいと思っている」


 あと少しで出口だ。リリスが出口に近づき、扉の側にいる係りに声をかけようと口を開いたその時。


「花嫁にしたいと思った人物には、パーティーの最後にこれを贈る。我が国の王族に受け継がれてきた、この衣。セディウスの毛で作られた羽織を」


 王の声と共に、一つの布が王の手で広げられた。それもやはり、七色に光るものだった。


「セディウス……」


 言われてリリスは考える。セディウス……


「なにぃ!?」



*****


「リュオン大丈夫かなぁ」

「ええ、心配です」

 サラたちは、城壁の周りに生えている木の中に隠れ、リュオンとローザと思われる人物が現れるのを待ちわびていた。

「エマ、いい加減元気出しなよ」

「全然元気よ。男性に負けた事なんて、少しも気にしてないわ」

 後ろでエマが落ち込んでいる。


 シアンがあの後提案したのは、女装したリュオンが城に潜入するというものだった。最初はリュオンも心底嫌がっていたが、出来上がると意外にというか怖い出来で、見事潜入に成功した。あとはリュオンがその少女と仲良くなるだけだ。

「きっとすぐ出てこられますよ。大丈夫です」

「うん……」


「それはどうかなぁ」


 シアンは腕を組んだまま、そう呟いた。四人は彼の方を見る。


「え?」

「そもそも貴方が提案した事でしょう、シアン」


 エマがそう言うと、シアンの後ろにいたコバルトが手を挙げた。


「皆さん、気づかれませんでした?あの王の羽織」

「気づいたわよ、すごい派手だったわよね」

「あれは、セディウスの毛で作られた羽織なんです」


「へー。……え?ええ!?」


 ディアンは皆が驚く中、何か奇妙な感覚に襲われた。


 何かがおかしい。


 


 パーティー会場の最上階。人々から見えない死角に二人の男が立っている。一人は無表情に、もう一人は微笑みながら、その会を眺めていた。


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