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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第5章 ナサイルの刃
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第29話 島の人

 褐色の肌に茶色の短髪のその男は、ディアンたちを確認すると眉間に皺を寄せる。


「一体何者だ、あんた。でかい獣連れてるな」


 そういう男もでかい。ドスっと大きな音をたてて木から降りてディアンとサラの前に現れた彼は、長身であるディアンより背が高い。2メートルくらいあるのではないだろうか。

「船が故障して急遽このアザラ島に寄らせてもらったんですが、中に入ろうとしたところで飛ばされて迷子になったんです」

 ディアンが訳の分からない現在の状態を素直にそう言う。自分たちでもよく分からない状況だったが、男はそれだけで納得したようだ。

「そりゃあ大変だったな。よし分かった、俺が外まで案内してやるよ」

 素直にディアンが言った言葉を信じたらしいその男は、くるりと踵を返し歩き出す。

「あの、ここは今どこなんですか?」

「ここは外でも中でもないんだ。だから、あんたたちが探してる場所にはいつまで歩いてもたどり着く訳ないよ」

 それは驚いた。さっき自分たちは外にいたはずだ、おいしい魚も食べたし。しかしあれは、外ではなかったというのか。

「魔法か何か……ですか」

 ディアンの問いに、男は前を見て歩きながら続ける。

「ああ。ここは別の小さな無人島でね、まぁ俺がたまたま遊びに来てたから。ついてたね、あんたたち」

 つまり自分たちは外にはじき出されたと思っていたが、別の島に飛ばされていたということか。

「あの!私たちの他に、もう2人いらっしゃるんです」

「うわっ!」

 男はそう言って後ずさる。

「びっくりしたー、いきなり女の声が聞こえたから。あんたが言ったの?」

 ディアンは尋ねられてブンブン首を振り、隣のサラを手で示す。男は不審そうにサラを見る。

「この人は、呪いによってこの姿にされてしまったんです」

「……すみません、驚かせて……」

 獣が喋ったらやはり驚くだろう。しかし彼はそれを聞くと、ほっとした表情を見せた。

「びっくりしたー、女声も出すのかと思ったじゃん」

 どうやら彼は、喋る獣というものには特に驚きはないらしい。いいなぁ強そうで、と何かほめられた。

「で、もう2人も今この島にいるの?」

「はい、たぶん……」

「あちゃあ。参ったね、これは。変な穴に入ってないといいけど」

「……?」

「ほらここ。穴いっぱいあるでしょ?」

 言われてみれば、何個か大きな穴があり、中には道が繋がっているようだ。

「この中は洞窟になってるんだけど、一つが島の外に、一つが島の中に通じてるんだ」

「へぇ……」

「で、その他は皆この島の洞窟で、入っちゃった人は地獄行きって訳」

 なんて笑顔で言い切るんだ。というか、地獄行きってなんだ。

「だ、大丈夫でしょうか?2人……」

 男の言葉を聞いて真っ青になるサラに、ディアンはにこりと微笑む。

「平気でしょう。見るからに変な感じですし、中に入ったりしませんよ」

「で、ですよね!」


 そのまさかで、2人は一つの穴の中で現在休憩している。

 ローザは、己の片思いの感傷に浸っていた。思えば、最近当初の目的を忘れつつあった。サラのボケとリュオンの変態ぶりに翻弄されていたのと、どこぞの口の悪い無愛想な男が邪魔していたせいだ。

 そうだあの男。初めから私への態度が何か刺々しかった。そのくせ何か色々助けられて。ちょっとはいい奴なのかと思えば、女の人と飲み行って。そうして何かあるのに何も言ってくれなくて、拒絶されて。


 ……あれ?


「ローザ様?」


 リュオンが自分の名を呼んでいる。しかし、ローザはそれに返事が出来なかった。

 思考がぐるぐる回る。


 いけない、折角リュオン様と2人きりなのに。先ほど自分の片思いに切ない気持ちになったばかりなのに。


 私は何故、あんな男のことを。


「熱だ、熱だわ……!!」


 いきなり頭を抱え出したローザに、リュオンは首を傾げる。そうして同情に満ちた顔をする。

「そうだね、大分疲れがたまっていたみたいだし」

「そうよね!そうですわ!そうに違いない!」

 何か妙に迫力があるローザが詰め寄ってきて、リュオンは戸惑いながらも頷く。ローザはそんな彼の様子には気づかず深呼吸をする。


 大丈夫、大丈夫だ。例え少し変態だろうと、やはり私が好きなのはこの人だ。今日だって優しいし。きっとあの男とのコンビだったら目を覚ますなり嫌味の一つでも言われるだろう。いや、むしろジャングルの中に置いていかれるかもしれない。

 そうだ、ローザはリュオンに聞いてみたい事が他にもあった。それもあの無愛想男のことで、聞くことがためらわれる。でも聞きたい。

「あ、あの、リュオン様……」

「はい」

「あの、ディ」

 その言葉を言う前に、リュオンが自分の方に近づいてきた。そうして触れてくる。

「りゅ、リュオン様!?何して」

 真っ赤になったローザをリュオンはお姫様抱っこではなく、肩にかつぐ形で抱え走り出した。リュオンの肩に担がれながら遠のいていく景色を見ると、無数の生物、実に凶暴そうで見た目が様々な生命体が自分たちを追ってきている。遠くて色かごちゃごちゃしていて何か分からない。


「何ですかあれは!?」

「分からない、とりあえず逃げよう!!」

 そう言ってリュオンはローザを抱えて走る。


 どんどん洞窟の中に入っていっているが、本人たちはそれどころではない。

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