第3話 ご対面
急いで向かうと、そこにリュオンと陛下の姿があった。陛下は、白ヒゲをたっぷりたくわえた、名声高いサガスタの誇りである。しかし今彼は、ローザの姿を見るとオロオロし出した。
「ろ、ローザ様!何故ここに……」
「申し訳ありません、陛下。うちの従者が訳分からないことを言うもので」
そうローザは作り笑いでサラサラと言ったが、リュオンの隣にいる者から視線をそらせなかった。者というと語弊があるのか。リュオンの隣には、獣がいた。
獣は、全身黒く、その中で赤い瞳が鋭く光る。鋭い爪をもつ四つの手足を床につけており、どう見ても獣だ。ふさふさの尻尾は長く、床におち更に伸びている。
「ローザ様。お久しぶりです。相変わらず、お美しいですね」
王のうろたえ様とは対象的に、リュオンはにっこり笑顔を浮かべるほど落ち着いている。その態度に、ローザは頬を引きつらせながらも、笑顔で返す。
「あら。お美しいだなんて。私の求婚を断っておいて、よくもそんな嘘を言えますわね」
「とんでもない。姫様は、お美しいお方です。ただ、私には貴方より愛しい方がいまして、胸が張り裂ける思いでお断りさせて頂きました」
「その愛しい者というのは、そのお隣の獣さんだと……?」
ローザの低い問いに、リュオンはテンション高く答える。
「はい!姫様っご紹介致します。こちらが私のフィアンセ、サラです」
ローザの中で、何かがきれた。
「ふざけるなーーーーー!!!」
声の限り叫ぶ。エマたちも、盗み聞きしているサガスタの城の者たちも驚く。だがもう、抑えられない。
「結婚を断わっただけでも腹ただしいのに、理由が獣がフィアンセですって!?貴方、私をどこまで侮辱すれば気が済むの!?嘘つくならつくで、人間を連れて来なさいよ!いくら私より美しい娘がいなかったからって、獣連れてくる人間がどこにいるのよ!?」
「ひ、姫落ち着いて」
陛下は可哀想に、オロオロし、今にも倒れそうだ。だが、今は賢い臣下が既に倒れており、彼が今倒れるわけにはいかない。
「息子はきっと、何か悪いのにとりつかれているんです」
親が必死にフォローしているのに、息子は悪びれない。
「何言うんですか、父上。私は正常そのものですよ」
ローザはよろめく。噂には聞いていた。リュオンには、恋人がいるのではという噂。それは、彼が度々城を抜け出していたからである。でもどこを調べても具体的な話が出てこず、デマだと思っていた。どのみちいたところで、自分が負けるわけないとも。
それがまさか、獣だなんて。
「ああ、ローザ様。お気を確かに」
よろめいたローザを、従者2人はしっかりと支える。
「……私が嫌なら、はっきりそう仰ってください、リュオン様。このままでは、私は国に帰れません」
「え、いやですから。私は貴方がどうとではなく、既に愛しい人がいまして……」
「まだ言うか!獣だろーが!」
「いえ姫様。この者は呪いにかかってるだけで、本来は人間なのです」
「……へ?」
「な?サラ」
リュオンはそう言って、獣に優しく問いかける。気が狂ったかこのバカ王子。と思ったが、獣は彼をチラと見ると
「……はい」
と返事をした。
「ひゃああっ!?」
ローザは驚いて激しく身動ぎし、彼女を支えていた従者共々倒れた。
け、獣が喋った。低くはあるが、しかし女の声だ。それがことさら恐怖を煽る。
まさか、本当に、この獣が。
「……初めまして。サラと、申します……」
獣はそう言うと、深々とお辞儀をした。