第27話 二手に分かれて
「さあ!今日はこれで遊ぼう」
彼はそう言って、四角い台といくつもの駒をテーブルの上に置いた。
「何それ?」
「まぁまぁ。やってみようよ、面白いよ」
そうして彼は簡単なルール説明をしてから、自分の承諾を聞かずにゲームを始めた。
しぶしぶゲームに付き合うため椅子に座る。そうしてゲームの半ば、駒を置きながらどうでも良さそうに彼に尋ねる。
「貴方は一体何者なの?」
「ん?」
彼はすぐ駒を置き返し、自分もそれに続ける。
「何か裏にあるとしか思えないわ」
「うーん……」
彼はそう言って黙り込む。そうしてかなり黙ったあと、彼はニヤリと笑い、駒を置いた。
「僕の勝ちだ」
そうして彼は嬉しそうに「早かったね。もう一回やろ〜」と片付けていく。
「ちょっと!質問に答えなさいよ」
「はい?」
「だから、何の目的があるっていうのよ」
彼は駒を戻す手を止め、不敵な表情を見せる。
「そうだな。神が運命で繋がれた僕らが出会うよう、僕をここに導いたんだ」
その返答に、鋭い目で睨みつける。
「……わかってるの?私がその気になれば、貴方なんてすぐ殺せるのよ」
「うん。でも、君はそうはしないだろう?」
そうして彼は、にこりと微笑んだ。
「君は本当は、誰よりも優しいから」
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「……ディアン様」
海の音が聞こえる中、黒い獣は広大な地を見つめながら、隣の背の高い青年に話しかける。
「はい」
「ここは、どこでしょうか」
「……どこでしょうね」
一瞬の、しかし長い沈黙のあと、サラは恐る恐るディアンに再度尋ねる。
「……私たち、飛ばされたのでしょうか」
「ですね」
やはり。
「サラ!!サラ、どこだ!?」
大声でリュオンは愛しい獣の名を叫ぶが、返事は全く返ってこない。
「サラー!サラーー!!」
「リュオン様!静かにしてください!獣にでも見つかったらどうするんですか!?」
リュオンの後ろからついて来ながらローザはそう言う。本人も結構な音量で叫んでいることには気づいていない。リュオンはそこにはつっこまず、彼女の方を振り向き訴える。
「だから、会いたくて探してるんじゃないか!」
「サラじゃない獣です!絶対いますよ、この島」
今彼らは、周りに緑が生い茂っていて、微かに空が見える島にいる。どれぐらいの大きさかは分からない。歩いても歩いても、緑が広がっている。気温もかなり暑く、リュオンは上着を脱ぎシャツだけに、ローザは腕をまくっている。
獣がいると言うのは、何者かが生活している形跡がところどころあるからだ。
そもそも、何故こうなったのか。
ボロボロの船はある日海を浮遊する生物とぶつかっただけでヒビが割れた。かなり危ない状態だったので、近くに見える島にやっとこさたどり着いたまでは運がよかった。
ルゴーが修理している間4人は食糧を探しに島の中心地に入ろうとした途端、何か不思議な現象が起こり、皆外にはじき出された。
そうして何故か二手に別れ、現在に至る。
「でもまぁ私たちも無事ですし、向こうも大丈夫なんじゃないですか?」
「そうだといいんだが……あああ2人に何かあったらどうしよう……」
そうしてリュオンはその場にうずくまる。
ローザは慰めようとしたが、再び勢いよく立ち上がり叫び続けるリュオンにため息をつく。向こうは一体、どうしてるのか。
「ディアン様、焼き加減はどれくらいがお好みですか?」
「あ、今丁度いいですね」
リュオンが激しく叫んでいる一方で、2人はとりあえずお腹が空いたと魚をとって焼いていた。一応探しはしたのだが、見つからないため先に腹ごなしをしてから探すという考えだ。
「美味しいです」
「本当ですか?よかった〜」
2人が話している間も、何か獣の鳴き声のようなものが聞こえる。
「この島、動物いるんですかね?」
「でしょうね。ところどころ、足跡があります」
ディアンはそう言って、地図を広げる。そうして、南大陸の近くを指差す。
「恐らくですが、南大陸の近くにあるこの三つの諸島のどれかでしょうね。大きさから言うと、アザラ島かもしれません」
「ふーん。何か不思議な力で守られてるんですかね?」
「そうですね。食べ終わったら再度調べてみましょう」
そうして再び魚を食べるディアンに、サラはずっと聞きたかったことを聞いてみる。
「あの……ローザ様と、何かあったんですか?」
「いえ?別に何も」
「そうですか?何かお二人最近お話されてなかったから……」
ディアンは魚を食べる手を止め、サラの方に顔を向けた。
「サラ様は?リュオン様と、何かあったんですか」
「え?あ、ああいや。何もないんです、何も」
サラが首を振ると、ディアンは素直に頷く。
「そうですか」
2人は食事に戻るが、サラは何やらうずうずしていて、やがて決心してディアンの方を向いた。
「……やっぱり、ちょっと聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「最近、リュオンが何か隠してるみたいなんです。ご存知ですか?」
「はい。何かこそこそされていますね。何かまでは、存じませんが」
その言葉を聞いて、サラはしゅんとする。
「そうですか……」
「今度私から聞いてみます」
その言葉に、サラは慌てふためく。
「いえ、いいんです!彼がいつか教えてくれるかもしれませんし。それに……リュオンを責めることなんて、出来ないんです」
自分も、リュオンに言えないことがある。
夢を見る。
今のリュオンと同じくらいの歳の、不思議な格好をした少年の夢。
彼が一緒に話してるのは、恐らく自分だ。
ただの夢なのか。それとも……
サラの思考は、ところでサラ様は何でも食べられるんですね、というディアンの感想によって断ち切られた。




