第19話 幕間
ディアンは今船の中の、普段は食事の時に使っている大きなテーブルで、手紙を書いていた。
その字は実に彼らしく、几帳面で乱れがない字である。
決まり文句まで書き終わったあとは、彼は迷いながら続きを綴って行く。
私たちは、ただ今海を渡り、リセプトという、広大な東大陸にある国に向かっています。現在そのリセプトの船に、国王様のご好意で乗せてもらっています。あとで何か国王様の方からもお礼を送って頂ければと思います。
リュオン様は、華麗なる統率力で我が一行を率い、サラ様の呪いを解くための道を開いていっています。
体調の方もなにも問題なく、健康であらせられます。
「うーん……」
「全く。厨房にある食材をつまみ食いするなんて、一国の王子が情けない。しかも生のままで……」
「美味しそうだったんですよ、キラキラ輝いていて……」
「リュオン、大丈夫?」
「有難う。でもサラに膝枕してもらったら、すぐ元気が出るかも……」
「出来ないでしょ」
サラ様も、大変聡明で、慎ましやかな方です。リュオン様が好きになったのも、今なら分かります。
「ちょっとサラ!!それは食べ物じゃないわよ!?」
「え?違うんですか?だってお皿の上にあるし……」
「お皿に乗ってたらなんでも食べられるなんて、どんなお気楽な頭してるのよ?」
「サラ、可愛いなー」
「この2人はお似合いだねー」
ローザ様は、口うるさくて仕方ないです。最初の猫かぶりがはがれてからは更に磨きがかかり、哀れにも見えてきます。
「ちょっと。なんで私だけ悪口なのよ?」
気づけばサラとローザ、ジェラルドの三人が後ろでディアンが書いてる手紙を見ていた。リュオンはうーんとソファーに座り唸っていて、ダグラスは彼に実に冷たい表情で風をあおいでいる。
「短いお手紙ですね。あまり伝わらない気が……」
サラの感想に、長く書くとボロが出そうだからですとは言えず、ディアンは結びの言葉を書き、封を閉じる。
「父上への手紙か?」
遠くから、リュオンがそう尋ねる。
「はい。くれぐれも手紙を届けるよう言われていまして。しかし、いつ辿り着くのか謎ですが」
「じゃあ書く意味ないんじゃ……」
「任務ですから」
そう言って彼は海を浮遊する鳥を捕まえその手紙をくくりつけて飛ばす。
ローザはその姿を見て、ドン引きしながらリュオンに尋ねる。
「……あれは真面目にやってるの?」
伝書鳩ならいざ知らず、どう考えても無理な気が……というかリセプトで郵便で出した方が遅いかもしれないが確実なのでは。
「ディアンはいつだって真面目だぞ。可愛いよなぁ」
リュオンはそう言って微笑む。こ、こいつらバカ主従か。
ローザが固まっている横で、ジェラルドは仕方なさそうに笑う。
「ははは、君たちは皆変わってるねぇ」
ダグラスは白い目でジェラルドを見る。
「ん?なんだダグラス」
「いえなんでも」
彼らはこのように非常にゆるい船旅を過ごしている。その船がつくまであと20日ほど。
一方それより何日か前ーー
「えええ、いない!?」
皆様覚えておられるだろうか。ローザに仕えるエマとトラス、そして白い装束の怪しい2人御一行である。
エマはすごい憔悴しきっており、白い装束の小さい方は元気である。
彼らは長い長い道のりを旅し、オルフという魔法使いにまでやっとたどり着いた。
「うん。すでにこの国にはいないね。彼らは、はるか遠くへ旅に出たようだ」
オルフは口をもごもごしながらそう四人に告げる。
「それはどこへ……」
「そこのワッフル屋の…」
「貴方ねぇ!さっき情報教えてくれるって言うから買ってきたばかりじゃない!!」
「エマ、落ち着いて」
トラスと兄が宥めるなか、弟は傍観していた。すると、彼の体に、不思議な感覚が走った。
「……東大陸」
「え?」
「ひょっとして彼らは今、東大陸に向かってるのではないですか?海の方向に気配がします」
少年の言葉に、エマは額に青筋を浮かべる。
「気配……?貴方分かるなら、何故先程教えてくれなかったの?」
「今感じたんだよ。ねぇ、兄さん」
笑顔でそう尋ねる少年の問いに、兄は遠くを見ながら答える。
「……ああ」
どうやら、あの方に力が少し戻ったようだ。




