第16話 捨てたくて、捨てたんじゃない
「くっ!!」
リュオンは、群がる魚をひたすら斬っていく。ディアンは己が腰につけている短剣を抜き、リュオンに加勢する。サラは、深い爪で向かってくる魚を切り裂く。
何回か斬ったが魚がまた体を生成するのを見て、ディアンが叫ぶ。
「リュオン様!きっとこの魚も魔物です。無闇に斬ってはいけません。魔物は、一回斬ったぐらいでは死にません」
「え、そ、そうなのか?」
「彼らは再生機能があります。その機能を司らない部分はたった一箇所。そこを切ればいいはずなんですが……」
「一箇所……」
そうだ、昨日。サラが教えてくれたところを斬っただけで、魔物はあっけなく死んでいった。あれはきっと、カンなどではない。
「サラ……分かるのか?」
リュオンが恐る恐る尋ねると、サラはじっとただ、魔物を見ている。
「わかんない。……何も、見えない」
魚はどこまでも増え続ける。
ユアは、必死に体をおさえている。しかし、彼女の体は確実に変わっていっている。
「ユア様。あの魔物たちは、貴方が増大する魔力を捨てて出来たものですね」
ユアは、ビクッと体を震わせる。
「ち、違う。捨てたくて、捨てたんじゃない。勝手に……」
「……暴走したのか」
ローザは、動けない。あんなに綺麗だったユアが、今はどんどん形をかえていく。
「た、助けて……」
「やっと。やっと手に入れた居場所なんだ……もし自分の正体が知れたら、もうここにはいられない……」
そうして彼女は、手を差し伸べる。ローザは、その手を掴もうとしたが、ジェラルドにふさがれた。何を、と言おうとしたがユアがそこで激しく震えた。
「ぐあああああっ!!!」
ユアはそう叫び、巨大な白い生物となった。体が制御できないらしく、海面に腕をうちつける。
「ユア様!?」
「下がっていろ」
ジェラルドはローザにそう言うと、暴れるユアの進行方向に進む。
「ちょ、ちょっと!」
ユアは、彼に向かって腕を振るった。しかしジェラルドが睨みつけると、ユアは意識を失い倒れた。
たった一瞬力を込めただけで魔物を操れる。兵士たちが言っていた言葉はそれまで半信半疑だったが、実感した。
「よ、よかった……」
大きな化け物となっても、ユアの顔は今、安らかだ。ジェラルドに止めてもらえて、安心したのだろう。
「……それがそうでもないんだ」
「え、なんで……」
ディアンは、考え込んでいる。
「どうした?ディアン」
「いえ……彼らは、洞窟に普段生息しているのですよね?」
「ああ、人魚たちがそう……」
「ならば、洞窟に彼らの本体があるのかもしれません」




