第14話 アザフス
翌朝。呼びに来たディアンとともに、サラとローザは朝食に向かう。サラが前を歩く中、ローザはディアンの服の裾を掴み、小声で話しかけた。
「なんですか?」
「ねぇ。リュオン様って、あの娘のこと好きよね?」
「ええまぁ」
「そうよね。全く、今度丸焼きにしないと」
「?」
「何の話ですか?」
後ろを振り向いたサラに、ローザは腕を組んで告げる。
「聞かないの。ほら、早くご飯行くわよ」
「は、はい!」
ローザはすたすた歩いてサラを抜かそうとし、サラもそれについて歩く。
ディアンはその2人の姿を見ながら、サラ様はリュオン様には強気なのに、ローザ様には素直だなぁと感じた。
「お早う、サラ、ローザ様」
リュオンは2人の姿を見つけると、優しく微笑んだ。
「お早うございます、遅くなって申し訳ありません」
「お、お早うございます」
「いやいや、こちらこそいつも急に呼んですまないね」
ジェラルドは今日も爽やかだ。彼が給士と話している間、こっそりサラが隣のローザに話しかける。
「ジェラルド様ってお優しいですよね」
その言葉に、ローザは表情は微笑んで、サラにしか聞こえないほど小さな声で告げる。
「バカね、絶対あれは本性じゃないわよ」
「え、そ、そうですか?」
「さあ。では朝食を頂こう」
朝食の準備が揃いジェラルドがそう言うと、途端に何か奇妙な感覚に襲われた。見ると、船が沈んでいっている。自然にではなく、ゆーっくり、規則的に。
「なんだぁ?今度は一体」
ジェラルドが眉間にしわを寄せて立ち上がった。海に全てが入り切ると、船は急激なスピードで進む。
そうして気づけば、巨大な竜巻が目前にきていた。
「ジェ、ジェラルド様!どうしましょう!?」
もはや船兵はパニック状態であるが、対してジェラルドは不敵な笑みを浮かべている。
「落ち着け。皆息が出来るはずだ」
そこで皆冷静になる。確かに、息ができる。何故。
「ほ、本当だ……!?」
「へ、陛下……?」
「皆の者、すごいのが見られるぞ」
竜巻の中に吸い込まれていくと、ふとした瞬間に澄んだ空間に突入した。そうして船が、静かに着地する。皆、慌てて船室の外に出る。
そこには、淡く綺麗な、黄色の髪の娘が10名程いた。……ただし、人間ではない。彼女たちは、腰から下が水色の鱗で覆われた生き物だった。
「へ、へ!?」
サラが驚いてローザにしがみつく。ローザも、驚いた様子で固まっている。彼女たちは、リュオンに見せてもらったおとぎ話にも出てきた。
そう、確か名前はーー
「ここは、人魚の都。アザフスですね」
ジェラルドがそう言って、彼らに微笑む。
「そうです。手荒な真似をして、ごめんなさい」
そうして奥から、1人の水色がかった銀髪の、美しい女性が現れた。周りの人魚たちは、道をあける。彼女は他の者たちとは違い、長く、薄いドレスを纏っているように見える。
「この都の長、ユアと申します。聞けば、貴方たちは昨日魔物を退治したそうで……」
何故知ってるんだ?リュオンたちは、驚きの顔をしていたが、ジェラルドは至って冷静だ。
「はい。この同行した者たちが、退治してくれました」
そうして、リュオンとサラを手で指し示す。
「そう……」
彼女は、両手を胸の前で組んで、ジェラルドに懇願した。
「お願いします。実はまだ、魔物は海に潜んでいます。この都にいた人魚も、次々と魔物の餌食に……」
怯えた表情をしたユアに、ジェラルドは優しく微笑み、左胸に手を添えて答える。
「ご心配には及びません。必ずや、私たちが退治してみせます」
ジェラルドのあっさりとした返答に、ダグラスは焦り出す。
「じぇ、ジェラルド様!そんな安請け合い……!帰りが遅くなったら、セナ様が何と言うか!」
「女性が困っているんだ。ほっておけるはずがない」
「怒られるのは私なんですよ!?」
そこで、ユアがダグラスに向けて告げる。
「勿論、ただで助けてくれとは申しません。このユアの加護のもと、通常より遥かに早く目的地に皆様を送ります」
その言葉に、サラたちの目は輝く。
「一ヶ月かからないということですか……!?」
それは、早く目的地に着きたいサラたちにとって、朗報だった。
「ほら見ろダグラス」
「はぁ……分かりましたよ、好きにしてください」
それを聞き、ジェラルドは皆の方を振り返り、にまっと笑った。
「よし、では、決まりだな!!では、腹ごしらえをしてからだ」
皆とりあえず船の中に戻っていく。その列にリュオンたちも混じる。
「でもすごいな、人魚って本当にいたんだね!」
「通常人間の前には姿を現さないって聞いてたから、よほど困っていたんだろうな」
「皆男性陣鼻の下伸ばして。全く、不謹慎だわ」
そうして戻っていく三人の後ろで、ディアンがぽつりとつぶやく。
「…アザフスの涙……」
その発言に、三人が真顔で振り返った。そうだ、ジェラルドはさっき。
「あーー!!」
かくして、魔物退治プラス魔法材料探しが始まりました。




