第13話 夜の海
「ジェラルド様、リュオン様がお見えです」
部屋の前の番がそう言うと、ジェラルドはこころよく返事をした。
「ああ、どうぞ入って」
リュオンは中に入ると、ソファーで寛いでいるジェラルドに出会った。その横には、ダグラスが立って、書類を持っている。
「申し訳ありません。お話の最中でしたか?」
「かまわない、今終わったところだ。で、気分はどうだ?」
「あ、はい。おかげ様で……有難うございました」
リュオンは深々と2人にお辞儀をする。
「お礼を言いにきただけではないのだろう?」
ジェラルドは、リュオンを見て微笑む。彼は、全て知っているのか。
「……はい。少々、気になることがあって」
「サラさんのことですか」
ダグラスの質問に、リュオンはびく、と顔を硬直させる。ジェラルドはそんな彼の様子に笑い、テーブルを挟んで向かいに置かれているソファーを勧める。
「まぁ座れ。話はゆっくり聞こう」
リュオンは礼をして座ると、姿勢を正した。
「……率直にお尋ねします。お二人は、サラのことを、知っているんですか」
「知っているとは?」
「……ディアンに聞きました。自分が、海に入ってからと、目覚めるまでの全部。……貴方たちは、サラが何者か、知っているんですか?」
リュオンの質問に、ジェラルドは背中を仰け反らせ、宙を見る。
「ふーむ……」
「教えてください」
「それは、フェアじゃない。君だって、隠していることがあるだろう」
ジェラルドはそう言って、テーブルに置いてあったワインのビンをもち、グラスに注ぐ。
「君は、サラさんのこと、本当に好きなわけじゃないね」
ジェラルドが注いでいるグラスを見ながら、リュオンは呟いた。
「……皆なんでそう言うんですかね。彼女が獣だからですか?」
「はは。まぁそれもあるかもしれないが。君の噂なら、私も聞いたことはある」
リュオンは、黙って彼を見つめる。
「……君は、サラさんをもとの姿に戻すことが、真の目的ではないはずだ」
夜になり、空は満開の星空だ。サラはそれを客室の部屋の窓から眺め、感激していた。
「わぁ、綺麗……!」
「そう?森の中でも星は見えるでしょ」
ローザは興味がないようで、ベッドで寝ている。
「でも、海と星空ってすごい!壮大です!よかったら、見に行きませんか?」
「やぁよ。1人で見てきなさい」
「分かりました。行ってきます」
そうしてサラは、部屋を出て行く。
「……ちょっと待って!」
結局、2人で星空を見に行くことになった。今は、廊下を歩いている。
「よかったんですか?寝なくて」
「いやよ、こんな知らない男ばかりのとこで、1人で寝るのは」
「そうか。美人だと、そういう問題もあるんですね」
別に本気で襲われるなんて思ってないが、サラがしみじみとそう言うので何も言い返せなくなる。
「うわぁ、綺麗!!」
船の上には、満開の星空が広がっていた。
「……本当。綺麗ね……」
「でも、ローザ様とセットで見ると本当綺麗です」
「女に言われたって嬉しくないわよ」
本心だが、感じ悪かったかな、と思いサラを見ると、何故か尻尾を振っている。
「……なんなのよ」
「いや、女って言ってくださって、嬉しくて……」
言われて気づく。そうだ、なんで自分獣って言わなかったんだろう。
「あの、ローザ様!」
「なによ?」
またきつい口調になった。でもサラはそんなこと、気にしちゃいない。
「私と、良ければお友達になってくれませんか?」
「……は?」
「私、女の子の友達って、いないんです。ローザ様みたいな人と友達になれたら、すごい嬉しいなぁって」
そう言ってサラは行儀よく座っている。普通の人間に言われたら下心を感じるが、彼女の瞳は、ただ純粋だった。
「いやよ」
そう言うと、サラは分かりやすく落ち込み耳と尻尾がたれる。どうやら彼女は耳と尻尾がバロメーターのようだ。
「……で、ですよね。私獣ですし……」
「そういう意味じゃなくて。貴方分かってる?私リュオン様に振られて、諦めきれないで追いかけてきたの。つまり、貴方とは恋敵なのよ。そんな人と、仲良くできるはずないでしょ?」
「それもそうですね」
同意するのかよ。
「でも、ローザ様と私はきっと五分五分ですよ」
「……は?何言ってるの?」
「だって。私は確かにリュオンを好きですけど、リュオンは私のこと好きじゃないですもん」
何を言うのかこの獣は。求婚されといて。デレデレされといて。
ローザが蹴りをいれようとする前に、サラは背中を向けた。
「有難うございました。そろそろ、戻りましょうか」
「……彼女をもとの姿に戻したいと思ってます。それは、嘘ではありません」
ジェラルドは、目の前の青年を見つめる。彼は、銀髪に、水色の瞳をしている。その色はとても綺麗だが、今その瞳は、揺れている。
「でも確かに貴方の言うとおり、別の目的もあります。私は……」
リュオンはそこで言葉を切った。言うべきか、悩んでいるのだろう。しかし決意し、再び口を開く。
「俺は、自分の出自とサガスタが隠しているものを、知りたいんです」




