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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第3章 アザフスの涙
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第11話 海の世界

 ちょっと待って。何この状況。

 ローザは頭の中で、今置かれている状況を整理した。

 運よくリセプトの船に乗せてもらえて、今はその船の客室の中。緑を基調としてるのは一緒だが、細かい模様が描かれた青い布団のベッドが二つ。その奥には窓が壁の真ん中に長細く広がっていて、テーブルとイスが二つ置かれている。シンプルではあるが、一つ一つの素材が高級だということは分かる。

 その煌びやかな室内の中に、一匹の黒い獣。そう、黒い獣がいるのだ。


 …おかしくない?


 確かに。普通に考えたら、女と男で分けるのが普通だ。例え男女にされたら、リュオンとサラがペアで、自分とディアンが余る。あの感じの悪い奴と相部屋の方が勘弁だ。

 しかし、サラは、獣だ。


「…貴方、さっきから何してるの?」

 サラは、前脚を窓のさっしにかけて、尻尾を振りながら窓の外を見ている。


「すごい、海です!海ですよ、ローザ様!!」

 …のんきなものだ。


 途端、何か思いついたようで、サラは窓から脚を離し、しゅんとうなだれる。


「……なに、どうしたのよ」

「…ローザ様……」


 彼女の深刻そうな顔を見て、先程のオルフと話した彼女の姿を思い出す。もしや、迷いが出て来たのか。


「あの……」


 ローザは、静かに彼女を見つめた。やがて少しの間のあと、彼女は口を開けた。


「…フォークって、どう持つんでしょう?」


 一瞬、時が止まった気がした。


「……フォーク?」

「はい、私使ったことないんです。リセプトの王様に聞かれて気づいて。もし出て来たら夜ご飯、どうしようかと……」


 …なーんだ。拍子抜けして、ローザはベッドに横になる。というかサラもベッドで寝るのだろうか。


「えっローザ様?あの……」

「悪いけど、少し寝るわ。ご飯になったら起こして」

 何しろさっき派手に揺れたのだ。しかし一番疲れたはずの彼女は、元気にぱたぱた動いている。こうして見ると獣というより犬だな。…いや、やはり獣だ。

 これから長い船旅をこんなのと一緒なんて、やってられない。……でも、このままオーセルに帰るよりはましか。

 考えごとをしていると、何やらパキ、パキと音が聞こえる。振り返ると、サラがペンを持とうとしている。


「……今度は何をしてるのよ」

「フォークの練習をしようかと……」


 そう言って彼女の手はペンに当たっただけで、ペンは虚しく転がって行く。

「ああ!」


 ローザはもう相手をするまいと、目をつむった。


******



「はぁっはぁっはぁ……!」


 少女は必死に泳ぎ、黒い物体が近づくのを引き離そうとする。

 しかし物体は遠くなるばかりか、どんどん近くなる。


 喰われる……!


 そう思った時、一筋の光が彼女を包んだ。光が黒い物体の動きを鈍らせる隙に、少女を強く誰かが引っ張り、青い渦の中に連れ込む。


「あー…びっくりした。死ぬかと思った」


 渦の中に入ると、そこには彼女にとって親しい仲間か彼女を見ていた。少女はほー、とため息をついた。そののん気な態度に、彼女の腕を掴んだ者は怒鳴る。


「こらエレン!あれほど、1人で出歩くなと言ったでしょ!?」


 そう怒鳴った少女は、年齢は15歳くらいで、淡い黄色の髪の毛を後ろで束ねている。見てみると、そこにいる者が皆同じ髪色だ。

 エレンという名の少女は、まだ7歳ほどだ。彼女は怒られ、半泣きである。


「だって!ユア様の、薬が足りなくなると思って……」

 その言葉に、怒った少女も、皆黙り込む。

「大丈夫じゃよ。心配はいらぬ」

「ユア様!」


 凛とした声に、皆が一斉に振り向いた。彼女だけが、水色がかった銀髪をしている。ユアの姿が見えると、少女は急いで礼をする。


「ユア様!先程はエレンを助けて頂き、有難うございました!お体にさわったのでは……」


 その言葉に、ユアは優しく微笑む。


「心配ない、ナヤ。エレンも、無事でよかった」

「ユア様……!!」

 

「しかし、困ったな……この状況が、いつまで続くか」


 その言葉に、皆の表情が曇る。

 ユアは、顔をあげる。

 

 そこは、深い深い海の中だった。

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