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王子は獣の夢をみる  作者: 紺青
第2章 さてはてどこに行きましょう
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第10話 リセプト王、ジェラルド

「着いた……」


 サラはそう呟き、港に佇む船を見上げた。背に乗っている3人の方が、ぐったりしている。

 最初は揺れないように気をつけていたが、街並みを抜けると何とも走るのが気持ちよく、つい疾走してしまった。


「す、すみません、皆様。まったく気がきかず……」

「い、いや、サラが頑張ってくれたおかげで間に合ったよ」


 リュオンは気丈に振る舞うと彼女の背中から降り、船路の看板を見た。

 看板を見てみると、直接ローレアに行く船はないようだ。しかし、乗り換えでなら行けると書いてある。


「よし!とりあえず手続きをしよう」


「申し訳ない。今日は、満員で乗れないよ」


 搭乗口の船員は、すまなそうにそう言った。


「ええ!?」

「の、乗れない……」

「ああ、もう満員でね。もともと通常より多く乗せていて、これ以上は……」


 本当にすまなそうに言われては、何も言えない。


「どうしますか?」

「仕方ない。明日の便に乗ろう」

「明日は出ないよ」

「はい?」

「その海路を渡る船は、次は一週間後だ」

「そんな、一週間も先……」


 皆が絶句する中、リュオンは港にある、ジュールの青い船以外の、緑の船を指差した。


「あそこにある緑の船はどこに行くんですか?」

「ああ、あれは駄目なんだ。リセプトの船だ」

「リセプト……?」


 皆が首を傾げていると、ディアンが教える。


「ああ、ローレアの隣りの国ですね」

「なんだって!?乗り換えて行くより早いじゃないか!」


 リュオンはそれを聞くやいなや、緑の船に向かって走った。慌ててディアンたちは追いかける。


「ちょっ、待ってくださいリュオン様!リセプトのジェラルド王は恐ろしいと評判です。危険では……」

「折角サラが頑張ってくれたんだ。俺も頑張らないと」

 そう言ってリュオンは、サラににかっと笑い、船の前にいる船員に尋ねた。


「申し訳ありませんが、他に人は…」

「そこを何とか!お金ならあります。どうしても、乗せて頂きたいんです!」


 気弱そうな船員に、リュオンは必死に頼む。先程は一瞬かっこよく見えたが、土下座までしだし、なんとも船員にとっては迷惑な人物である。船員も可哀想にオロオロしながらも、必死に断ろうとする。


「しかし……」

「どうされました?」

「あ、ダグラス様!!」


 灰色のおかっぱ頭の青年に、年上であろう船員が様をつける。それで、彼は高位だということが分かる。


「人が3名と獣が一匹、良ければ乗せて欲しいと仰っていて……」


 ダグラスは自分たちを見て、何か感じたのか、背を向けてどこかに行く。それを拒否だと考えた船員は「申し訳ないが…」とリュオンたちに話しかけたその時。


「女性がお困りなのに、それを断るなんて男が廃るだろう」


 その声に顔をあげると、先程のダグラスを後ろに従えて、目の前に1人の男が現れた。

 榛色の髪に緑の瞳の、長身の美男子だ。その佇まいから、彼がこの船で最も上の人物だと分かる。


「始めましてお嬢様方。私の名前はジェラルド・エーゼア・リセプトです。是非ジェラルドとお呼びください」


 その言葉に、リュオンたちは固まる。高貴な人の船だとは聞いたが、まさか王が乗っていたとは!


 それに、今彼は何と言ったか。お嬢様方?今彼の目の前に見えるのは、男2人、女1人、そして獣1匹のはずだ。まさか……


 サラが驚き彼を見ていると、彼は優しく微笑んだ。

「はは、すまない。びっくりさせたかな?君たちの噂は、聞いていてね…サガスタ国の王子と獣の姿をした娘が恋におちたと」


 なんだ。そういうことか。そう3人が納得する中、ディアンが青い顔になる。


「そんな、まさか…王族中に噂になってるとは……」

「ああ、でもジュールの王様との会談の時は出なかったから、まだ広まってないんじゃないかな?」


 その言葉に、リュオンが質問する。


「では、市民から聞いたのですか?」

「ああ。俺のこの地の彼女にね」


 さりげにすごいこと言わなかったか、今。彼はそんな周りの視線を気にせず、ローザに微笑んだ。


「貴方が美しいと名高いオーセルの姫君ですね。想像以上にきれいだ」

「そんな…有難うございます」


 ローザははにかみながらも、実際はそこまで照れていないのだろう。ディアンはそれを冷ややかに見る。


「貴方は?何というお名前ですか」


 ジェラルドの優しい問いに、サラは戸惑いながら答える。


「あ…サラと、申します」

「サラ様ですか。ルビーのような、綺麗な赤い瞳だ。さぞかしもとの姿はお美しいんでしょうね」

「え!?い、いえ、とんでもない」


 そんな言葉をリュオン以外から言われたのは初めてで、サラはオロオロしている。ジェラルドはその様子に微笑み、手を差し出した。


「ささ、ここは寒いでしょう。どうぞ中へ。あ、お二人もどうぞ」


 そうしてジェラルドはサラとローザに手を添えて中へと誘う。男子連中はその光景に、ぽかーんとする。


「…悪名高いって、まさか女性問題ででしょうか?」

「サラのやつ!俺がいくら愛の言葉を言ってもあんなにはにかんだりしないで、冷ややかな目で見るくせに…!」

「リュオン様のはちょっと引くものがありますから」

 とはいえ、リセプト王は只者ではないはず。乗せて頂くとはいえ、用心しないと。ディアンはそう心の中で決意し、3人の後を追って船に乗り込んだ。


「うわー、すごい!」


 中は金色のシャンデリア、銀色のテーブルとイス、緑の絨毯と、見渡す限り煌びやかな装飾で作られていた。


「貴方たちは客間を使ってください。女性陣が部屋のドアに鷹が彫られた部屋、男性陣が蛇が彫られた部屋です。何か分からないことがあれば、周りにいる者に」

「有難うございます」

「もう1時間くらい経てば夕食の時間だ。良ければ一緒に食べませんか?」

「いいんですか!?」

「もちろん。良ければ皆様の国について教えて頂きたい」


 その会話を、サラは困って聞いていた。自分は、部屋にいようか。俯いていると、ジェラルドがサラに微笑んだ。


「サラ様は、フォークは使えませんか?」


 その言葉に、皆が一瞬固まる。サラは困惑しながらも応える。


「わ、分かりません…」

「そうなのですか?今まではどうやってお食事を?何を好まれますか?」

「あ、今までは森に生えてた植物や実を中心に食べていました」

「なんと!お肉は?」

「リュオンがたまに持ってきてくれたのなら食べてましたが…森は自分以外動物はいなくて……」

「なるほど。食べれないことはないのですね。了解致しました。では皆様、またあとで」


 ジェラルドは颯爽と奥に消えていく。


「……なんかすごい人ね」


 本当に。獣の自分に対面しても、ちっとも驚かなかった。



「ジェラルド様」


 ダグラスがジェラルドを呼ぶと、彼は気だるそうに振り返る。


「なんだ?」

「その、大丈夫ですか?サガスタの王族などと会って。気分が優れないのでは……」

「別に。あちらはこちらの情報をあまり知らないようだ。こちらが動揺する必要もないだろう」


 ジェラルドのその言葉に、ダグラスも疑問を口にする。


「おかしいですよね。サガスタの王子が獣に恋い焦がれるなど。だってあの国は…」

「ダグラス。口を慎め。誰かに聞かれたらどうする」

「も、申し訳ありません」

「……歴史を隠しているのかもしれないな。サガスタは」

「そんな、隠すなんて無理でしょう」

「まぁな。あの者たちは知っててやっているのか、それは分からない」

「……あのサラという獣、ただの人だと思いますか?」

「さあ?ただ、すごい強い魔力で封じられているな」

「ですよね……本当に連れていく気ですか?」

「なんだ?お前が私のところに情報を寄越したんだろ。いけないと思ったら断ればよかったじゃないか」

「それはそうですが……」

「まぁ、彼らに協力するかどうかはこの旅路で決める。そういうことだな、ダグラス」


 ジェラルドはそう言い、不敵に笑う。12歳の時に王となった彼は、現在25歳。その彼の気迫に、あらがえる者は少ない。


「……はい。ジェラルド様」


 ダグラスはそう返事しながらも、ジェラルドをキッと睨んだ。


「でもジェラルド様。ローザ様には手を出さないでくださいね。外交問題になりかねません」

「はは、安心しろ。私がそんな男に見えるか?」

「見えるから言ってるんじゃないですか」


 かくして、サラたちご一行はリセプトの船に乗り、旅路を目指すことになった。

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