少年のお家
少年の家に着き、一息。
少年の家はこじんまりとしているが、頑丈な家である。
中はきちんと片づけられており、彼の几帳面な性格がよくわかる。
あ、そうだ。歩きやすいように、クマさんの大きさと体型を変えておくか。
右手を、まるで指揮を振るかのように動かし、クマさんに魔法をかける。
クマさんの身長は、大体小学校二年生くらいの大きさに。更に、スレンダーな体型になって、前よりも歩きやすくなった、と思う。
「うわっ、急に魔法をかけないでよ!」
クマさんは最初はそう言って怒っていたけれど、すぐに嬉しそうに笑った。
やっぱり、不便だったらしいね。
リベラル少年は、どこかへ行ってしまったけれど、その内戻ってくるだろう、と放っておくことにした。
さてさて、とりあえずは少年についての話の続きでもしようかね。
あ、少年の話をする前には、まずこの世界のことも思い出さなければいけないな。
この世界の名前は【ティアドロップス】
この世界では、私の住んでいた世界で言う“英語”は、今では失われた言語として、考古学者により研究されているらしい。
とはいっても、言葉の全てが失われたわけではない。現に、レッツゴー! とかは、少年にも伝わったわけだからね。
共通言語は日本語。文学も日本語だから、私は特に困ることがない。
そして、この世界は争いが各地で起こっている。
その原因といえるものは、異世界人だ。
何も、異世界人が各地で悪さをしている、というわけではない。
この世界では、異世界人のことは神話として古くから語り継がれている。
その内容は、異世界人の血は“すべての病に効く万能薬”として使え、その肉は食らえば“不老不死になれる”と。その理由は、異世界人というのは、神に仕えていたと信じられているから。
つまりは、天使。
自分で言うのも馬鹿馬鹿しいとは思うけれど、私も一応、この世界の人間からしてみれば、天使だといえるらしいね。
異世界人というのは、ある一定の時で成長が止まるらしい。
それは人それぞれであり、個性である、と神話で述べられている。
そして、特定の方法を用いない限り、死ぬこともないらしい。
本当かどうかは知らないけれど。
あぁ、あと、異世界人の中でも、とびきり力を持った人間がいるらしい。
その人間は、まるで神様のように、何でもできるらしい。
つまりは、運が良ければ願いを叶えてくれるかもしれない、ってね。
そういうわけだから、この世界の、神話を信じる一部の人間は、大きな野望を持ち、異世界人を探し求めて旅をしたり、賊に成り下がって戦いに精を出す、というわけだ。
そしてそして、リベラル少年。
この主人公も、大きな野望を持ち、異世界人を探し出そうとしている人間の一人なのである!
理由は忘れたけどね!
ま、私も異世界人だけれどね。自分の事なんて、自分が一番よくわかっていなかったりするものさ。
探り探りで生きていこうとしているよ、私は。
「はい、どうぞ」
姿を見かけないな、と思ったら、キッチンで飲み物を入れてきてくれていたらしい。
リベラル少年が、私とクマさんの分の飲み物を先に持ってきてくれた。
「ありがとう、少年」
「ありがとう」
私とクマさんがお礼を述べれば、少年も笑顔で、おう、と答えた。
なんだなんだ、平和じゃないか。可愛いな、少年。
うん、たまにはこういうのも悪くないね。
私がゆっくりと飲み物を堪能していると、少年が飲み物を噴出した。
「うわっ、なんだい、汚いな」
「いやいやいやいや、なんだそれ!」
体を後ろにそらしながら、右手でクマさんを力強く指さす少年の顔は引きつっている。
驚きすぎではなかろうか。
「魔法だよ、魔法」
「なんだ、魔法か」
便利だな、魔法って言葉。
よくわかっていないけれどね。
「呪いとの区別がついていないクセによく言うよ」
クマさんがそう吐き捨てていたのを、私はにっこりと笑って受け流す。
ふふふ、私は大人だからね、そういう嫌味は適当に受け流すのさ。
「ね、結局どうするの。クマの呪い、解くんでしょ」
自分がまき散らした飲み物をふき取りながら、少年が尋ねるが、それは私にもわからない。
肩をすくめて、両手を顔の少し下あたりまで持ち上げ、笑いながら首を振れば、少年も、だよね。と返す。
クマさんに目を向けてみるが、彼も特に何か言うこともなく。
「……ちょっとまった。この中で魔法とか呪いに一番詳しいのは、クマさんじゃあないか。
そのクマさんまでもが、わからないなんて言ったら、この状況というのは、あまりにも絶望的すぎないかい?」
私のその言葉に、クマさんは、そうだな。と答える。
うっそ、ありえない。自分が招いたことだけど!
このままでは、リベラル少年の運命が変わってしまうではないか!
あ、いや、そうでもないか。私たちが離れればいい話だからね。
「よし、わかった。
私とクマさんは、呪いを解くたびに出かけるよ。
じゃ、リベラル少年。すまなかったね。短い間だったが楽しかったよ」
「はぁっ!?」
はい、終了。
まだ物語が始まる前の状態だということもわかったし、私的にはまだ時間がある。
ならば寄り道してても良さげだからね。
いやぁ、良かった良かった。
「なんで俺を置いていく前提で話し進めようとしてるんだよ! 連れて行けよ!」
少年は、私を見上げて叫ぶ。
私は笑顔を崩さないように気を付けながら、優しく話しかける。
「君はね、来るべき時が来るまではここにいるべきなんだよ」
「わけわかんねーよ!」
ま、そりゃそうだ。
うーん、どうやって説得するかねぇ。