そばかす少年→主人公
いやぁ、まさかこの少年が探していた人間だったとは。驚いたよ。
君も驚いただろう? クマさん。
いやぁ、悪かったよ、戦闘のことだろう? まぁ、まだ人間にはなってないから感覚もそこまで発達してないだろう、どうせ。
「ううっ」
少年が、呻きながら目を覚ます。
少年の隣で横になっていた私はにっこりと微笑みながら、優しく声をかける。
「やぁ、おはよう。リベラル少年。ご機嫌いかがかな?」
「う、うわああああああ!?」
なんだよ、大げさだな。ちょっと挨拶をしただけじゃないか。タンクトップ姿で。
あ、この少年、ウブなんだっけか。
「それより少年。勝手に宿をとって勝手にここで面倒見てたけど、大丈夫かい? 両親は?」
その質問をすると、少年は明らかに様子が変わった。
目の光がなくなり、顔にも影が差す。
「……いねぇよ」
そうか。やはりか。
いやはや、わかってはいたさ。
けれどね、念のために確認は必要だろう。
あぁ、なぜ知っているかって? それはね、私が異世界人だからさ。
私が元居た世界では、この世界のことは漫画やアニメになっていた。ただそれだけのこと。
私に予知能力があるわけではないのさ。
さらに言えば、彼は主人公という役職を割り振られた素晴らしき重要人物!
彼とともにいれば、この世界のことは全て丸わかりってワケ!
「あんたさ、強いんだな」
ふいに、少年が呟いた。
私はそれに、笑顔で返す。
少年は息をゆっくり吸い込み、吐きだし、そしてもう一度吸ってから切り出す。
「なぁ、俺に戦い方を教えてくれよ。
俺を、強くしてくれよ」
私の目を見て、少年は力強く、はっきりと言った。
少年の青い目は、まるで海のように深い色をしていて、いつの間にか溺れそうになる。
金色の髪は、まるで光のようで、眩しさに目を細めそうになる。
彼は、まさに主人公。だからこそ、魅力的なのか。
魅力的だから、主人公なのか。
「なぁ、いいだろ? お礼なら何でもする。
あんたの欲しいもの何だってやるから。今は無理だけど、でも……!」
彼は、必死に私を説得しようとしている。
青い目は不安そうに揺らぎ、落ち着かないのか、手もバタバタと上下に動き出す。
いつしかその手は私の両肩へと移動し、力強く握られている。
そんな少年を見て、私は微笑んだ。
そして、答える。
「うん、ヤダ」
「………………はぁっ!?」
脳内ではハートマークをつけて、彼に返事をした。
彼は、まさか拒否されるとは思っておらず、間抜けにも大きな声を出す。
「私、意地悪なの。魔法使いだから」
「もしかして、怒ってるのか……?」
「やだな、全然、そんな。子供相手に怒るなんて、そんな大人げないことしないよ、ははは」
「怒ってるじゃないかよ!」
やだなー、魔法使いについて説明しなかったことなんて気にしてないよ?
私を放ったらかしにして、どこかへ行ってしまったことも怒っていないとも。
助けてあげたのに礼も言わずに変人扱いしたり、急に弟子入り志願するような手のひら返しにも怒ったりしていないとも。ええ、全く。
というようなことを、少年に笑顔で伝えたのに、顔面蒼白になってしまった。
あれれ、おかしいなぁ?
「わ、悪かった……」
「いや、今の全部冗談だから、大丈夫だよ?」
うん、冗談。全然怒ったりしてないよ。
本当に本当。嘘なんかじゃないさ。
「あーでも、戦い方を教える、とかそういうのは本当に……無理だなぁ。
あ、君のお願いを断ったのに、私がお願いをするのは申し訳ないんだけどさ。
……君のお家に、住まわせてほしいなっ、はぁと!」
「はぁと、って自分で言うもんじゃないだろ……はぁ、いいよ。
あんたは命の恩人だ。それに、弟子入りだって諦めたわけじゃない。
むしろ、こっちからお願いしたかったぐらいだ」
にやり、と不敵に笑う少年は、将来有望だね。
少し、カッコいいと思ってしまったよ!
「そうか、そうか。ならよろしく頼むよ? リベラル少年」
「少年はいらないよ」
「リベラル少年っ、はぁと!」
「……はぁ」
あれあれ、呆れられてしまったよ。悲しいなぁ。
っと、まずは荷物まとめなくちゃ!
よしよし、クマさんまた良い子にしててね?
「そういえば、そのクマなに?」
「ああ、これ? 召喚、みたいな? とりあえず生きてるみたいなんだけど。
そのうち人間にしてあげようと思ってる」
少年は、クマのぬいぐるみをいろんな方向から観察している。
そんなに気に入ったのか、クマのぬいぐるみ。
うっ……そんなに気に入ったなら、プレゼント……してあげても、いいよっ? 赤いリボンで可愛くデコレーションして、プレゼントカードも添えて、お別れの涙を流しながらあげるの。
って、私、少年と一緒にいるからお別れではないか! あはは、お馬鹿だな、私!
あれ、少年、もう準備完了してる? こっちをガン見してる。
「このクマ、変な印があるね」
「……ほんとだ」
ふざけすぎていて、じっくり見ることがなかったクマのぬいぐるみの右手の肉球部分。
そこには、黒色で魔法陣のようなものが描かれていた。
んー、召喚獣とかにつく主従の意を示す魔法陣とか? よくわかんないけど。
特に何かあったわけでもないし、いっか。
私は再び、出かける準備と、荷物まとめを開始するのであった。