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袋小路の先  作者: 雪村
3/6

そばかす少年

 店の奥へと、ゆっくりと歩みを進めていく。

 床に散らばる商品だったものが、奥に進むにつれて多くなっていく。

 あの少年が必死に抵抗した跡、と考えるべきだろうか。

 今あの少年は絶体絶命なのかな? 悲鳴は聞こえないけど。


「少年! そばかす少年! そこにいるんだろう?」


 階段に到着し、見上げながら声をかける。

 今のところ、敵も少年も見当たらない。もっと上にいるらしい。


「来ちゃダメだ……っ」


 絞り出すような声が、上からかすかに聞こえた。

 それは、最初に見かけたときの彼とはかけ離れた苦し気で、無意識に眉をひそめていた。


「やだね。私はね、意地悪なんだよ。魔女だからね」


 あれ、この少年に言われたのは、魔女じゃなくて魔法使いだったっけ。

 まぁいいか。


「来ちゃダメって、言ったじゃないか……」


 私にしては少し急ぎ目に階段を駆け上がり、私は嫌でもその光景を目にしてしまった。

 血だまりの中、倒れている少年と、それを冷ややかに見下ろしている、フードを被った人。

 少年は、右手に何かを握りしめているらしい。それも、強い力で。

 力が入りすぎて震えているほどだ。とても大切なものなのだろう。


「もう遅いね。来てしまったもの」


 私は少年の前に、守るようにして立つ。

 階段の踊り場という、狭い空間。気を付けなければ、すぐに転げ落ちる。


 目の前にいる人物は、女性らしい。

 形の良い薄桃色の唇が、ゆっくりと動き、そこから少し低めの女性の声が発せられた。


「貴方には関係のないことのはず。なぜ来た?」


 彼女が疑問に思うのも無理はない。

 私も、自分で自分の行動に疑問を持っているさ。

 でもそれ以上に。


「私がそうしたいと思ったからさ」


 にっこりと笑って、私は彼女に魔法をかけた。

 拘束の魔法。そして、無力化の魔法。


「貴方は……魔法使いだったのか。

先に、この少年から物を奪うべきだったな」

「へーぇ、魔法使いとこの少年、何か関係あるの?」


 少年の傷の手当てをしつつ、私は彼女に質問する。

 少年は血をたくさん出していた割に、そこまで重傷を負っていたわけではないようで、少し安心する。


「それは、貴方に話す必要はない。

あとはもう、世界政府の人間に任せておけばいいだろう。

厄介ごとに巻き込まれたくないのであれば、な」


 もう全てが終わった、何もかも終わりだ、とでもいうように、諦めの雰囲気を出す彼女。

 なんだか面倒だし、彼女の言う通り、世界政府とやらに任せておこうかな。


「さ、少年。静かなところに向かおうか。

何があったかは知らないけどさ」


 少年に手を差し出しながら私がそう言えば、女性は、は?! と声を上げる。

 なに、文句あんの? 君の言うとおりにしたじゃん?


「貴方、本当に世界政府に任せちゃうの? 何も聞かずに?」

「……それが、どうかした?」

「驚いた。本当に何も知らずに少年を助けたのね」


 女性は、ため息を吐いた後、フードを外してこちらを見た。


「私の名前は、ルナ。ルナ・ダイア・フォーカス。

古代エルドラド王国の王家の血を引く者です。

もしかして、貴方も……素性を隠しながら生きているのでしょうか」

「ルナちゃん? 悪いけれど、私、そういうのわかんないんだよねぇ。

古代エルドラド王国とか、初耳。王家の血を引いてるってのはスゴイけどさ。

なになに、古代の王国を復活させたい一心で、失くした王家の紋章を取り戻す!

とか、そういうの? いやぁ、もっと穏便に済ませなよ。相手は子供だ。

あ、そうだ。ここの手前にいた奴らも、王に仕えた者の末裔とか?」


 ぽかん、と口を開ける女性は、ふと急に我に返り、頷く。

 そうかそうか、彼らは王家に仕えた者の末裔だったのか。


「あいつらが起きたら伝えておいてよ。

国を復活させたいなら、まずは民の言葉に耳を傾けろ。すぐに剣を抜こうとするな。

平和こそが人々の望み。恐怖で相手を縛れば再び国は亡びる。そういう運命だ。

……ま、何にしてもいつかは亡びるものだけれどね、国は。

あ、そうそう。あいつらかなり弱かったからさ、もう少し鍛えるべきだよ。

っていうのも伝えておいてねっ!」


 笑顔にピースでウインクをプレゼント!

 王族の末裔のルナちゃん、またね!


 私は少年を抱えて、少年と最初に出会った海の近くに瞬間移動をした。

 今更だけど、私チートだよね。何でもできるなんて。

 あ、でも回復魔法は使ったことないや。


「あんた……本当、変な奴だよな」

「しっつれいだなぁ、勇気を振り絞って、恐怖を振り払って君を助けたんだよっ?」

「嘘だね。あんたずっと笑顔だったじゃないか。余裕ありすぎ」


 バレた? とでも言うように舌を出せば、少年は不機嫌な顔に。

 私はそんな少年には気を留めず、少年の右手に視線を注ぐ。

 固く握りしめたままの右手。彼女が求めていた物。


「……あげないから」

「いや、いらないよ。でも、ちょーっと気になるかな」


 にこにこ笑いながら、私は少年の周りをうろちょろと歩き回る。

 どこからなら見えるかな? 何をしたら見せてくれるかな?


 少年は、少し考えるような仕草をする。

 ……隙ありっ!!!



「あっ!」


 少年の右手から素早く物を奪い取った。

 それを空高く掲げながら見てみれば、それは青く透明に輝く石だった。


「ふーん、綺麗だね」


 大して興味もわかないから、石をすぐに少年に返した。

 ぽいとゴミを捨てるかのように乱雑に放り投げたので、少年が慌ててそれをキャッチする。


「う、嘘だろ!? これを見て、適当に扱うなんて! というよりも、これいらないの!?」

「いらないよ。綺麗だけど、必要ない」

「これが何か知らないの?!」

「知らないよ」


 う、嘘だろ……と、ショックを受けている少年。

 そんな少年に、私は旅の目的であった人探しの件について尋ねてみる。


「ねえ、そんなことより、人を探しているんだけどさ」

「そんなことよりって……」


 少年は砂浜に座ったままこちらを見上げる。

 自然と上目遣いになる彼に、少しキュンとする、ことがなくもない!


「えーっと、ちょいと待ってねぇ。

私も会ったことがなくてね。イラストだけが頼りなんだ」


 そう言って私は、鞄からイラストを……取り出すことができなかった。

 クマの手が、勢いよく飛び出て、その勢いのまま外に出てきてしまったのだ。


「わっ、何そのクマ。ぬいぐるみ? って、動いてる!?」


 あぁ、戦闘中はしまっていたんだっけ。ちょっと怒ってる? いやいや、でも仕方ないよ。だって、戦闘中だよ? うん、仕方ない。

 じゃ、今度こそイラストね。


 そうして、鞄の奥底でぐしゃぐしゃになってしまっていたイラストを取り出した。


「うわ、汚い……って、あれ?」

「お???」


 私と少年の、間抜けな声が重なる。

 私は、ふと思ったことがある。


 では確かめるため、手元にあるイラストの特徴を読み上げてみよう。


「金髪に」


 少年に目を移せば、彼も金髪であることが確認。


「碧眼で」


 少年も、同じような色をしている。


「そばかすがあって」


 そばかす少年、と呼んだくらいだ。

 彼にはそばかすが勿論ある。


「不機嫌そうな顔をしている」


 今もなお、少年は険しい顔をしている。


「…………もしかして君、リベラル君? リベラル・ラファーレ?」

「そう、だよ。俺の名前は、リベラル・ラファーレだ。

もしかして、探している人って」


 私は、少年を抱きしめた。そしてそのまま告げる。


「あぁ、そうだ。君だ。君を探していた。

リベラル・ラファーレ。やっと、見つけた」


 再び彼を見てみれば、彼の顔は真っ赤になっていた。


「あっ」


 少年には刺激が強すぎたかぁ。

 自分の、発育の良すぎる体を改めて眺めながら、やれやれ、と私は息を吐いた。

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