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袋小路の先  作者: 雪村
2/6

スリジエ島

「いやあ~つい寝てしまったけれど、良かった良かった、君のような優しい人がいて!」

「今俺は、後悔してるよ」

「え、なんでだい?」


 いやぁ、失態、失態。

 つい、うとうとして眠ってしまっていたようだね! クマさんも無事なようで何よりだ!

 そして、目の前にいるそばかすの少年は、笑えるぐらいに金髪が似合っていない! って、命の恩人に失礼だね? いやぁ、あはは、それが私なんだけれども!

 ん? すごく険しい顔をしているね、少年?


「あんた、魔法使いなんだな。放っておいても大丈夫そうだった」


 そばかす少年は、私が乗っていた船を指さす。

 船に傷は見当たらず、そして倒れることなく綺麗な状態でとどまっている。


「魔法使いというのがどういったものであるかわからない以上、返事はできないねぇ。

それより君、ここはスリジエ島で合っているかな?」

「は? あんた、魔法使いって、そのまんまの意味じゃねぇかよ。

なんで……いや、まぁいいや。俺は忙しいんだ。あんま変なことして騒ぎ起こすなよ」


 少年は終始険しい顔をしたままだった。

 去り際も、なかなかに不機嫌そうで、つい頬をツンツンしたくなったよ。


「クマくん、とりあえずあの少年に着いて行ってみようか」


 クマは特に何かしたりせずに、黙って(話せないから)私の腕の中に納まっていた。

 少年は、お店の中へと入っていくようだ。私も隠れながら観察していようかな。


 少年の入った店が見える位置に身を隠し、私は少年が出てくるのを待ってみることにした。

 さてさて、どうしようかな。驚かせたりしてみるか?

 そこで少年の可愛らしい一面が見れたりしちゃうのではなかろうか?

 やだ、すっごく楽しそうじゃないか?! よしよし、じゃあ方法は……。


 少年の驚くような、驚きの魔法を使うとか?

 いや、特に魔法といっても、呪文は必要ないし固定の技があるわけじゃないんだけど……。

 適当にそれっぽいこと言ってみる?


 すると、少年のいる店が爆発した。

 最初は入り口付近が発光し、その直後、小規模の爆発が。

 小規模とはいえ、威力は馬鹿にできないほどだった。

 音もそこそこしたし、人々は驚いてこちらに集まってきている。


「そんなことより、少年だよねっ」


 ぱっと飛び出してお店の目の前へ。

 お店全体が爆破されたわけではなく、店の入り口を爆破して入り口を封鎖したらしい。

 これも、魔法というやつなのだろうか。あまりにも都合が良すぎる爆発の仕方だよ。

 これでは、店内に入れない。


「ま、私も魔法使いらしいから? やってみましょうか!?」


 右手を前に突き出し、目の前の障害物が消えるようにイメージする。

 すると、崩れて落ちた商品や、壁の残骸などが瞬時に消え失せた。


 店内は、想像以上に荒らされていて、薄暗い。

 まだ昼間だというのに、おかしいな。

 疑問を抱えながらも足を踏み入れれば、入り口が再び封鎖された。

 どうやら、これは事件のようだね。

 意図的に攻撃されているらしいよ、少年。


「少年、そばかす少年? どこにいるんだい。

 あぁ、今さっき私に攻撃した人間はお呼びじゃないから少し待っていてくれたまえ」


 うんうん、こんな危機的状況の中、何を自由に歩いているんだ、もう少し身を潜めたりして慎重に動け! という君の考えは手に取るようにわかるよ、クマさん。

 でもね、私はこれでも強いのさ。昔いろいろあった、と君には言っただろう?


 私がクマさんにこっそりとお話すれば、クマさんは少し大人しくなる。

 うんうん、良い子は好きだよ、私。

 悪い子も嫌いじゃないけどね?


 そこで、右腕に焼けるような熱さを感じた。しかも、点のように小さな部分。

 見れば、そこからは血液が流れている。

 どうやら、音もなく撃たれたらしい。音をなくす系の魔法でもかけてるのかな?


「やだなぁ、私、攻撃なんてした覚えないのに。なんて野蛮なんだ。

ねぇ、もっとしっかり伝えるからよぉく聞くんだよ?

私は君たちに何かしたいわけではないよ。君たちが誰だか知らないし。

ただ、私はここにいるはずの少年を助けたいだけなのさ。ちょいとお気に入りだからね。

さっさとここから出ていくから、もう少し待って」


 言い終わる前に、もう一発。

 今度はクマに当たりそうだったので、慌てて右腕でかばった。


「……なんだ、人間かと思ったら、ただのモンスターか。

思考能力を持たない生命体だね? なら、いいか」


 私は、目を閉じてこの場所に存在する生命体を確認する。

 一つは、私の腕の中。そして、それ以外に三つの生命体がこの部屋の中にいる。

 さらにあと二つが、この奥にある階段に。

 おそらく、階段にいるうちの片方が、あの少年だ。


「うんうん、モンスターは全部で四体! 楽勝だね!」


 満面の笑みで私がそう言い切れば、息をのむような音が聞こえた。

____後ろか。



 私はクマを鞄の中へ突っ込み、同時に短剣を取り出した。

 後ろにいた敵がこちらに斬りかかろうとしていたので、私は短剣で受け止め、体をひねって回し蹴りをキメる。相手の腹部に強く当たったらしく、相手は吐き気を催しながら地面に崩れ落ちる。

 そのまま首の後ろにも踵落としをキメて、意識を失わせてあげた。


「やだなぁ、たいして強くないのかぁ。私のスキルが全然上がらないじゃないか」


 物陰に潜んでいる、銃を持った人型の生き物に向けて、私は手で銃の形を作る。


「ばぁん」


 気の抜けたような声で、銃声の物まねをする。

 私の手からは、光の玉で出来た銃弾が飛び出す。それはまっすぐ飛び、銃を持つ人の方向へと向かう。


「はっ、そんなんじゃ俺に当たんね」


 光の銃弾は、男ではなく、男が隠れていたものに当たる、かと思いきや、その障害物を通過した。

 さっきまでの威勢はどこにいったのやら。情けない悲鳴を上げて床をのたうち回っているよ。


「馬鹿だね。何の仕掛けもなくただ適当に撃つわけないじゃないか。

というより、まず私の手から銃弾が出たことに驚きなよ。本当に馬鹿だねぇ」


 口角を上げながら、まだのたうち回る情けない男を横目で見て、それからまだこの部屋に残っている人に目を向ける。


「やぁ、君。私の話を聞かなかった愚かなモンスター

奥にいるのがボスかい? お願いだからさぁ、ボスに話しをするように呼び掛けてよぉ」


 ぶりっこのように、体をくねくねしながら言ってみた。

 相手は案外嫌そうな顔をしていない。というより、無反応だ。つまらない。


「話をするつもりなどないと、お前は最初から気づいていただろう」


 無表情のままの、その男性。

 彼は、武器らしいものは何も持っていない。体術が得意なのだろうか。

 それか、特殊な仕掛けを持っているとか?


 まぁ、そんな事は関係ない。

 だって


「まぁね。だからこそ私も君たちと戦ってるってわけよ」


 眠らせてしまえば、何もできやしないんだから。

 頭の中で、相手が眠るイメージをする。静かに、傷はつかないように……だけど強力なもの。


 相手の男性は、目を見開いた後、静かに倒れていった。

 私がそばに駆け寄って様子を見てみると、確かに眠っている。

 良かった、ちゃんと死なせずにできた。


 ミッションコンプリート! ってね!


「くそ、何なんだ、お前……!」


 さっきまで床の上を転がりまわっていた男性が、苦しみながらも私に毒づく。

 私はそちらを見ながらニンマリと笑ってあげた。


「私はどうやら、魔法使いらしいよ?」


 そう言って、私は彼も眠らせてあげた。

 さ、あと一人だ。


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