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ゆめ色の野球帽  作者: カイトの冒険の中の人
3/5

Scene3

 「すまなかった……俺、ついお前が羨ましくって」

 涙を拭う少年に謝ると、三崎は何一つ偽ることなく、心の中にあるものを吐露しはじめた。

 「お前には、その……将来の夢とか、心からの笑顔とか……俺が無くしてしまったもの、全て持っているから……」

 三崎は唇を噛み締めると、先を続けた。

 「今の俺が、あまりにもみじめに思えた。情けなかった……本当にお前と同じ人間なのかって。だから……」

 「……グラウンド」

 席を切ったような弁明に終止符を打つように、少年がぽつりと言葉を発した。

 「グラウンド?」

 三崎の反芻に小さく頷くと、少年は力強い瞳を向ける。

 「僕らがいつも野球をしてたグラウンド……覚えている?」 

 贖罪の機会を与えられた三崎は、思い出の倉庫から何とかそのグラウンドを引っ張ってくると、少年との記憶のシンクロニティを図った。

 「川原沿いにあったやつのこと?」

 少年は大きく頷くと、三崎を見上げる。

 「行こう」

 悲しみに濡れる瞳でまっすぐに三崎を見ると、少年は力強くそう言った。

 少年が何を求めているのかは痛いほどわかっていた。自分が今すぐにでもそれに応えなければいけないことも……

 「でも、今は仕事中だし、それに……」

 少年の何十年先の現実を生きている三崎は、グラウンドがどういう末路をたどったのかも知っていた。

 「あのグランドはもう取り壊されて、今はマンションに……」

 「それでもいい、だから行こう……」

 三崎の声を遮るようにそう言うと、少年は懇願する。

 その願いを拒むことはもうできなかった。

 「わかったよ」

 三崎はしぶしぶに頷くと、ウインカーを出して渋滞から車を脱出させた。

 ――好きにすればいい。それで納得するのなら……

 半ば諦めたように自分に言い聞かすと、少しだけ気持ちが楽になる。

 バックミラー越しに見える、微動だにしない車の列に優越感を感じると、気づかぬうちに口元が綻んでいた。

 悪戯をする子供のように少し楽しい気分になると、日常と文明から逃げ出すようにアクセルを踏み続けた。

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