Scene3
「すまなかった……俺、ついお前が羨ましくって」
涙を拭う少年に謝ると、三崎は何一つ偽ることなく、心の中にあるものを吐露しはじめた。
「お前には、その……将来の夢とか、心からの笑顔とか……俺が無くしてしまったもの、全て持っているから……」
三崎は唇を噛み締めると、先を続けた。
「今の俺が、あまりにもみじめに思えた。情けなかった……本当にお前と同じ人間なのかって。だから……」
「……グラウンド」
席を切ったような弁明に終止符を打つように、少年がぽつりと言葉を発した。
「グラウンド?」
三崎の反芻に小さく頷くと、少年は力強い瞳を向ける。
「僕らがいつも野球をしてたグラウンド……覚えている?」
贖罪の機会を与えられた三崎は、思い出の倉庫から何とかそのグラウンドを引っ張ってくると、少年との記憶のシンクロニティを図った。
「川原沿いにあったやつのこと?」
少年は大きく頷くと、三崎を見上げる。
「行こう」
悲しみに濡れる瞳でまっすぐに三崎を見ると、少年は力強くそう言った。
少年が何を求めているのかは痛いほどわかっていた。自分が今すぐにでもそれに応えなければいけないことも……
「でも、今は仕事中だし、それに……」
少年の何十年先の現実を生きている三崎は、グラウンドがどういう末路をたどったのかも知っていた。
「あのグランドはもう取り壊されて、今はマンションに……」
「それでもいい、だから行こう……」
三崎の声を遮るようにそう言うと、少年は懇願する。
その願いを拒むことはもうできなかった。
「わかったよ」
三崎はしぶしぶに頷くと、ウインカーを出して渋滞から車を脱出させた。
――好きにすればいい。それで納得するのなら……
半ば諦めたように自分に言い聞かすと、少しだけ気持ちが楽になる。
バックミラー越しに見える、微動だにしない車の列に優越感を感じると、気づかぬうちに口元が綻んでいた。
悪戯をする子供のように少し楽しい気分になると、日常と文明から逃げ出すようにアクセルを踏み続けた。