Act9:母の残したモノ
※NoSIDE
森はざわめく
新しい侵入者を見て――……
それは、この世界の幸せが――
崩れることを示していた――……
「罹藺さん……あの……質問よろしいですか?」
昼愛が訊ねた。
何だ?と、罹藺が昼愛の方を振り返り見る。
「あの……住む所はどうしたらいいでしょう?」
「ここに住めばいいじゃん」
罹藺は断言した。
しかも、質問して1秒もしないうちに。
「え?」
「ホントに!?」
驚く昼愛と夕真。
「だいたい、天驟雨の奴に住まわせろって言われてるし。
お前らの力が何時開花するか分かんねぇから、保護者役だとさ」
「そうなんですか!」
「やったね、昼愛!これでウチらが野宿する必要なくなったよ!」
キャッキャッとはしゃぐ二人。
「…………マジで?」
突如、二人の後ろから声がした。
その声の主に気付き、二人は後ろを振り返る。
「明華、いたの!?」
「うん、さっき読み終わったから!」
そう笑顔で言う明華の後ろには、高く高く積まれた本の山。
罹藺の家に着き、明華が本を読み始めてから、今で1時間ちょうど。
「ま、明華にしてはよく戻ってきたね、現実に。ウチは褒め称えてあげるよ」
「この前なんて、半日、本の世界から帰って来なかったものね?」
以前、一度本を読みだすと止まらず半日で市の図書館の3分の1を読み終えた明華を思い出し、
二人は冷やかな目線を明華に向ける。
「ははは………」
そんな二人の目線に対し、苦笑いになる明華。
しかし、すぐに真面目な顔を二人に向ける。
「………あのさ、アタシ、見つけたよ。この世界の救出方法」
「……え………?」
「マジ……?」
いきなり、そう切り出した明華。
明華の手には、一冊の本。
「この本。これに書いてあったの。この世界を救う方法」
その本の表紙は――真っ白で。
何も書かれていなかった。
「その本は、お前らの母親が書き残した物だ」
罹藺がそう言った。
明華は、最後のページを昼愛と夕真に見せる。
「これって………」
「母さん……?」
最後のページに書かれていたこと、それは――
『To my dear daughters.――我が親愛なる娘たちへ――
夕真、母さんは夕真のことを忘れたことは無かったんだから。
また会いたい……また、夕真に会いたい……会いたい……
昼愛、貴女は私に似て綺麗なのよ?嘘じゃないわよ、本当なんだからね
大きくなると、父様にも似てきたかな?……あのね、昼愛は私の宝物よ
明華、寂しい思いをさせてゴメンね、最低な母親でゴメンね。本当にゴメンね
でも、大好きよ、明華。あたしの娘に生まれて来てくれて、ありがとう
三人で≪裏の世界≫と≪表の世界≫を救ってね
……また、貴女達と会いたかったお喋りしたかった一緒に買い物に行きたかった……』
「……母さ、ん……っ」
「……っ……お母様……」
泣き出し、顔を覆う夕真と昼愛。
そんな二人を見て、そっと窓を開ける明華。
「……泣いてちゃ、ダメだよ?……確かに、忘れれないけどさ、でも……
ここで、お母さんたちが生きてたことは間違いないんだから」
柔らかな風が窓から入ってくる。
そして、泣きだしてしまった二人をふわりと包み込んだ。
まるで――泣いてしまった我が子を母親が抱き締めるように。
「……罹藺さん、救済法の話は、また明日しましょうか」
床に座り込んで、泣きやむ気配のない二人を見て、明華は呟いた。
「そうだな、明華。でも、救済法についての資料は地下室にも沢山あるの知ってたか?」
「あぁ、大丈夫です。地下室の資料も3分の2ほど読み終わりましたから」
「……………………」
「罹藺さん?」
「あ、あぁ……悪ぃ、考え事だ」
黙り込んだ罹藺を心配する明華。
罹藺の考え事とはもちろん―――
(何でコイツ本読むのが異様に速いんだよ……軽く人間の限界超えてるだろ!?)
と、いうことだった。
遅くなり申し訳ありませんでした!
本当は、10月中に更新するつもりだったのですが……
本当にすいません!
それでは、また2〜3ヵ月ほど姿を消すかもしれませんが
ご愛読ありがとうございます。
零灑