最終話
翌日あたしたちは北門に集合した。
あたしは昨日のうちに装備を変更した。
杖を冒険者の杖か回復を重点に置いたまんま僧侶の杖に。
冒険者の服は僧侶に見える白をベースにした修道服に、その上から革の胸当てを装備した。
サーヤもあたしと一緒に買い物をしたので基本は同じだ。
杖は攻撃魔法力を上昇する魔術師の杖に。魔術師の服の上から革の胸当てを装備した。
唯ちゃんも強化ウルフレザーの胸当てに、革の籠手と脚当てに装備を変更していた。
ケインズたちも防御を重点に置いた鎧を装備してきた。
ザックは速度を重視する盗賊だからなのか装備に変更は見当たらなかった。
「よし! 全員そろったな。では出発だ!」
北門を抜けた山脈への街道を通って採掘場近くの森でレベル上げをする。
さすがに北のモンスターは強かった。
おかげで1時間そこそこで全員Lv18を超えていた。
そしてあたしたちはメガル採掘場に向かう通り道に門番のように佇むロックゴーレムに挑戦した。
結果として全滅だった。
「ちくしょー! あともうちょっとだったのに!」
「もうちょっとも何も、容赦なく叩きのめされたじゃない。」
初心者広場で復活したあたしたちは再び冒険者ギルドに集まって反省会をしていた。
カイドウは状況が分かってないのか熱血漢よろしくもうちょっとだったと熱弁を奮ってた。
「大体ね、カイドウがあたしの指示を無視してロックゴーレムに突っ込んでばかりいるからヒールかけまくってMP切れをおこしたんじゃない。」
「む、俺の熱き血潮は生半可な事じゃ止まらないのだ!」
「うわぁ・・・」
引いてますよカイドウさん。サーヤですら引いてます。
「ザックもヒット&アウェイだけじゃなくて、もっと積極的に攻撃してもいいんだよ。相手はロックゴーレム1体だけなんだから。ロックゴーレムの攻撃はケインズが引き受けてるんだし。」
「・・・む、すまん。あの巨体相手だとちょっと怖くてな。」
無口チャラかと思ったら実はビビりキャラだったの?
「待て待て待て待て。俺がPTリーダーだ。俺が指示を出す。みんなは俺の指示に従うように。ベルザは余計なことはしない。いいね。」
「だったらちゃんと指示出してよ。戦闘ではちょっとの迷いでもそれが一瞬の隙につながるのよ。」
「分かってる、分かってるから皆まで言うなよ。」
そう、先の戦闘ではPTリーダーのケインズがパニックになったのか指示は躊躇う、出鱈目な指示を飛ばす。
カイドウは防御も何も考えずに突っ込みまくるし、ザックはちまちましか攻撃しないし。
「ベルザは俺たちのことを指摘するけどサーヤだって全然攻撃してなかったじゃないか。」
「あのね、サーヤはカイドウが邪魔で攻撃ないのよ。」
「ん? PTを組んでいれば味方の攻撃でHPは減らないんだろう?
だったら俺にお構いなしに魔法を撃てばいいじゃないか。」
「はぁ、HPは減らなくても衝撃はあるでしょう。
それにいくらゲームとはいえ人に向かって魔法を撃つなんてサーヤはそこまで図太くないのよ。」
「ふむ、そういうものなのか?」
「そういうものなの。女の子はデリケートなのよ。」
カイドウは納得いかなそうな顔をする。
「それで? この後どうするの?」
唯ちゃんもこの熱血バカを相手にしたくなかったのか、今まで黙っていたけどここで口を開く。
「もちろん今から再挑戦するよ。」
「「は?」」
ケインズがさも当然のように答える
あたしと唯ちゃんはさすがにこれには唖然とした。
「ちょ、ちょっとまだデスペナ付いてるのよ!? なのにまた挑戦するの!?」
AI-Onでのデスペナルティは、1度死ねばそのレベルの経験値がゼロになる。そしてデスペナルティのBuffが24時間付く。
デスペナルティのBuffが付いた状態で死ねばレベルが1下がる。
つまりAI-Onでは一度死亡すると1日デスペナが取れるまで休むのが普通だ。
「何、今度はLv20まで上げてから挑戦する。だったら問題ないだろう?
それに死ななきゃいいんだ。俺たちなら出来るさ。」
問題ありまくりなんですけど・・・
ケインズってどうも自己顕示欲の塊みたい。
俺ってすごいんだぜ、もっと褒め称えろみたいな感じで、そのせいか物事をよく考えてない傾向があるなぁ。
唯ちゃんがこっそり耳打ちしてくる。
「どうするの?」
「多分言っても聞かないだろうから、行くしかないけど。もう一度現実を見れば分かるんじゃないかな?
経験値やレベルは惜しいけど。本当に死んじゃうわけじゃないからね。」
「そう、分かったわ。ベルちゃんがそう言うなら。」
「よし! リベンジだ! 出発しよう!」
「よっしゃー! 行くぜ行くぜ行くぜーー!」
あたしたちは再びロックゴーレムに挑戦しに向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あたしたちはレベルを20にまで上げて再びロックゴーレムに挑戦していた。
「カイドウ下がれ! サーヤ援護!」
「はい! ウォーターランス!」
水の槍がロックゴーレムに突き刺さる。
ダメージをそこそこ与え衝撃でロックゴーレムを数歩下がらせる。
その隙をついてカイドウの反対側から唯ちゃんが攻撃を仕掛ける。
ケインズの指示は今度は上手くいっていた。
カイドウも指示には従って行動している。
・・・さっきまでの熱血バカはどこに行ったの?
出来るなら初めからそうしなさいと言いたい。
お互いの連携がうまく取れていて戦闘は順調に進んだ。
ロックゴーレムのHPが1割を切り始めたころ、攻撃パターンが変化する。
よくゲームとかにある瀕死の状態になると起こる怒り現象だ。
「グゴゴゴゴ!」
ロックゴーレムの左右の拳の攻撃が連続でケインズに迫る。
ケインズは盾を構えて防御の体制をとる。
「ぐぅう!」
ケインズのHPがどんどん削れていき慌てて回復魔法をかける。
「ヒール!」
「野郎! 調子に乗ってんじゃねー!」
「あ、バカ! むやみに突っ込まないでよ!」
熱血バカの血が騒いだのかカイドウがまた指示を無視し始める。
今ここで連携を崩されるとさっきの二の舞だってのが分からないの!?
「男には無駄だと分かっていても行かなきゃいけない時があるんだよ!!」
ちょっとなにそれ!?わけ分かんないんだけど!?
というかそのセリフの使いどころ間違ってない!?
カイドウは上段から剣スキルの戦技を発動しようとする。
が、さっきの熱血バカのセリフに無意識に挑発スキルを使ったのか、ロックゴーレムは標的をカイドウにし、左の拳を放つ。
当然戦技のモーションに入っていたカイドウには避けることが出来ない。
「くっ! マテリアルシールド!」
あたしはとっさに切り札の一つ無属性魔法の盾魔法を放つ。
マテリアルシールドは1秒間だけ物理攻撃を無効にする。
当然強力な魔法なだけに待機時間も長い。この戦闘ではもう使うことが出来ない。
ロックゴーレムの拳が一瞬止まった隙にカイドウの戦技が放たれる。
拳が止まるのは一瞬なのでカイドウの攻撃が決まると同時にカイドウにも攻撃が当たる。
「ヒール!」
弾き飛ばされるカイドウにヒールをかけると同時にロックゴーレムの脚に雷属性付与魔法の設置型魔法をかける。
カイドウの攻撃が決まると同時に反対側から唯ちゃんが攻撃を仕掛けるのが見えたのだ。
「サンダーボム!」
「三連閃!」
槍スキルの三連突きがロックゴーレムの脚に突き刺さる。
同時に唯ちゃんの攻撃を受けた設置型魔法のサンダーボムが弾ける。
「グゴガガガ」
ロックゴーレムの片足が崩れ倒れそうになるが、ロックゴーレムが片手を付き何とかバランスを保とうとする。
そこをチャンスと見たケインズは盾ごとの体当たりをぶつける。
「うぉぉおおお!」
ズウゥン
倒れたロックゴーレムから距離を取ってケインズは叫ぶ。
「サーヤ! 今だ!」
「はい! バーストフレア!」
火属性魔法がLv20になってから覚える空間一点発動型魔法だ。
倒れたロックゴーレムの頭上に赤い光が集い始め、次の瞬間赤い光の球を中心に爆炎が巻き起こる。
「グ・ゴ・ガァ・ガ・ァ」
爆炎が収まるころにはロックゴーレムが崩れ落ちるところだった。
そのまま起き上がる気配はなく、ロックゴーレムのHPを見るとゼロになってた。
「よっしゃー! 倒したぜ! さすが俺たち!」
「ふっ、俺の指示が的確だったからだね。リーダーの才能を示す相応しい戦闘だったよ。
」
「・・・倒してみるとたいしたことないな・・・」
男どもははしゃいで好き勝手言ってる。
「あ~あ、今の戦闘に勝てたのはベルちゃんの的確なサポートがあってこそなんだけどね~
そこに気づけって言うのも酷な話かな?」
あたしのそばまで来ていた唯ちゃんがぼそっと呟く。
「あはは、あの人たちは我が道を行ってるから難しいかもね。」
サーヤもなかなか辛辣なことを言うね。
「でも、こんなバカやってる仲間もいいのかもしれないね。楽しまなきゃ損だしね。」
「そうかもね。」
「せっかくのゲームだもんね。」
あたしの言葉に唯ちゃんとサーヤは頷く。
PTが全滅した時は不安だったりした。これからもうまく纏まってやっていけるのかと。
けど今のバカ騒ぎしてる男どもを見るとこれもまた楽しみ方の一種なんじゃないかと思った。
そう前向きに考えていたのもつかの間、この後に流れたアナウンスによりあたしたちのPTは大きく変わる。
それにより、あたしの人生も大きく変わることになる。
あたしだけではない、サーヤ、唯ちゃん、その他大勢の人の人生が狂う。
――エンジェルクエスト・Stertがクリアされました――
――エンジェルクエスト・Stertがクリアされたことにより、エンジェルクエストをグランドクエストに認定しました――
――グランドクエストが認定されたことによりシステムの一部を変更します――
――システムの一部変更によりログアウトが不能になりました――
――システムの一部変更によりゲームでの死亡が現実での死亡になりました――
――システムの一部変更により――
Web小説とかであるデスゲームの始まりだ。
そしてあたしは暫くして彼と再開する。
彼との再会は本当の仲間との出会いにも繋がる。
あたしの鳴沢鈴としての人生は終わり、ベルザとしての運命が始まる。