第三話
セントラル城を中心に広がる王都セントラル。
王都には東西南北に大きな門が設置されており、そこからそれぞれのエリアが広がっている。
北には鍛冶に必要な鉄鋼などが取れる白霊山を連ねる山脈。
西には海と間違わんばかりのクリスタル湖と湖の南半分を隠すような広大なサンオウの森。
南には初心者用ともいえるが奥には屈強なモンスターを有する始まりの森。
東には何故か鉄鋼などが取れる岩が点在する野生モンスターの溢れるロック平原。
あたしたちは唯ちゃんと出会った次の日ロック平原に狩りに来ていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「上手なお金の稼ぎ方はね、冒険者ギルドを利用することだよ。」
唯ちゃんのお勧めであたしたちは王都の北西地区にある冒険者ギルドを訪ねることになった。
「冒険者ギルドってWeb小説とかに出てくるあの冒険者ギルド?」
「うんそうだよ。ベルちゃんはその手のお話は好きなの?」
「うん。その影響かな~、VRMMOとかにのめり込んだのは。」
たまたま見つけたWeb小説にはまったあたしはVRMMOに興味を覚えてお兄ちゃんのアドベントを勝手に使用し始めたのだ。
最初のころは小説のように上手くいかず現実との違いに戸惑いながらもLoWをプレイしてきた。
今となってはそれらもいい経験になっている。
「あはは、唯も似たようなものかな。」
「ギルドが存在するってことはあたしたちプレイヤーが作るギルドは無いのかな?」
「ううん、大丈夫存在するよ。
今行く冒険者ギルドはNPCとかが依頼をするクエストがあるシステムギルド。で、プレイヤーが作るグループの集まりがプレイヤーギルドって区別してるの。
普通は冒険者ギルドとギルドで分けて呼んでるけどね。ギルドを作るなら冒険者ギルドで手続きをするんだよ。」
Web小説とかにある異世界もの定番の冒険者ギルドもあれば、MMOにあるギルドも存在するなんてAI-Onは変わったことしてるね。
「AI-OnはAIが売りじゃない。この世界のNPCも普通の人間と変わらないのよね。だから冒険者ギルドのクエストも多種多様、同じクエストが無いといってもいいわ。」
「うん、この世界のNPCは凄いわよね。あたしLoWをプレイしてたんだけど、LoWのNPCは会話のパターンは複数あるけどテキスト通りにしか話しないからなんか人形と話してる感じしかしなかったのよね。」
「うん、あたしもびっくりしちゃった。ベルちゃんに聞くまでNPCの中に人が入ってると思ってたもん。」
あたしは昨日サーヤがNPCとは知らずにちぐはぐな会話をしていたことを思い出し笑う。
昨日のことを笑われてるのに気が付いたサーヤは顔を真っ赤にする。
「あー! ベルちゃん笑うなんて酷いよ~!」
「あはは、ごめんごめん。
唯ちゃん、冒険者ギルドでクエストを受けてお金を稼ぎつつ、経験値も稼ぐ。これがAI-Onでの遊び方なのね。」
「うん、他にもいろいろあるけど、βテストではこのやり方が一般的だったわね。」
「よし、じゃあ割のいいクエストを受けてじゃんじゃん稼ぎましょうか。」
「「おー!」」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
冒険者ギルドではまだ人がたくさんいるであろう始まりの森のクエストは避けて、ロック平原に現れるボアファングとブルホーン、ジャイアントラットなどの討伐クエストを受けた。
ちなみに冒険者ギルドのクエストにはWeb小説とかにあるランクは存在せず、自分で強さを見極めてクエストを受けるみたいだ。
「旋風閃!」
「ファイヤーアロー!」
唯ちゃんの槍スキルの戦技がジャイアントラットを弾き飛ばしていく。
ジャイアントラットが弾き飛ばされたところを狙ってサーヤの炎の矢が降り注ぐ。
かろうじて生き残ったジャイアントラットはあたしのエネルギーボルトで片づける。
「ふぅ、とりあえずこれでクエスト完了ね。
どうする? このままクエストとは別に経験値稼ぎをする?」
「唯はこのままここで狩りをしても大丈夫だよ。」
「うん、あたしもこのままでOKだよ。また冒険者ギルドまで戻ってまた来てって時間のロスだからね。」
「だから複数のクエストを同時に受けるんだけど、さすがに2・3のクエストじゃあっという間ね。だからと言って大量にクエストを受けると他のプレイヤーにも迷惑がかかるしね~。」
AI-Onは他のMMOと違って同じクエストが何度も受けられるわけでない。
前にも言った通りNPCが人間と同じように生活している。
普通に生活している人間が同じクエストを何度も依頼するのもおかしな話だからだ。
ドラゴン退治のクエストなんかが何度も受けられると、どんだけドラゴンが湧いてきているんだってなっちゃうからね。
まぁ、ゲームではそれが普通なんだけど、NPCにしてみればとんでもなく迷惑な話なんだよね。
あたしたちがそのままロック平原で狩りを続けていると男3人組のPTがこちらに向かってくる。
「やぁ、もしよかったら俺たちと一緒にPTを組んでくれないかな?
回復役が居なくて困ってるんだ。」
男3人組のPTを見たところ、話かけてきたリーダーと思われる剣と盾を持った戦士と両手剣を持った戦士、最後は武器は短剣を持っていることから盗賊と思われる。
「ベルちゃんどうする? 唯は構わないけど。」
「あたしもベルちゃんに任せる。」
あれ?いつの間にあたしが決定権を持つリーダーっぽくなってない?
「んー、いいわよ。あたしたちももう少し戦力が欲しいところだったからね。」
前衛3、火力1、回復1、遊撃1のやや前のめりだけど、バランスの取れたPTになるからね。
「おお、助かるよ。俺はケインズ。こっちの両手剣の奴がカイドウ、そっちの盗賊がザック。」
「カイドウだ、よろしく頼むぜ。」
「・・・ザックだ。よろしく。」
カイドウさんは熱血キャラ、ザックさんは無口なキャラっぽい感じだね。
「あたしはベルザ、僧侶です。そっちの魔術師はサーヤ。槍持ちだけど武闘士の唯ちゃん。」
「サーヤです。初心者なのでよろしくお願いします。」
「唯牙独孫です。唯って呼んで下さい。」
「あはは、これから仲間になるんだから敬語はいいよ。名前も呼び捨てでも構わないよ。
ところでそっちのPTリーダーは? PTを組むんだからちゃんとリーダーを決めておかないとね。」
そこであたしと唯ちゃんはお互いの顔を見る。
先ほどの流れから行くとあたしがリーダーなんだろうけど、特に決めてなかったからね。
「えっと、特にリーダーは決めてなかったの。だからケインズにリーダーをお願いしてもいい?」
「はっはっは、任せたまえ。俺は優秀なリーダーだからな。」
「よく言うよ。優秀じゃなくて優柔不断のリーダーじゃないのか?」
カイドウが笑いながら突っ込む。
「む、カイドウこそ熱血ヒーローごっこもほどほどにしとけよ。」
「おい、誰がごっこだよ。」
「ふん、だったらこれからの戦闘でお互いの実力を彼女たちに判断してもらおうじゃないか。」
「よし! 望むところだ!」
あたしたちを余所に彼らの話が進んでいく。
「・・・気にするな。奴らはいつもこんな感じだ。」
ザックがぼそっと呟く。
「これは・・・なんか苦労しそうね・・・」
あたしの呟きに唯ちゃんとサーヤも頷く。
この後あたしたちは6人でロック平原で狩りをした。
さすがに6人もいると狩りも安定した。
ケインズがメイン盾となってカイドウと唯ちゃんが横合いから攻撃。
あたしとサーヤが後方から回復と魔法攻撃。
ザックが他のモンスターの牽制。
特にピンチになった時のあたしの詠唱破棄のヒールが大活躍した。
うん、詠唱破棄めちゃくちゃ使える。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夜の狩りはデメリットが多いということで夜間戦闘は行わずアイテム等の清算をして、あたしたちは冒険者ギルドの食事テーブルで明日の予定を立てる。
うん、さっきログアウトして夕食を食べてこっちでも食事をするのってなんか変な感じ。
お腹は膨れてるから簡単なつまみみたいなものだけどね。
「明日は北の白霊山脈のふもとの採掘場に行こうと思う。」
「え? ちょっと待って。北の採掘場ってメガル採掘場? 無茶よ!」
ケインズの今後の方針に唯ちゃんが慌ててストップをかける。
確か北って高レベルモンスターのエリアのはず。
「唯ちゃん、北ってモンスターのレベルが高いんだよね? 今のあたしたちがそんなとこ行って大丈夫?」
「いや、ふもとのメガル採掘場はそんなにモンスターのレベルが高くない。むしろ鉄鉱石や宝石などが採掘されるから序盤のお金稼ぎには最適なんだ。」
「そうそうあそこはいい稼ぎ場なんだよ。経験値もね。」
唯ちゃんの代わりにケインズとカイドウがあたしの問いに答える。
北の情報を持っているってことは2人ともβプレイヤーなのかな?
だけど唯ちゃんは苦みをつぶした顔している。
「確かにメガル採掘場は序盤のいいお金稼ぎよ。けどそこまで行く途中のユニークモンスターのロックゴーレムはどうするの? あれはLv20以上必要よ。」
今のあたしたちのレベルはケインズと唯ちゃんが16、あたしとカイドウとザックが15、サーヤが14だ。
確かにとてもじゃないけどレベルが足りない。
「大丈夫だよ。採掘場までのモンスターでレベル上げをして、Lv18くらいでならロックゴーレムを倒せる計算だよ。切り札はベルザの詠唱破棄。」
「え? あたし!?」
突然の名指しにびっくりする。
「そう、ベルザの詠唱破棄があれば即時回復可能だからね。ベルザは回復を中心に魔法を使って、俺たちが波状攻撃を仕掛ける。うん、完璧だね。リーダーの命令だ、従ってもらうよ。」
ケインズが満足そうに頷くけど、あたしも唯ちゃんと同じく不安だ。
MMO-RPGにおいて安全マージン確保は重要だ。
あたしはそれをLoWでいやって程学んでいる。
「はぁ、唯としてはLv20以上になってから行くか、他の誰かがロックゴーレムを倒すのを待ってから行くのがベストだと思うんだけどね。」
「おいおい、それじゃユニークモンスターのドロップ品もらえねぇーじゃんか。」
「えっと、ユニークモンスターって?」
さっきからの会話についてこれなかったのか、サーヤが遠慮がちに聞いてくる。
「ユニークモンスターってのは固定された、決められた1回しか出てこないモンスターよ。
ボスみたいなものね。AI-Onではボスは他に設定されているから厳密に言えば違うけどね。」
「そそ、ユニークはボス並だからドロップ品もいいのが手に入るんだぜ!」
親指を立ててビシッとポーズを決めるカイドウだけど、うん、似合ってない。
あたしの答えにサーヤは不安になったみたいだ。
「ボス並ってことはすごく強いんでしょ? 大丈夫なのかなぁ~」
「大丈夫だよ。勝算はあるんだ。このまま駆け上がってトッププレイヤーまで行こうぜ。」
この後、お互い装備をそろえて明日の朝北門に集合することにして解散となった。