第二話
Angel In Onlineのスタート地点となる都市の名は王都セントラルといい、中央に大きな西洋風の王城が立っている。
王城から東西南北に大通りがまっすぐ延びており、それぞれ東西南北の門につながっている。
南通りの中央に広がる初心者広場に降り立ったあたしは早速南門に向かう。
そこで綾ちゃんと待ち合わせをしているのだ。
南門に着いたあたしは周りを見ると長身の女性を発見する。
リアルの綾ちゃんの身長はあたしと同じくらいなんだけど、AI-Onではランダムで身体が決定されるので綾ちゃんではないとは言い切れない。
恐る恐る近づいて話しかける。
「え~と、綾ちゃん?」
「あ! 鈴ちゃん? よかった~1人でさびしかったよ~」
ほっ、良かった、綾ちゃんで合ってた。
しかし、改めて見ると身長は180cm位かな?髪は銀髪で腰まで伸びていて、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
顔立ちも美人の部類に入るんじゃないかな。
ぱっと見モデルそのものだ。
「は~、それにしても現実とのギャップがある身体を手に入れたね~」
「うん、なんか自分じゃないみたい。いろんな人が声を掛けてくるんでびっくりしちゃった。」
「あはは、それだけモデル体型だとね。
あ、名前はどれにした? あたしはベルザ、ベルって呼んでね。オンラインゲームではリアルネームはまずいからね。」
「あたしは最初の予定通りサーヤにしたよ。」
お互いのキャラネームを聞いてフレンド登録をし、パーティーを組む。
「ところでサーヤの職業は何? 杖を持っているから魔法職だとは思うけど、まさか僧侶じゃないよね?」
さすがに僧侶2人のPTは無理があるからね。
「ううん、あたしの職業は魔術師だよ。」
「そっか、それならまだ大丈夫かな。前衛はあとで探すとしてとりあえずサーヤに戦闘のイロハを教えなきゃね。」
「うん、初心者だからよろしくね~」
南門を抜けて近くの森―始まりの森に来たのだけど・・・
「わ~、たくさん人がいるね。」
「だね。」
さすがオープン初日ということもあって始まりの森にはたくさんの人が居た。
あたしたちは他の人に邪魔にならないよう端に行って戦闘をする。
「はい、じゃあ早速あのホーンラビットを1人で倒してみてね。ファイヤーボール2・3発で倒せると思うから。」
「は~い。」
サーヤは早速呪文を唱えてノンアクティブモンスターのホーンラビットに向かってファイヤーボールを放つ。
ファイヤーボールの当たったホーンラビットはこちらを敵とみなし向かってくる。
「え? きゃ!」
2発目を放とうと呪文を唱えていたサーヤは突然向かってきたホーンラビットに驚いて呪文失敗をする。
その後も呪文を唱えようとするがホーンラビットの攻撃に怯えて呪文を唱えることが出来ないでいた。
ちょっとまずそうな感じになったので手助けする。
「ヒール!」
とりあえずサーヤにヒールをかけてHPを回復した後、職スキルの杖スキルの戦技・薙ぎ払いでホーンラビットに攻撃を仕掛ける。
ピギッ!
当然のごとく魔法職の非力に加えてたいした攻撃力のない杖での攻撃なのでホーンラビットにはたいしたダメージを与えてはいない。が、ホーンラビットは攻撃を受けて距離を取る。
その隙にもう一つの杖スキルの戦技・魔力増加で攻撃魔法力を増加し、詠唱破棄で無属性魔法のエネルギーボルトを唱える。
「エネルギーボルト!」
攻撃を受けたホーンラビットは消滅する。
「ふえ~ん、ベルちゃん~、怖かったよ~」
「普通のゲームと違ってVRは生身で立ち向かってるようなものだからね。ごめん、あたしの思慮が足りなかったわ。」
「ベルちゃんはよく向かっていけるね。」
「あたしも最初のころは怖かったよ。でも遊んでるうちに慣れちゃってね。
それに本来なら前衛―戦士とかが盾になってあたしたち魔法職に攻撃が来ないようになってるからね。」
「ふーん、それじゃあその前衛の人を入れて遊ぶの?」
「うん、さすがに魔法職2人だけじゃ無理があるからね。最終的には6人くらいのPTになる予定。
でもとりあえずはサーヤを戦闘に慣らさないとね。今のままだと他の人とPTを組んでも迷惑を掛けちゃうし。ここならあたしが前衛でもなんとかなるしね。」
「う、了解。何とか頑張ります。」
「うむ、よろしい。では戦闘再開!」
その後あたしたちはサーヤの戦闘に慣れるのと経験値を稼ぐので夕方までホーンラビットや、コボルト、ゴブリンを相手にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夕方になったのであたしたちは一旦ログアウトをし、夕食をとることにする。
バイキング会場に着いたあたしは野菜を中心にご飯やみそ汁をトレイに乗せる。
空いている席を探そうとしてある人物を見つける。
彼だ。
大神君だ。
思わず叫びそうになる。
AI-Onをプレイするのは知っていたけど同じ無料キャンペーンを取っているとは思わなかった。
はやる気持ちを抑えながら大神君に近づいていく。
「あれ~? 大神君? 大神君もAI‐Onのキャンペーンに応募してたんだ。」
あたしはさり気なく声を掛けて大神君の向かいに座る。
「鳴沢、こんなところで会うとは奇遇だな。」
「だね。それにしても大神君がVRMMOをやるとは思わなかったなぁ~
大神君ってどちらかというとアウトドア派に見えたんだけどね。」
「おいおい、俺は根っからのゲーマーだよ。むしろ鳴沢の方がVRMMOをやるようには見えないよ。」
「あはは、あたしがVRMMOの影響を受けたのはお兄ちゃんのせいだからね~
お兄ちゃんがアドベントを持っていてね。あたしが勝手に使ってLord of World Onlineをプレイしてたりしたんだ。」
「え? Lord of World Onlineをプレイしてたのかよ。もしかしてVRMMOはベテラン?
あれ? でもベテランならなんでこのキャンペーンに応募してるんだ?」
大神君は当然の疑問をぶつけてくる。
「んー、ベテランまではいかないけど、そこそこかな。
AI‐Onでもそのままアドベントを使おうと思ったら、お兄ちゃんが自分もAI‐Onをプレイするからってとられちゃってね。だから無料キャンペーンに応募したの。」
「なるほどね~。と言うことはお兄さんも今AI‐Onをプレイしてるってこと?」
「そうなるね。どんな名前でプレイしてるのかは分からないけどね。」
大神君に言われてお兄ちゃんのことを思い出す。
お兄ちゃん何も言わなかったからな~
普通なら一緒にプレイしようとか言うのが兄妹だとおもんだけどね。
あれ?兄妹だと恥ずかしいから一緒にプレイしないのが普通?まぁいいか。
そうそう、どうせ一緒にプレイするなら好きな人と一緒がいいよね。
うん、せっかく今相手が目の前にいるんだし、思い切って誘ってみよう。
「ねね、よかったらこの後一緒にプレイしない?」
ドキドキしながら冷静を装って声を掛ける。
あ、言った後に気が付く。
綾ちゃんも一緒だったっけ。
う~ん、一緒にプレイするくらいは普通だよね。変に勘ぐりしたりしないよね。
「ああ、もちろ・・・」
大神君は言いかけて固まる。
あれ?やっぱり何かまずかったのかな?
「あ、あ~ 折角の申し出だけどそのままプレイしたんじゃ普通すぎるから、ゲーム内での名前を聞かずにお互いを探しあわないか? その方が面白いじゃん。」
大神君が面白いことを言う。
確かにこのままじゃ普通すぎるから簡単にゲーム内で出会えるからね。
ゲーム内でお互いすれ違い、もしくはお互いの中身を知らずに一緒にプレイしたりしてお互いの正体が分かった時のトキメキ・・・うん、いいじゃない。
下手をすればお互い会わず・分からずのままの可能性もあるけど、これは一種の賭けね。
「いいね、面白そう。じゃあ何かヒント頂戴。さすがにノーヒントじゃ探しようがないからね。」
「ああ、ヒントは俺の名字の大神だ。ちょっと捻ってるから分かりづらいかもしれないがな。」
「あたしのは名前の鈴がヒントね。あたしのは捻りがないから分かりやすいかも。
うふふ、絶対見つけてあげるからね。覚悟しておいてね!」
「ああ、楽しみにしてるよ。」
大神君は「じゃあゲーム内でな」と言って立ち去っていく。
最悪ゲーム内で見つけれなくてもここでなら会う可能性もあるからいくらでもチャンスはあるしね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
再びログインしサーヤと待ち合わせをして森に向かう。
時間は8時を回っていたので辺りは暗くなっていた。
あたしとサーヤで補助魔法のライトをつけて戦闘を再開する。
さすがに暗くなると戦闘が難しいので周りで狩りをするプレイヤーは少なかった。
「ふえ~ん、夜になるとこんなにも戦闘しづらいんだ~」
「あたしは夜間戦闘は慣れてるけど、さすがに魔法職で前衛しながらってのはきついわね。」
特に夜になると湧いてくるジャイアントバットがきつい。
視界が悪いうえに空中の敵だ。攻撃が当てづらいのだ。
「ホーリーライト!」
「ファイヤーボール!」
あたしとサーヤの攻撃でジャイアントバットが消滅する。
しかしその隙にサーヤの後方からジャイアントバットが飛来する。
「あ、サーヤ! 後ろ!」
「え? きゃあ!」
ジャイアントバットの攻撃が当たると思った瞬間、横から現れた槍によってジャイアントバットは弾き飛ばされる。
現れたのは槍を持った少女だった。
身長はあたしより低い155cmくらい、髪を両サイドでお団子状ににして大きなリボンで結んでいて、革の胸当てを付けていた。
「一閃突き!」
彼女の放った槍スキルの戦技が決まり、ジャイアントバットが消滅する。
「ありがとう、助かったわ。」
「いえいえ、どういたしまして。余計な真似かと思ったけどつい、ね。」
実際、彼女の助けがなくても戦闘に慣れてきたサーヤは対応できたと思うし、あたしの詠唱破棄で即時発動できる魔法で何とかなったと思う。
「ね、もしよかったら唯をPTに入れてくれない? 唯ねβプレイヤーでソロでプレイしてたんだけど、さすがに1人じゃきつくなってきてね。ちょうどそっちも前衛が居ないみたいだしね。」
なるほどね、今の助太刀はPTに入れてもらうための口実にしたわけね。
前衛の居ないあたし達には彼女の申し出は嬉しかったし、何よりβプレイヤーというメリットが大きい。
「あたしは大歓迎だけど、サーヤは?」
「ベルちゃんがいいならあたしはOKだよ。」
「じゃあ決まりね。あたしはベルザ、僧侶よ。ベルって呼んでね。こっちの子がサーヤ。魔術師よ。」
「よろしくね~」
「唯の名前は唯牙独孫。職業は武闘士よ。唯ってよんでね。」
槍の少女の自己紹介にあたしは目を丸くする。
「あたしも人のことはいけないけど、ずいぶん変わった名前ね。しかも武闘士って、槍持ってるのに?」
槍を持ってるからてっきり戦士かと思ったんだけど。
「あはは、まぁ確かに変わった名前よね。月お姉ちゃんと鏡お姉ちゃんとおそろいで名前付けたからね。
あと槍持ちなのはサブスキルに槍スキルがあるからだね。」
ああ、槍のサブスキル持ちだったのね。ということは彼女は回避型の盾ってことね。
「ねぇベルちゃん。βプレイヤーって何?」
「んーとね、オンラインゲームにはβプレイって言って完成前のテストプレイがあって、不具合を見つけるためにテストプレイヤーを応募してるの。それがβプレイヤー。
だからβプレイヤーは正規プレイヤーより正式ではないけどゲームの情報を持ってるから凄いのよ。」
「そんなに凄い者じゃないよ、唯は。お姉ちゃんたちに付き合わされてプレイしてきただけだからね。」
唯ちゃんは謙遜気味に言う。それでもβプレイヤーの情報は貴重だったりする。
ふとそこで唯ちゃんのセリフに疑問を感じる。
「あれ? だったらお姉ちゃんと一緒にプレイした方がいいんじゃないの?」
「ううん、むしろ打倒お姉ちゃんだからね! 強くなって見返してやるの! 一緒にいたら強くなれないからね。」
あ~これは何かあったんだね~
まぁいいか。
「それじゃあ、改めてよろしくね。」
「うん、こちらこそよろしくね。」